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捨てる人あれば、拾うワン公あり  作者: 山口五日
ワンワンと聖域
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第20話 百のスキルしかない女

 ワンワンが寝たのを確認して、ジェノスの小屋の方に四人は集まった。事前に何の話をするのか聞いていないのはレイラだけでなく、ナエとクロも聞いていない。


「それで話とはなんじゃ?」


「俺達の方針に関して話そうと思ってな。それと、疑問を解消しておきたい」


「疑問とな? 何か気になる事でもあるのか?」


「ああ……お前が関係している事とは限らないが、ワンワンの【廃品回収者】の事だ」


「ふむ、人が所有権を捨てたものを回収するスキルじゃな。儂は少なくとも初めて聞いたスキルじゃ。儂もそのスキルで回収してくれたんじゃろ? いやぁ、本当に助かったのじゃ」


 ワンワンが回収していなかったら、彼女は石像に封じ込まれたままだったに違いない。そのうえ、およそ300年も経った事で、石像はいつ壊れてもおかしくない状況だった。


 ちなみにレイラから魂が解放される前に、魂を封印していたものが壊れたらどうなるかを聞いていた。過去の前例では少し皹が生えた、欠けたという程度なら問題ない。だが、先程の石像のようにバラバラに砕け散った場合は誰が魔力を流しても反応がなかったらしい。


 過去の【不屈の封印】を使用していた者はそういった事がないよう、魂を封印は金属製の決して壊れる事のないものにしていたそうだ。


 それでは、どうしてレイラが石像に魂を封印したのかというと、親族が自分の死後すぐに魔力を流して解放する手はずだったのだ。血縁関係者の魔力であれば、前例から間違いなく封印が解けると踏んでいた。


 だが、封印が解かれることはなかった。親族の誰もが魔力を流してみたが、封印は解かれることはなかったのだ。


「その【廃品回収者】だが、今回はちょっと違ってな。いつもなら誰でも読める特殊な字で回収できるものが分かるんだ。だが、今回はお前が生きていた時代の文字で現れた。何か心当たりはねえか?」


「ふむ……そういう事か。それについては【廃品回収者】に儂のスキルが干渉したんじゃと思うのじゃ」


「干渉? 確かにレイラちゃんなら、そんなスキルを持っていてもおかしくないか……」


 他人のスキルに干渉できるスキルにクロは驚くが、百のスキルを持つ女の異名を持つ彼女ならあり得ない話ではないと思い直す。


「そうは言っても変質したスキルじゃから、儂のスキルと言えるほど儂自身理解していないんじゃ。おぬしらは【神の思し召し】というスキルを知っておるか?」


「……いや、聞いたことねえな」


 ジェノスは答えると、ナエとクロを見る。すると二人も知らないらしく首を横に振った。


「そうか……。実はのう、こいつは最近になって【神託】のスキルが変質して生まれたものなんじゃ」


「【神託】は知っている。神の声を聞くことができるスキルだったな」


 【神託】は神からの言葉を聞く事ができるスキル。ただし、生きている内に神の声を聞く事ができないという事も珍しくない。教会関係者であれば神の声が聞けるともなれば、【神託】は重宝するスキルだが、一般的にはあまり使い物にならないものだ。


「【廃品回収者】は本来捨てられたもの、人間の場合は他人に命を奪われそうになった時じゃろ? じゃが、儂の石像はハナウナの自然公園に置かれていたのじゃ」


 ハナウナ。それはコルンの首都であり、そこの自然公園は街が一つ入るほど広く、様々な植物が育っている。また、害のないモンスターなども生息しているという自然公園という名に違わぬ、自然豊かな公園だ。


 ジェノスとクロは行った事があるようで、公園に石像があったか記憶を探る。


「ハナウナの自然公園か……あんなところに石像なんてあったか?」


「石像なんて見た事ないよ」


「知らぬのも無理もない。当初は親族以外からも魔力を流して貰い、封印を解こうとしておったんじゃが……300年も経てば儂の事を知る親族も死に、その事を知る者は誰も居なくなってのう。人の目にはつかない、隅の方に追いやられたんじゃ……」


 あの自然公園の隅となると、遊歩道のない森の中だ。公園のほとんどを植物が埋め尽くしている為、それらを傷付けないよう遊歩道が用意されている。しかし、遊歩道は公園の至る所に行けるように設けられているという訳ではない。


 遊歩道は見応えのある色鮮やかな花畑や、貴重な植物が見られるように設置されている。ただの木々が広がる公園の隅の方には設けられていないのだ。


 レイラは親族の魔力で封印が解けず、公園に置かれても誰にも解いて貰えず、そして公園の隅に追いやられる。度重なった絶望の瞬間を思い出したのか、彼女の表情は暗く、悲壮感を漂わせていた。


 重苦しい空気を変えようと、ジェノスは軽く咳払いをして尋ねる。


「んんっ! つまりは捨てられた訳じゃないって事だな?」


「そ、そうじゃ! 所有権は自然公園の管理者にあったはずじゃ。じゃが、そうなると【廃品回収者】では回収できないはずじゃろう? おそらくじゃが【神の思し召し】は、儂を解放できるワンワンのもとへと導いてくれたんだと思うのじゃ!」


 ジェノスに尋ねられて、暗くなっていた気持ちを吹き飛ばすようにレイラは口早に答えた。


 ワンワンのところに来て解放されたから良かったものの、これで解放されなかったら立ち直れなかっただろう。ワンワンと出会えて良かった。そう笑うレイラの表情は、先程の過去の絶望を話していた時とはまるで違う。

 彼女が心底ワンワンとの出会いに感謝しているのだと三人は感じ取った。


「原因が、お前のスキルである可能性が高い事は分かった。ワンワンのスキルがレベルアップして何か別の力を得たのかもしれないと思ったんだが……そうではないようだな」


「うむ。それにしてもレベルアップか……成長するスキルとは興味深いのう」


「正直、スキルに関して詳しい訳じゃないんだが……こういった成長するスキルはないのか?」


「少なくとも儂は知らんな。まあ、スキルに関しては今は置いとくとして、疑問は以上かの? ならば方針について聞きたいのじゃが……」


 そうレイラが申し出たので、スキルに関してはひとまず置いておく事にした。


 方針というのはワンワンには人を傷付けない魔法を覚えて貰い、身を守る力をつける。そしてこの場にいる者がワンワンには教えていない魔法を覚え、ワンワンの助けになるようにするという事だ。


 ジェノスが話し終えると、理解したとレイラは頷く。


「なるほどのう……。確かにワンワンには人を害するような魔法は覚えて欲しくないのう」


「それで、お前にも夜の勉強会に参加して欲しいと思ったんだが……どうする?」


 既にレイラは数々の魔物を屠って来た事もあり、魔法を幾つか覚えているだろうとジェノスは思っていた。だが、彼女は顔を顰めて言葉を詰まらせる。


「うっ……それは難しいのう……」


「ん? どういうことだ?」


「いや……儂はの。魔法を使う事ができない体質なのじゃ」


「魔法が使えない……?」


「魔法が使えないって……そんな事があるのか? 適正のある魔法が見つかってないだけとかじゃないのか?」


 ナエは疑問の声を上げた。ジェノスから魔法を教えて貰い適性のある魔法を見つけて覚える事ができた。その為、英雄が魔法を使えないという事に驚いたのだろう。


「いや、根本的な問題なのじゃ。儂はな、魔力をもたないのじゃ」


 それからジェノスの【鑑定】で、レイラのステータスを見せて貰った。



▼ステータス

生命力:653

攻撃力:97

守備力:87

魔力:0

俊敏力:102

知力:821

運命力:434



「スキルのおかげで儂は戦ってこれたのじゃ」


 百のスキルを持つ女は、百のスキルしかない女だった。

読んでくださり、ありがとうございます。



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