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捨てる人あれば、拾うワン公あり  作者: 山口五日
ワンワンと聖域
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第11話 ワンワンは勉強する

「ワンワンは外の世界を見たいんだよな?」


「わふっ?」


 ジェノスが考えを改めて、聖域に残る事にした翌朝。ワンワンたちの小屋の方で、ナエが作ったスープと、格納鞄の中にまだ残っているパンで朝食をとっていた。そんな朝食中に、ジェノスはワンワンに、そのような事を尋ねたのである。


「んんっ、ひふはほほ、ひはいほ!」


「ワンワン、口の中にものが入ってる時は喋るな」


「間が悪い時に話し掛けちまったな。ワンワン、口の中のもんを飲み込んでからでいい」


 頬膨らませるほどにパンを詰め込んでいたワンワンは、ナエに注意されてしまう。

 そして口の中のものを飲み込むと、改めてジェノスの問い掛けに元気よく答える。


「うん! いつか外の世界を見たいんだよ!」


「そうか……じゃあ必要な事はなんだか分かるか?」


「知ってるよ! よく食べて、よく遊んで、よく寝る事!」


 ワンワンが当然とばかりに胸を張って言うが、その答えはジェノスにとって想定外だった。エンシェントドラゴンとの約束を知っていた為、てっきりステータスを上げる為に特訓などと言うものだと思っていたのだ。


 どうしてそのような言葉が返って来たのか。その理由を知っているであろうワンワンの保護者、ナエとクロへと目を向ける。


「……おい、そこの保護者」


「い、いや、だってよ……」


「甘やかしてる訳じゃないよ! 普通に戦う力をつけるのはエンシェントドラゴンの本意じゃないと思うし……」


 二人がワンワンに「よく食べて、よく遊んで、よく寝る事!」と教えたのだとジェノスは察して、呆れた様子で溜息を吐く。


「少なくとも自分を守るのに、ある程度の力は必要だろ。まあ、いい……それよりも先にやる事がある。いいか、ワンワン。外で必要になるのは賢さだ」


「賢さ?」


「そうだ。ステータスで表すなら知力だな。こいつがある程度高くないと、悪い奴に簡単に騙されちまう。ただ、知力を上げるには、様々な知識がないと上がりにくい。まずは字の勉強、それから簡単な計算ができた方がいいな」


「なんだか難しそうだね……」


 弱々しい声を漏らしながら肩を落とすワンワン。そんな彼を叱咤するようにジェノスは声をかける。


「確かに大変だ。これを覚えねえと外の世界には行けねえぞ? それにナエとクロも一緒に勉強を頑張るからよ」


「はあ!? どうして私が!?」


「わ、私も!?」


「そりゃそうだ! ワンワンに読み書きを任せるつもりか?」


 この先ワンワンが聖域の外に出た時、ナエやクロは彼と行動をする事になるだろう。その時に読み書きを全てワンワンに任せる……そのような未来予想図を彼女達は思い浮かべるのであった。


「うっ……そう言われると……。分かったよ、私も勉強させて貰うぜ」


 ナエはさすがにワンワンに頼り切りになってしまうのは情けないと思ったようで、ジェノスの提案を受け入れる事にするのだった。


 だが、クロは……。


「で、でもぉ、ジェノスもいるし……。勉強は苦手で……」


 これまで文字の読み書きを人に任せていたクロ。彼女は自分にできない事は人に頼る、それが日常茶飯事となっていたので、ワンワンに頼り切りになってしまっても問題なかった。


 これまでクロの周囲は彼女に対し、戦闘能力を期待されていた。それ以外に関して何か難があっても問題にされる事はなかったのだ。そのような環境に居たせいもあるかもしれない。

 だが、年下のナエは進んで学ぼうとしているのに……と、ジェノスはクロを情けなく思ってしまう。


「……おい、クロ。ちょっと来い」


「え、ええ!? ジェノスさん怖いよ? 悪いこと言ったなら謝るからっ!」


「いいから来い!」


 ジェノスに首根っこを掴まれて小屋の外へと連れ出されるクロ。そんな二人を見送って少しすると「二人よりも年上なんだぞ。しっかりしねえかっ!」と説教をする声が聞こえて来た。


 これは暫く時間が掛かりそうだと察して、ナエはワンワンに朝食を再開するよう勧めるのだった。


 その後、クロとジェノスが戻って来た時、クロは若干目に涙を浮かべていた。そして自分もワンワンと学ぶと言って、朝食を再開する。ワンワン自身は一緒に勉強できると喜んでいたが、クロはまるで苦虫を食しているかのように朝食の残りを食べ進めていた。それほど勉強をしたくないようだ。


 一方、既に朝食を終えていたワンワンとジェノスは笑い合っていた。


「良かったな、ワンワン。二人も一緒に勉強をするってよ」


「二人も一緒なら頑張ってみる!」


 クロの心情など知る由もなく……いや、ジェノスは分かっていたが、無視して話を進める。


「よし、良い子だ……。そんなら早速今日からやってくか。ワンワン、回収できるもの、回収したものを見せてくれ。字を書けるものがあったら使いたい。まあ、なくても地面に書けるがな」


「うんっ、分かった! はい、どうぞ!」


 回収済みの一覧を出すと、それをジェノスに見せた。それを見て、ふとジェノスはある事に気付く。


「ん? こいつは……おい、ナエ。お前、これ読めんのか?」


「読めるけど……あっ」


 突然尋ねられ、その意図が分からずに反射的に答えるが、すぐにジェノスの意図を理解する。そう、文字が読めるのだ。文字を学んだ事もないのに。


「どういう事だ? 文字なんて読み書きした事ないぜ?」


「不思議な事だが……意味を理解できるようになってるみたいだな」


「つまり勉強しなくていいって事!?」


 ジェノス達の会話を聞いて、クロは喜色を露わにするがすぐさま怒鳴りつけられる。


「馬鹿野郎っ! そんな訳ねえだろ。そもそもこんな字、見た事ねえよ」


「え? じゃあどうして読めるんだよ?」


「分からん。そういうスキルなんだろ」


 いささか投げやりであったが、実際どうして知らない字を読めるのかは分からない。そもそも【廃品回収者】というスキルをジェノスは聞いた事もなかった。


 捨てたものと限定はされるが、遠くのものを回収できるという破格の能力が備わっている事から、一つや二つ新たな力が発見されても彼は気にしない。それよりも読み書きに使えそうなものを探す事に専念した。


「色々あんな……おっ、石板と石筆があるな……壊れたとかは書いてねえから使えるか? ん? 本まであるのか? 何の本か分からねえが教材になりそうだが。本なんて高価なもん誰が捨てたんだか……。おい、ワンワン。本は全部回収しとけ。あと、これと……これを人数分回収して出してくれ」


「はーいっ!」


 ワンワンがジェノスに指示されたものを、指で触れて取り出していく。そしてジェノスは現れたそれらの状態を手に取って確認をした。


「うっし、石板と石筆はどれも使えそうだな。あとボロ布も欲しいな……ワンワン三枚くらい出しといてくれ。早速、教えるからな」


「えっ! もう勉強するのっ……あ、いえ喜んで……」


 朝食を食べ終えたクロは嫌そうな声を上げるが、すぐにジェノスに睨まれて口を閉じる。


「今日は自分の名前の書き方を教えるだけにするから安心しろ……ほら、準備しろ」


 嫌がるクロの為ではないが、さすがにジェノスも最初から徹底的にやっていくつもりはないようだ。最初は自分と近しいものを使って、文字に慣れさせようとする算段らしい。


 ジェノスは一人一人の名前の書き方を教えようとするが、筆を持ったのを見てそれよりも先に教えるべき事があると気付く。


「……まずは筆の持ち方だな」


 ワンワンやナエは握り拳を作って、筆を握りしめていた。ナエもなんとなく持ち方が違うという事が分っていたのか、「やっぱり違うのか」と呟き、少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「字なんて書いたことねえからな……」


「ふふっ、私は何度か見たことあるから筆の持ち方くらいは知ってるよ。ワンワンくん、ナエちゃん、こうやって持つんだよ!」


 お手本を示そうと筆を持つ自身の手をクロは見せるが……。


「ワンワン、ナエ……クロの持ち方は悪い持ち方だから真似すんなよ」


「ええっ!?」


 クロは親指と小指だけで、摘まむようにして筆を持っており、明らかにおかしな持ち方をしていた。


「クロ……戦う以外はからっきしだぜ……」


 ナエのその言葉に同調するように、ジェノスは頷く。


 そしてワンワンが早速クロの持ち方を真似ようとするので、すぐに正しい持ち方をジェノスは教えるのだった。

読んでくださり、ありがとうございます。


クロの名誉の為に言っておきますが、彼女は馬鹿ではありません。若干脳筋なだけです。たぶん。


次回あたりステータスなどにも、触れていきたいと思います。

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