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捨てる人あれば、拾うワン公あり  作者: 山口五日
ワンワンと聖域
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天界 ワンワンを見守る天使たち

今回はワンワンから少し離れて、ワンワンを転生させた天使のお話です。

 ――天界。そこは神々、あるいは神に仕える天使が住まう世界。ありとあらゆる世界へと繋がりを持ち、その世界の住人たちは崩壊の危機を迎える世界を救済すべく動いている。


 今日も天界の片隅で、とある世界を見守っている若い男の姿をした天使たちがいた。

 足下に広がる清らかな水……それには、あらゆる世界を映しだす力を宿している。


「おおっ、上手くやってるみたいじゃねえか」


「そうだね……人間まで回収できるとは思ってなかったけどね。これも魂が綺麗なおかげかな?」


「そんなのはどうでもいいっ! とにかくワンワンは一人寂しい思いをしなくていいのが重要だ!」


「いやいや、天使なんだから気にしようよ。スキルが成長するなんて聞いた事ないよ? ……まあ、ひとりぼっちじゃなくなったのは良かったけどさ」


「だろ? ほら、お前もそう思うよな?」


「………まあ……そうだな」


「だよなぁ! よく分かってんなぁ新入りっ!」


 世界を……というよりワンワンを見ていたのは、ワンワンに【廃品回収者】のスキルを与え、転生させた天使たちだった。ワンワンの元気そうな様子をこうして見守るのが、二人の日課であった。


 そして、その日課に新たに加わった天使が居る。新入りと呼ばれた天使だ。

 ワンワンと名付けた天使の名はライヌ、そしてライヌに普段から振り回されているのがカインという名前であるのだが、新人にはまだ名前がなかった。その事に、ふと気付いたカインはワンワンから目を離して尋ねる。


「そういえば君はどういう名前にするんだい? 基本的に天使となった者は以前の名前は捨てて、新しい名前を持たないといけないんだ」


「新しい名前…………そもそも名前がないようなものだったからなあ……」


「確かに……。君の場合は種族名でしか呼ばれた事ないだろうね」


「ああ……いや、最後に“おじいちゃん”と呼ばれたな……」


「ふふっ、そうだったね」


 それを聞いて、新入りの出自を知っているカインは苦笑する。


 新入りの天使。


 天使となる前は、とある世界でエンシェントドラゴンと呼ばれていた。魂の格は元々高かった。それに加えて、最後に何も力を持たない子供を生かすべく自身の力を授けた、その善行からとある天使の目に留まり、仲間に迎えられたのだ。


 天使の体を得た元エンシェントドラゴン。天使となった今の容姿は、基本的に人間なので、物珍しそうに手を閉じたり開いたりを繰り返す。


「それにしても……儂が天使になるとは……」


「あはは。まあ驚くよね。普通天使というものは、天使として生まれてくるものだから、確かに珍しい事ではあるよ。稀に、君みたいな事もあるけど……」


「ライヌ殿、カイン殿には感謝している。おかげでワンワンを見守る事もできるからな」


 ワンワンに生き残る為の力を与える事はできたが、すぐに自分は死んでしまった為、一人になったワンワンが気掛かりだったのだ。だから、こうして様子を覗く事ができるのは嬉しかった。


「しかし、不思議な子だとは思っていたが、まさか生まれて間もない犬、それも異世界から転生したとは思いもしなかった。ただ……二人はそれで良かったのですか?」


「ん? 良かったに決まってんじゃねえか。家族ができて幸せそうじゃねえか」


「いえ、確かにワンワンにとっては最良だったかもしれません。ですが、話を聞いたところ、別の世界から転生させる行為は、元来転生先の世界を救う為のもの。神様は納得しているのですか?」


「大丈夫だ! まだ、ばれてねえ!」


「…………カイン殿」


「いや……正直このまま黙っていて、ばれない事を願いたいんだよね……。多くの転生者が正直なところ使えなくて、世界は滅びへまっしぐらだし……」


 神様に与えられた【廃品回収者】をワンワンに与えた事を黙っているらしい。

 本当なら神様に伝えるつもりだった。他の転生者が世界を救う為にしっかり働いてくれれば神様も、一人ぐらい自由を与えても、そこまで強く咎める事はないだろうと踏んでいたのだ。しかし、結果は散々だった。


 与えたスキルを活用して戦いを終わらすべく動いてくれる転生者もいる。だが、それは僅かなもので人間と魔族の戦いとは関係ないところでスキルを活用し、悠々と生きているのだ。そして天界の住人は基本的に現世の者への接触は禁じられていて、注意する事すらできない。


 幸せそうなワンワンを見て頬を緩ませるライヌとは対照的に、カインは心底疲れ切った顔をしている。神様にワンワンの事がばれた時に、何て説明しようかと日々頭を悩ませているのであった。


「聖域にこもっていた儂は、外の事はまるで分からないが……世界が滅びるほどに戦争が激化しているのですか?」


「ああ……あと数年も経てば、魔族と人間は共倒れするんじゃないかな……」


「愚かな……」


 呆れたとばかりに溜息を吐くエンシェントドラゴン。そこまでして争いを続ける人間と魔族の考えが理解できないと首を大袈裟に横に振る。


「そう、しなければ…………生きていけない…………そう思い込んで、しまっている………………人間……魔族……相容れない…………存在……」


「「っ!」」


 そのゆっくりとした特徴的な口調に、ライヌとカインはともに背筋を伸ばし、声のした方を見るのだった。そこには小さな光が浮かんでいた。小さいが、圧倒的な自分よりも格上の存在である事がエンシェントドラゴンも理解できた。


「神様……姿をお見せになられるのは珍しいですね……」


 絞り出すようにカインはそう声を発した。この小さな光が神様だと分かると、エンシェントドラゴンは慌てて名乗ろうとするが、それよりも先にゆっくりと神様は言葉を発する。


「【廃品回収者】を……渡した魂が、気になって………………どう? ワンワン……だよね……?」


「「「…………」」」


 神様がワンワンの事を知っていた。

 その事実に、三人の天使は押し黙ってしまうのであった。


「………どうしたの?」


「あ、あの……ワンワンの事を……知っていたんですか?」


「…………? スキルは私の力…………誰に渡ったのか分かる……」


 最初から神様には気付かれていた。その事実が判明すると、勢いよくライヌが土下座をする。


「悪い神様! 俺が無理矢理そうしちまったんだ! だからカインは悪くねえんだ!」


「別に……構わない……」


「責任は俺にある! 俺の命をもって償う…………え?」


「構わない……許す……うん」


 ライヌは自身の命を捨てる覚悟だったが、神様は簡単に許してしまう。許されたライヌはあまりにも呆気なく許されたものだから呆然としてしまっている。


 そして神様はふわふわとエンシェントドラゴンへと近付く。


「…………ワンワンに……力を与えた…………エンシェントドラゴン……?」


「は、はい……何か、問題が?」


「ううん……ない…………むしろ、ご褒美……」


「え?」


「名を…………“ドゥーラ”の名を授ける……」


「ええっ!?」


 エンシェントドラゴンに神様が名前を与えた事にカインは驚きを隠せなかった。神様から名前を与えられる天使。それは神様の直近として認められたという事であり、天使にとって最も名誉な事だ。


「あの子の……魂は…………とても綺麗……それを……守った…………素晴らしい」


 神様はゆっくりとした口調で、ドゥーラを褒めた。褒められている当人は実感がない。実感するのは後ほどカインから説明を受けてからとなる。


 神様はワンワンを映し出している水面に、触れるかどうかのところまで降りる。


「…………綺麗な子……ふふふっ」


 そう呟き、暫くワンワンを見続けるのであった。


 よく分からないが、神様もワンワンを気に入っているらしい。

読んでくださり、ありがとうございます。

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