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鋼鉄の獰猛、再び〜戦海の絆〜  作者: ソロモンの狐
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駆逐艦・雪風

色々調べていたら、陽炎型駆逐艦には露天の防空指揮所がなかった事が判明orz


陽炎型以前の駆逐艦だと艦橋の屋根が帆布で普段は露天だったり、秋月型は防空駆逐艦なのでもちろん防空指揮所はあったんですがね。


てっきり陽炎型にもあったんだと思い込んでました。

「やれやれ、酷い目にあったわい」


ワイヤーの拘束から解かれた平賀所長の第一声。

それ、僕のセリフじゃないですか?


「平賀所長、自業自得って言葉とその意味ってご存知ですか?」


微笑んでいるけど、目がマジだよ雪風ちゃん。あと、その手に持ったワイヤーを捨てよう。

でも、そのやりとりはどこか微笑ましく『仲の良いお爺ちゃんと孫娘』って感じが否めない。


「お二人共、仲がよろしいのですね」


本当に仲が良い、なんだかちょっと羨ましいくらいに。

ボクも曽祖父の三笠さんと出会ってたら、一緒に暮らしていたらこんな感じだったのかな?


「まぁな、コイツとはもう二十年以上の付き合いだからな」


「もうそんなになるんですね〜、道理で所長の白髪も増えたはずです」


「この白髪の七割はオメェらの仕業だぜ」


へ〜、そうなんだ。

そんな長い付き合いなら・・・っておかしいよね?

目の前で僕を見上げてる雪風ちゃんはどう見ても初等部3〜4年生程度の女の子、ちょっと変わった服を着ている以外は、どこにでもいる普通の女の子だ。

20歳って言えば僕よりお姉さんじゃないか。

・・・担がれてるのかな?

古典芸能の『漫才』というものの中でも『掛け合い漫才』ってやつなのかな?


「なんでやねん」


確か合いの手はこれで良かったはず・・・


「・・・ん?」

「はい?」


二人からの視線が突き刺さる、ダメだ盛大にスベった!


「いえ、ですから・・・雪風ちゃんが20歳以上なわけないじゃないですか、っていう事だったのですが」


辛い、自分のツッコミを説明するのがこんなにもツライ事だとは。


「あ〜〜、まずそこの説明からか」


ポリポリと頭をかく平賀所長。


「所長、私頑張りますっ」


両手で拳をつくり、「ふんすっ」と妙な気合いを入れる雪風ちゃん。


「まぁ、こんなところで立ち話もなんだ。とりあえず雪風で話そう」


ん?雪風“と”じゃなくて雪風“で”話すって言ったよね?聞き間違いかな?


「大和、ついて来い」


くるりと背を向けて歩き出す平賀所長。


「雪風、そのまんま公試に出るぞ。ドックに注水開始、カマに火ぃ入れろ」


「わぁ、久しぶりのお出かけです」


雪風ちゃんがキャッキャとはしゃいでるんだけど。

ダメだ、言っていることの半分も理解出来ない。


「お出かけの準備してきますね〜」


彼女はパタパタと小屋の中へ駆け込んで行く、それと同時に僕の右側からドドドドという重低音と涼しく風が吹いてきた。

僕がいる場所は凸型の出っ張った部分の根本の部分、両側はトタンで出来た巨大な建物で右側の建物は長さ150メートル程、左側のものは更に巨大で倍の長さ300メートルはありそうだった。


「右が一号ドック、軽巡までの艦が入る。左側が二号ドック、重巡・空母・戦艦が出入りする」


歩きながら説明を聞く


「こっちだ、雪風が待っとるぞ」


一号ドックのドアを開けて入る平賀所長、アレ?雪風ちゃんはさっき小屋へ行ったんじゃ?

疑問を抱きながら僕もドアをくぐる、するとそこには濃いグレーの塗装をされた一隻の船が舳先を海に向けて鎮座していた。

錆一つ浮いていない、まるで建造されたばかりの様な綺麗な船だった。

でも、リアスまで乗船してきた『あるぜんちな丸』のような優美な美しさとは違う、引き締まった凛とした、以前地球のスミソニアンで見た日本刀の見せる研ぎ澄まされた美しさがあった。

全長は100メートルちょっと、僕らが入ってきた場所は船の左側中央部よりやや前の、ちょうど艦橋の横あたりでハシゴのような階段が伸びていた。


「駆逐艦・雪風だ。陽炎型駆逐艦の8番艦で全長118,5メートル全幅10,8メートル、吃水の深さは3,8メートル。主機もときは艦本式衝動タービン2軸2基52,000馬力、最大速力は35,5ノット、主兵装は12,7センチ連装砲3基6門、92式4連装魚雷発射管が2基、他にも機銃や爆雷の投射基と軌条がある」


淀みなく説明する平賀所長、ダメだ言ってる事がさっぱりわからない。


「と・・・いったところなんだが、貴様が理解出来ているとは到底思わん」


こちらを振り向いて鋭い言葉を投げかける。


「はい、大きさ以外はさっぱり」


「ははは、素直でよろしい。わからん事は聞け『聞くは一時いっときの恥、聞かぬは一生の恥』って事だ」


ドック内に来てからの平賀所長はすこぶる上機嫌だ。


「所長〜、お出かけの準備して来たよ〜」


その声に振り返ると、先程と同じ奇妙なデザインの服を着た雪風ちゃんが走って来た。デザインは一緒だけどさっきまでは濃紺だったのが、僕と同じ純白の服装に変わっていた。


「雪風のその格好も久しぶりだな、やっぱり良く似合っとるわい」


孫娘を愛でる視線だ。


「えへへ、二ヵ月ぶりかなぁ」


照れてる、なんだこの可愛い小動物は。

平賀所長はドックの淵まで行って中を覗き込んだ、さっきから聞こえてくるドドドドという音はドックへの注水音らしく、少しずつ水面が上昇している。


「そろそろいいな、乗り込むぞ」


船とドックを結ぶ金属製の階段を登って行く、僕も遅れずに続くと雪風ちゃんも後に続く。

平賀所長の先導で艦橋内に入り、細く狭い階段を登って艦橋の最上階に出た。

そこは屋根があって、前方と左右にたくさんの窓ガラスが嵌っていて見通しは抜群、スミソニアンで見た羅針盤や見たこともない機械やメーターがいっぱいあった。

広さとしては大人が七、八人も立てば満員になりそうな感じ、ちょっと狭いかな?と思ったけど僕ら三人だけだと全然問題ない。

というか人気が無い、全然無い。

通って来た艦橋にも人はいなかったし艦内にも人がいる気配は無い。


「あの〜乗組員の方は?」


どこからどう見ても、このドックには人がいない。この規模の船を三人で動かせる訳がない。


「ん?大丈夫だ。まぁ、見てろ、そして覚えろ。次からは貴様がやるんだぞ、今回だけの初回特典だ」


そう言うと、平賀所長は艦橋の真ん中に仁王立ちすると声を張った。


「駆逐艦雪風、機関始動。出港準備をなせ」


その言葉に、平賀所長の左斜め前に立っていた雪風ちゃんが応えた。


「雪風、機関始動ヨシ出港準備はじめっ」


すると船が少し震えて足元から力強い振動が伝わってきた。


「左舷ラッタル収容」


左下から音がするので身を乗り出して見ると、さっき僕らが登ってきた金属製の階段が引き上げられ収納されていくところだった。


「え?あれ?」


やっぱり人影は無い、甲板の高さまで引き上げられた階段は折りたたまれると、パカッと開いた甲板の中に収まっていった、そして開いていた甲板は閉じて何もなかったかのように平坦な甲板に戻った。

??

そうか、この船は無人船だったんだ。

さっき足元から響いてきたのはこの船の機関が起動したからだ。音声指示型の無人戦闘艦がこの船の正体だったのか。

でも、僕は違和感を感じた。

平賀所長が命令した後にこの子が復唱した、復唱した後にこの船は目覚めた。

あれ?すると変だぞ・・・

音声指示型なら平賀所長が命じた直後に動くはず、なぜ無人戦闘艦に・・・


な ん で こ の 子 が い る ん だ?


駆逐艦と同じ名前のこの子が。


「所長、出港可能までの所要時間は15分です」


雪風ちゃんが報告する、でもメーターや機械の表示を読み取った風には見えない。


「大和、その子はな・・・雪風は人間じゃねぇ、この雪風そのものだ」


どう言うこと?

この子が人間じゃない?

この子がこの船?


「その子は『船霊(ふなだま)』って言う、この艦を動かすシステムの一部だ」


「ハイ、私は陽炎型駆逐艦の8番艦『駆逐艦雪風』の対人コミュニケーション機構フナダマ・システム通称:船霊の『雪風』です」


この子が人じゃない?この子がこの船の一部?

混乱する僕に平賀所長が振り返って説明してくれた。


その昔、《戦海》が始まったばかりの頃の各艦は古代のデータを元に単なる戦闘艦として再現されようとしていた。

しかし、駆逐艦クラスで約250人戦艦クラスだと約3300人もの乗組員が必要になる。

そんな人数確保するのは無理だし、誰もが艦長になりたがる。

そこで艦の外観と性能は古代の復元そのままに、中身は完全に現代技術で作ることにした。

完全自動の無人艦、参加者の戦海士は艦橋で指示だけ出せば良い仕組みにした。

これで良し!

と始めてみたものの、なんだかつまらない。

艦載総括演算機構は完璧過ぎて面白味に欠けていたし、一人で艦橋にいて指示だけ出していても楽しくなかったそうだ。


あ、それ何と無くわかる。


そんな時ちょうど、地球で古い装置が発見された。

それはどうやら正式な手順を踏まずに廃棄されたか、なにかの都合でそのまま遺棄された処理装置と記憶装置だった。

保存状態が比較的良好だったのでデータをサルベージ

したんだけど、基幹プログラムの言語は失われて久しいプログラム言語だったので使用出来ず、一部の画像データと音声データが復元出来たに止まった。

そしてその『一見使えなさそうなデータ』と『ある変わり者の戦海士』との出会いが《戦海》を変えた。

当時もう珍しくもない生体式ワーカードロイドをベースに、体験経験式学習機能、感情表現機能など様々な機能を追加搭載して艦載総括演算機構とリアルタイムリンクする仕組みを作り上げた。

復元された古代データと、古代日本の『万物に魂は宿る』と言う信仰にも似た考え方、そして『軍艦は女性扱い』と言う軍艦乗りの文化を融合させて出来上がった『それ』は、後に《フナダマ・システム》と呼ばれるようになった。

彼は艦橋内に船霊となったワーカードロイドを配し、《戦海》に臨むようになった。

が、結果は散々・・・

船霊に処理を割く分、戦闘データの処理に遅滞や誤差が発生する様になってしまったからだ。


その最初の船霊は戦闘後号泣したと言う、自分の不甲斐なさを、当たらない砲撃を、避けられなかった砲弾を恥じて泣いたと言う。

彼はそんな船霊の頭を優しく撫でてこう言ったそうだ。


「次、また頑張ろう。君が恥じる事は無い、僕の指示も悪かったのさ。次も一緒に戦ってくれるかい?」


と・・・

他の戦海士もその様子を見ていた。

わざわざ性能低下を起こさせた彼の真意を知りたくて、彼の艦を訪ねていたのだった。


「なんか・・・良いよな」


誰かのつぶやきだった。

これこそが彼が、彼らが望んでいたモノだった。


『いっしょに成長する存在』


『経験を生かし、育てる楽しみ』


『予想外の結果に一喜一憂する』


最初の彼が《フナダマ・システム》に関するデータを全て公開した事もあって、現在の《戦海》に船霊は必須、全ての艦に標準装備だそうだ。


「ちなみに、その変わり者の名前は御剣三笠っていうんだけどな」


ニッコリと笑う平賀所長。

そうか、彼も寂しかったのかもしれない。

この艦橋で孤独を感じていたのかもしれない。




「アレだ、もしこの子達を機械扱いしやがったら・・・俺が魚雷発射管から打ち出すぜ」


またあの表情をする平賀所長。


「大丈夫ですよ、絶対そんな事しませんよ」


僕は笑顔で返した。





サルベージされた古代のデータは、もちろん艦○れです。

10世紀後の未来まで影響を与える日本の『萌え』おそるべし。


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