僕の過去、これからの僕
なんだか凄く長くなっちゃいました。
勢いって怖いね(。-∀-)
「う〜〜ん、ここは誰?私は何処?」
目を覚ますとそこには見慣れぬ天井、って言うか初めて見る木製の薄汚れた天井だった。
額がなんだかひんやりしてる、手をやると濡れた薄い布が僕の額にのせられていた。
「あ、目を覚まされましたか?大丈夫ですか?」
薄汚れた天井の代わりに今度はドアップの少女の顔が僕の視界を覆う。
「う、うん・・・えーっと、なにがあったの?」
僕はリアスに来ていて、リラバウルの平賀造船の平賀所長に会って・・・
曽祖父の遺産である戦闘艦を売るって話をした途端に、なんだか凄い物理的な衝撃を受けて・・・
現在に至る?
なんだか話しづらいな、アレ?左の頬になんか貼ってある。
「すいません、ごめんなさい」
少女は動転しているようで全く要領を得ない。
「落ち着いて、落ち着いて。なにがあったの?」
なんとか彼女を落ち着かせよう、そして自分の置かれている状況の確認だ。
周りを見回すとどうやらここは平賀造船のあの小屋みたいだ。
そこのソファーに寝かされている。
左の頬に貼ってあるのは救急キットの簡易治療シールだ。
この程度のモノで済んでるって事は大した怪我じゃない、痛みも感じないし腫れてる感覚もない、でも逆に言えばなにかしらの外傷を負った事になる。
「平賀所長は物凄く怒りっぽいのです、でも手を出すことは滅多になかったのですが・・・」
はい?
って事は、僕は平賀所長にぶん殴られて気絶してたのか?
「あ、あぁ・・・」
なんだか思い出してきた、修羅の様な表情で僕に鉄拳を繰り出してくる平賀所長、その平賀所長を止めようと涙目で飛び出したものの、全く間に合ってなかった少女、というカオスな光景を。
「ご安心下さい、いま平賀所長は艤装用のワイヤーでふん縛って表で反省させてますから」
なんかサラッと凄い事言ったよね、この子。
「だから、だから売らないで下さい。お願いします」
いやいや、どうして話がそこへ行く?
「私、頑張りますから!一生懸命戦いますからっ、なんでもしますからっ、どうか売らないで下さい」
私?あぁ、この子は乗組員かなにかなのか?てっきり平賀所長のお孫さんか何かかと思ってたけど。
「そのバカにゃ、なに言って無駄だ・・・雪風、お前らの事なんざ、な〜んも分かっとらんわい。正真正銘、地球産の大馬鹿タレだ」
開いたままのドアの向こうから、平賀所長の怒りと侮蔑がたっぷりのった声が聞こえる。
僕は立ち上がると小屋から出る。
そこにはワイヤーでグルグル簀巻きにされて、地面に転がされている平賀所長が僕を睨みつけていた。
「こんな腑抜けとは思わなんだわ、三笠のひ孫でもヤツの万分の一も覇気ってもんが感じられん、ヤツの全艦を売り飛ばすだと?どこまでも救いようのない大馬鹿たれだ、さっさと地球に帰っちまえ」
なぜそこまで言われなければならないんだろう、なぜ僕には・・・
「確かに僕はなにも知りません。先月、存在すら知らなかった、もちろん会ったこともない曽祖父の訃報を知らされて、ホントに一人ぼっちになっちゃったことを突き付けられて、遺産があるから取りに来いって言われて、とりあえずこの制服だけ仕立てて来いって書いてあったから、その通りにして来ただけ・・・なのに、それなのに・・・」
そこまで一気に言って、今まで堪えてきた感情が、想いが涙と共に溢れ出す。
「大和・・・お前」
「大和さん・・・」
平賀所長は転がったまま、雪風ちゃんはオロオロと立ち尽くしている。
「グスッヒック・・・どうして」
あぁ、格好悪いなぁ。
初対面の二人に無様なトコ見せちゃった。
涙でグダグダの顔を上げる事も出来ず、下を向いたまま僕の嗚咽は続く。
止めようと、思うんだけど全然止まらない。むしろ今まで我慢していた分止め処なく流れ出る涙と嗚咽。
「どうしてだよぉ、どうして生きてるうちに会ってくれなかったんだよぉ・・・僕は、僕はずっと一人だったのに、ずっとひとりぼっちで寂しかったのに」
ついに言っちゃった。
今まで、誰にも言わず、秘密にして、耐えてきたけど、一気に吹き出しちゃった。
「ボウズ、お前・・・」
「御剣様・・・」
あ、二人共絶句してる。
これが世に言う『ドン引き』ってヤツか。
涙やらなんやらで、もうボロボロだ。
でも、なんだかちょっとスッキリしたかも。
「ずいません、取り乱しました」
とりあえずポケットからハンカチを取り出そうとした時だった、僕の手に雪風ちゃんがハンカチを渡そうとしてきた。
「どうぞお使いください、御剣様」
ありがたかった、凄くありがたかった。
「ありがとう、でも汚れちゃうから」
僕もハンカチは持っている、それに女の子から借りたハンカチを汚すのは気がひけるもの。
「良いんです、お使い下さい。ハンカチは汚れる為にあるのです」
それはそうなんだけど、って雪風ちゃん結構力強いね。こじ開けられた指が痛いよ。
彼女は僕の顔を下から覗き込みながら言った。
「そして私達は戦う為にいるのです」
いえ、ですから。
「僕は、そんなつもりでリアスに来た訳じゃないんだよ」
戦うもなにも、僕が戦海士について知ってる事なんてたかが知れてる。
設定時代毎にエリアに分かれて戦闘しているって事、ここソロモン海周辺では第二次世界大戦時代の設定って事ぐらいだ。
「それじゃぁ、貴様はどんなつもりで来たんだ?
三笠の遺産目当てか?呼ばれたから来ただと?
貴様の意思はどうなんだ!貴様はどうしたい、どうなりたいんだ?」
平賀所長の声は強いものだったけど、侮蔑するわけでもなく怒鳴り声でもない、僕に語り掛ける言葉だった。
そんなこと急に聞かれてもわからない。
僕の意思?
違う、僕は曽祖父の遺産整理に来ただけ。
そういう意味では呼ばれたから来ただけ。
遺産目当て?
確かにそうかもしれないけど、そもそも曽祖父の遺産の価値なんてわからない。メールには第二次世界大戦時代の戦海仕様艦が何隻かあるってだけで、なんの知識もない僕は艦の名前を言われても、それがどんな艦なのかもわからない。
どうしたい?
ただ売り払って処分して、地球に帰る。
そして今まで通りの普通の生活に戻る。
どうなりたい?
僕には、なりたいものなんてない。
そもそも僕が何かになれるの?
「なってみませんか?戦海士」
僕の手を握って雪風ちゃんが尋ねてくる。
「曽祖父様が、三笠様がご覧になっていた景色を見てみませんか?」
ちょっと気持ちが揺らぐ、僕の知らない世界、僕のみたことがない景色。
そして曽祖父様の見ていた世界、興味がないと言えば嘘になる。
冷え切って凝り固まっていた心に灯がともる、心が震える。
何かに興味を持つ、自分から何かを探すなんて初めてだ。
「でも・・・僕に出来るかな?僕でもなれるかな?」
まだやっぱり不安がある、僕みたいな地球生まれ地球育ちにやっていけるんだろうか。
「貴様、帰りの便はいつだ」
「えっと、来週の水曜日18時出発の『氷川丸』ですが・・・」
ふんっと息を吐き僕を睨む平賀所長。
「それなら一週間だけでもやってみろ、儂と雪風やらでフォローしてやる。一週間やってみて、それでもダメなら好きにすれば良い」
確かに一週間、特にする事も無いしお試しでやってみても良いかもしれない。
「でも・・・」
「ウダウダ言わずにやってみろよ、案外向いてるかも知れねぇぞ・・・それにな」
一際鋭い眼光で僕を見据えて来た。
「俺ぁチャレンジもせず諦めるバカと、チャンスがあるのに手ぇ出さねぇクズは大嫌いなんだよ」
完全に目が座ってる、ヤバい。
「どうすんだい?尻尾巻いて逃げるか?まぁ逃さねぇけどな・・・逃げようとしやがったら」
平賀所長、だんだん声のトーンが下がってます。
マジで怖いです。
地球ではとっくに絶滅した『道を極める』人みたいです。
「逃げようとしたら?」
「・・・明石のアンカーに縛り付けて海底見学ツアーだ」
拒否権無いじゃん。
まぁ、そんな気無くなってたけどね。
でも、思いっきり大泣きしたらスッとした。
とりあえずやってみよう、やれるだけやって、それでダメなら諦めるよう。
「平賀所長、雪風ちゃん、よろしくお願いします」
僕は深々と頭をさげてお願いした。
「もちろんですっ、こちらこそよろしくお願いします」
雪風ちゃんが元気一杯に、今までで一番の笑顔を振りまく。
「ふんっ、一週間後には後悔させてやるわい」
結局どっちなんだ、この人は・・・
古典芸能の『ツンデレ』という技なのかな?
「ところで、そろそろワイヤー外してくれんか?」
転がったままだった平賀所長がつぶやいた。
その様子に僕と雪風ちゃんはお腹を抱えて笑いあった。
こんなに笑ったのは両親を亡くしてから初めてだった。




