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鋼鉄の獰猛、再び〜戦海の絆〜  作者: ソロモンの狐
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嵐の朝に

新しい制服を受け取って、ボクと雪風ちゃんは平賀造船に戻った。

そして事務所奥の休憩室へ平賀所長を連れ込んだ。


「とりあえず、どういう事か説明して下さい」


ボクは平賀所長が手配してくれた制服の入った紙袋を手に説明を求めた。


「どういうこと、とは?」


不思議そうにボクの顔を見る平賀所長。

いや、なぜボクの方がおかしいみたいなリアクション?


「だって、コレってスカートじゃないですか!」


紙袋から取り出した新しい制服は、昨日間宮さんが着ていたのと同じ、白の『女性士官用制服』だった。


「オマエ・・・明石に切られたいのか?」


ピースサインをして、人差し指と中指でチョッキンチョッキンとジェスチャーをする平賀所長。


「そこは男装って事で良いじゃないですか!」


工作艦の明石さんは病的な男性嫌い、はっきり言って病的と言うより病んでるレベルの男嫌いだ。ボクは女の子として誤認されているから溺愛されてるけど、男ってバレたらホントに女の子にされてしまうことは確実だ。


「危険性は極力排除するべき、そうじゃろう?」


「た、たしかにそうかもしれませんが・・・」


良くも悪くも中性的なボクは、スカートなら女の子に見られるけど、トラウザーズなら男の子に見られるだろう。

妙な気を起こした明石さんに確認でもされたら一大事になりかねない。

っていうか、絶対一大事になる。

ボクが地球から着て来た制服は既に雪風ちゃんがクリーニングしてくれているんだけど、それを着れないのは明石さんが原因だった。


「サイズは合ってるんじゃろ?明日は帝国の演習に参加させて貰うんじゃ、ワシの孫娘が水兵服(セーラー)では格好がつかん!」


もう何をどう言っても無駄なんだと、ボクは今更ながらに悟った。


「ありがとう・・・おじいちゃん」


なんだかんだ言って、平賀所長はボクを本物の孫娘の様に可愛がってくれる。


「お、ぉぅ・・・まぁ、なんだ・・・明日は頑張れよ」


「うん、頑張るよ」


平賀所長は顔を真っ赤にして回れ右しちゃった。

ボクは新しい制服の入った紙袋から胸に抱いて頷いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日、早朝。


バシバシと窓ガラスを雨粒が叩く音で目が覚めた。

今日の演習が楽しみで寝付けなかったから、眠りが浅くて目が覚めた訳じゃないよ?


「う〜ん、天気が悪いなぁ」


リアスでは、激甚災害級ではない限り気象操作をしないとは聞いていたけどね。


「なにも今日じゃなくても良いじゃないか」


大きい雨粒で歪む街並みを見つつ恨み節を呟く。


「あ、でも・・・視界が悪い方が肉薄水雷戦には有利かも」


と、呟いた自分に驚く。

いつの間にかボクは演習に参加して、あの人達と一緒に戦うつもりになってしまっていた。

ボクは会ったことも見た事もない曽祖父の遺産整理に来ただけだった。

曽祖父が戦海士だったらしい事、その遺産である艦船を処分するのに戦海士の身分が必要だった事、それだけの理由で格好を真似ただけの『なんちゃって戦海士』のボクだったのに・・・

一昨日見た、そして体験した帝国艦隊と特攻艦隊の演習があまりにも強烈過ぎた。


「はぁ・・・」


ボクは深い溜息をつくと、洗面を済ませ昨日平賀所長が手配してくれた新しい制服に袖を通した。

純白の詰襟にロングスカート、そして手袋や制帽までセットで入っていた。


「コレは平賀所長の趣味?じゃないよね・・・そう信じたい」


一緒に入っていた黒のガーターベルトとストッキングに関しては見なかった事にして、普通の白いハイソックスを履く。


「アサヒちゃ〜ん、起きてますか〜」


身支度を済ませたところで玄関ドアを雪風ちゃんが叩く。

雪風ちゃんは頭からスッポリ被るゴム製?の雨具を着ていた。


「ふおぉぉぉ、アサヒちゃんの女性士官制服です!」


いつもながら、どこからか取り出したカメラで激写する雪風ちゃん、もう慣れちゃったけどね。


「おはよう、雪風ちゃん」


ひとしきり写真を撮って満足した雪風ちゃんに挨拶する。


「おはようございます!アサヒ艦長!」


またどこかにカメラを仕舞って、雪風ちゃんはキッチリとした敬礼をする、この切り替えの速さは見習うべきなのかなぁ。


「ハイこれ、アサヒ艦長の雨合羽ですよ」


雪風ちゃんが差し出したのはポンチョと呼ばれるタイプの雨具だった、頭からスッポリ被る仕組みで上半身を完全にカバーする代わりに両手を上げられない欠点もあった。


「靴はコッチが良いよ」


そう言うと雪風ちゃんは膝下まであるレインブーツを上がり(かまち)に揃えてくれた。


「なにからなにまでありがとう、雪風ちゃん」


ボクは雪風ちゃんが用意してくれたレインブーツを履き、ポンチョを着ると玄関を出て鍵をかけた。


「おう、折角の演習日なのに生憎の天気だな」


隣の101号室から平賀所長も出てきた、ポンチョ姿のボクを一瞥して少し頬を緩める。


「うむ、似合っとるぞ・・・アサヒ艦長」


平賀所長はいつもの作業着に大きめの番傘という出で立ちだ。


「間宮と明石は先に行っとる、さぁ行くぞ」


ボクらは結構強い雨に打たれながら平賀造船へと向かう。

ゴム引きされた分厚いポンチョの生地に当たって、雨粒がボツボツボトボトと不思議な音色を奏でる。

大粒の雨がアスファルト舗装された道路に当たり細かな飛沫に変わる。

雨に(けぶ)る街並みは、昨日までとまたどこか違う表情をボクに見せてくれていた。


平賀造船に着くと間宮さんが昨日と同じく朝御飯を用意してくれていた。


「さぁさぁ、召し上がれ〜」

「「「いただきま〜す」」」


今日も炊きたてのごはんとお味噌汁、そしてアジの開きと小松菜のおひたしが付いていた。

今日は明石さんも同じ献立、昨日のアレはなんだったのだろう。


「ご馳走さまでした〜」


しっかりと朝ごはんを頂いて、ボクと雪風ちゃんは一足先に屋根付きの二号ドックへ向かった。

そこには昨日と変わらず、いや・・・昨日より増して精悍な雰囲気を漂わせた駆逐艦・雪風がドックに鎮座していた。


「いよいよだね、雪風ちゃん」


「いよいよなのです、アサヒ艦長」


今日、ボクらは初めての艦隊演習に参加する。







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