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鋼鉄の獰猛、再び〜戦海の絆〜  作者: ソロモンの狐
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再会と女子会

----17時38分・中央本町ターミナル----


ボクのお尻を堪能していた変態紳士三人組は、雪風ちゃんによってホームへと引きずり降ろされていた。


「ちょっとケツ触っただけだろうが、そんなに大事なら金庫にでも仕舞っとけよ」


「どうせ飼い主には好きなだけ触らせてるんだろ、俺たちが触っても良いじゃんか」


聞くに堪えない暴言。

相手の心を、存在を汚す言葉の暴力。

ボクに少しの勇気と腕力があればこんな人達・・・

そう思っても現実のボクは雪風ちゃんに守られながら片方は半べそかいてる。

雪風ちゃんはそんな暴言を一身に浴びながらもボクを守って、三人組を睨みつけている。


「酷いです!アサヒちゃんが可哀そうです!謝るのです!」


「うるせぇぞ、人形の分際で人間様に意見するとは何様のつもりだ!」

「ちょっと見た目が良いからって調子に乗るんじゃなねぇぞ」

「所詮ワーカーロイドだろ、俺達が訴えたらお前らなんか処分場行きなんだぞ」


眼鏡をかけた中年太りのオッサンが、ドンっと雪風ちゃんをを突き飛ばす。


「きゃっ」

「きゃぁ」


ボクは雪風ちゃんと一緒に突き飛ばされてホームに尻餅をつく。


「なんだよ、その目は!」

「人形風情が人間様に楯突くんじゃねぇよ」

「悔しかったらやり返してみろよ?出来ないんだろ?人形は人間様に暴力振るえないもんなぁ」


ニヤニヤと勝ち誇ったようにゲスな笑みを浮かべる三人組、その物言い、その表情。

人類を絶対の上位者として、ワーカーロイドを人形と蔑む低能極まりない思考。

もう、さすがに我慢の限界かもしれない。

これ以上。虚仮にされるわけにはいかない。

ボクを守ろうとしてくれる雪風ちゃんの為にも、船霊と共にある戦海士としても絶対に譲れない、譲ってはいけない領域がある、この人達はその領域に土足で踏み込んだんだ。

意を決し、ボクは立ち上がった。


「ちょっと、あんたたち」


その瞬間だった、少し離れたベンチにドカッと鞄を置いた女の子が声を上げてボクらの方へやってきた。


「なんだよ・・・あ、お前は!」

「うわっ、また出た」

「げ・・・桜御前」


三人組の動きが止まる。

そして表情がひきつる。


「なによ?」


対する少女は面識があるんだかないんだか分からない微妙な表情。


「なんだよ!やるってのか?」

「戦空士だかなんだか知らないけど、人殺しの野蛮人め!我々は暴力や脅しには屈しないぞ」

「暴力なんて最低だぞっ」


先に暴力振るったのって間違いなく貴方方ですよね?


「わたしは『まだ』暴力なんて振るってませんよ?」


女の子は凄みのある笑みを静かに浮かべて三人へゆっくりと近づく。


「や、やんのか!オイッ」


一人は虚勢張ってるけど完全に腰が引けてる。


「お、お、俺たちが記事にすればオマエも終わりなんだぞ」


もう一人は完全にテンプレートのお言葉です。

三人組はちょっと及び腰だったけど、1vs3と言う事もあって不遜な態度を崩していない。


「オイ、てめぇらその辺にしとかねぇと・・・俺が相手になるぜ?」


ちょうどホームに停まっていた電車の先頭部分から口髭を生やした線の細い感じのおじさんが降りてきた、その人は電車の運転士さんらしく半袖の開襟シャツに濃紺のズボン姿で制帽を被っていた。

胸ポケットのところに[運転士 田中雷蔵]と書かれたネームプレートが見て取れる。


「千鶴ぅ、列車無線で保安員呼べや・・・あと、救護員もな」


おじさんは二両目の乗降口からヒョコっと顔を出していたお姉さんに怒鳴る。


「は~い、もう手配済みですよ~」


そしてそのお姉さんも電車から降りてくる、そしてなぜか手には棒の付いた黄色い物体。


「ハンドスコッチで殴るときは角度に気をつけろよ、直角に近いとドタマカチ割るからな」


お姉さんの持っているモノは、この電車を長時間停めておく時に使う為に車両に積んであるものみたい。


「は~い、でも船霊さんを人形扱い、それも駆逐艦の子に暴力振るうようなヤカラなら良いですよね?車引きはナメられたら最後ですよね?」


「へっ、お前も一端の水雷屋らしいこと言うようになったじゃねぇか」


「ししょーの仕込みが良いからですよ」


1vs3で余裕があったオッサン三人は5vs3となったことで完全に自分たちの不利を悟ったようだった。

周りを見回して自分たちを見る乗り換え客達の冷やかな視線にも気づいたらしい。


「ち、違うんだ。俺たちは被害者なんだ」


え?

痩せぎすで神経質そうな男が甲高い声でなんか意味不明な供述を始めた?


「そ、そうだ。あのワーカーロイド共が仕組んだんだ!」


「そこの小娘とグルになって俺達をハメようとしたんだよ」


ボク達や女の子を指差して、必死になって熱弁をふるってるけど、道行く人たちは誰も耳を貸さない。

それどころか一層冷たい視線を送りつける。


「最初に『お尻触っただけ、大事なお尻なら金庫に仕舞っとけ』とか言ってたじゃん」


車掌のお姉さんもしっかり聞いていたようです、的確なツッコミありがとうございます。

いよいよ旗色が悪くなってきた三人組は、それでもまだ悪態を続けている。


「お客さん、他のお客様のご迷惑になりますので駅務室まで来てもらいますよ」


車掌のお姉さんが呼んだ保安員さんと救護員の人達がやって来た、救護員さんは白衣っぽい制服の女性が一人だけだったんだけどね。

保安員さんがどこからどう見ても『ザ・海兵隊』なゴリゴリの屈強過ぎるお兄さん方なんですけど?

黒い半袖シャツのムッキムキなお兄さん達が警棒やサスマタ装備で8人もやって来た、そして中年太りのオッサンの肩をガッチリと掴む。


「俺たちは悪くない、悪いのはあいつらだ」

「お前らはあんなワーカーロイドの言う事を信じるのか?」

「人権侵害だ!この鉄道会社は客に暴力を振るうのか⁉︎」


いよいよ追い詰められて、神経質そうな瘦せぎすのオッサンが甲高い声で喚き散らす。


「オイ、メンドくせえからとっとと連れてけや。『少し静かにしてから』な」


田中運転士さんは海兵隊の皆さん・・・じゃなかった、保安員さん達に命じる。


「「「アイ・アイ・サー」」」


あっという間に『お静かに』させられた三人組が、屈強なお兄さん達に、ある者は引き摺られある者は担がれて駅の事務所へ連行されていった。


「大丈夫だった?」


結局へたり込んだままだったボクへ女の子が駆け寄ってくる。

そしてボクは彼女と衝撃の再会を果たした。


「ねぇ・・・あなたって、この前ハルゼーさんトコで出逢わなかった?」


「え?えっと・・・これには深い訳がありまして」


どうやっても込み入った話になりそうだったので、駅から出て近くの喫茶店に場所を移した。

痴漢事件の事情聴取に関しては、運転士さんと車掌のお姉さんが処理してくれるらしい。

ホームの危険防止用監視カメラの映像も残ってるし、痴漢被害者に事件の嫌な思いを思い起こさせない様にとの配慮もあって被害者への聴取は無いらしい。


「私、アイスカフェオレ」


レトロチックな喫茶店に入ると奥まった場所のボックス席に陣取った。


「私も同じで」


ボクと綾風さんは同じメニューを注文する、一方の雪風ちゃんは・・・


「う〜ん、迷いますです」


写真付きのメニューブックを開いて真剣に悩んでいる。


「雪風ちゃん?」


「う〜ん、チョコレートパフェ、プリン・ア・ラ・モードも良いし、デラックスパンケーキもすてがたいですし。あ〜っ、テンモンカンのホワイトベアーもあるっ」


うん、真剣に深刻に悩んでるね。


「ん〜〜っ、プリン・ア・ラ・モードで!」


決まった様です、良かった良かった。


注文の品が出てくるまでの間に、ボクと雪風ちゃんは事の経緯を説明した。


「ふ〜ん、色々あったんだ。大変だね・・・アサヒちゃんも」


「え、えぇ・・・どうしてこうなっちゃったんでしょう」


初日に別れてから平賀造船に行って、そこの所長さんにいきなりぶん殴られて、雪風ちゃんの艦に乗って海に出て、海に放り込まれて拾い上げられて、潜水艦を見学してたら飛行機が二機突っ込んできて、よくわからないけどそのうちの一機を撃墜して、服を着替えたら女の子用しか用意されて無くて、仕方なくそれを着てたらそのまま女の子扱いされる羽目になっちゃったって説明した。


「その飛行機って、わたしだよ」


「「え〜っ」」


「どっち?ねぇ、どっち?」

「まさか撃ち落としちゃった方?わたしじゃないですよ?撃ち落としたのはイ−402の紫音さんですから、悪いのは紫音さんですから!」


ボクは青くなって、雪風ちゃんは必死に弁明して責任転嫁してる。


「大丈夫大丈夫、わたしは前を飛んでた零戦で、むしろ助けて貰ったんだもん」


良かった~、結果的には人助けになったって事でOKだよね?


それからアイスカフェオレを飲み、雪風ちゃんのプリン・ア・ラ・モードをみんなでつついて、結局パンケーキもパフェもホワイトベアーも追加注文してちょっとした女子会になっちゃった。


「それじゃ、お言葉に甘えてご馳走になっちゃうよ?」


綾風さんは割り勘でって言ってきたんだけど、ボクと雪風ちゃんが助けて貰ったお礼にと譲らず、綾風さんにご馳走しちゃった。


「その代わり、今度うちの店に来てね。波止場元町電停の近所で『さくら』ってお店してるから」


「是非に!」


少し遅くなっちゃったけど、ボク達は綾風さんと別れると間宮さんに書いてもらった地図を手に、お使いの目的地へと向かい、平賀所長が頼んでくれていた着替え用の戦海士用の制服を受け取って、再び路面電車に乗って平賀造船へと戻った。





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