もの食う人々
大変お待たせしましたorz
特攻艦隊・帝国艦隊の30人とボク達3人、総勢33人が食堂に会した。
誰が言うわけでもなく、自然と上座にオヤブンさんと社長さんが座り席が埋まってゆく。
ボクらは給仕の兼ね合いもあって一番下座のテーブルに着いた。
そしてテーブルの上に用意してあった飲み物をグラスに注ぐと全員が起立し帝国艦隊の社長さんが音頭をとった。
「それでは、両艦隊の健闘を讃えて、乾杯!」
「「「「「乾杯」」」」」
「「「「「かんぱ〜い」」」」」
さっきまで激闘を繰り広げていた相手同士とは思えないほど、和気藹々とした雰囲気の中食事会が始まる。
「うんめ〜〜、やっぱり間宮さんの手料理は最高だぜ」
「あら?中佐、この前は紫音さんの手料理を褒めちぎってましたよね?」
「それはそれ、これはこれだよ」
近い席にいたタナトス中佐とUー2501の船霊さんの会話が聞こえてきた、多分帰ってから紫音さんのご機嫌取りが忙しくなるんだろうなぁ。
「おいひいです〜〜、ちゃんとしたごはんは久しぶりです〜」
「おいおい、そんなふうに言ったら普段食わせてないみたいじゃないか」
同じテーブルで間宮さんのサンドウィッチを頰ぼって涙ぐんでる子がいる。
「だって〜、タイショーが伊良湖さん達連れてハワイまで行っちゃったから、この二週間温かい手料理食べてないもん」
「わかるわかる〜、私たち潜水艦って艦内で火が使えないもんね〜」
向かいに座った水兵服の女の子が激しく同意してる、って事はあの子が戦艦ネルソンに引導を渡した帝国艦隊の潜水艦の船霊さん?
「密閉空間の艦内で火なんか付けたら一酸化炭素中毒なっちゃうもんね〜」
「電熱調理器使うと電池消耗するしね」
そっか、潜水艦ってそんなトコにも制約があるんだ。
「生鮮食品、特に野菜はスグに底を尽きますしね〜」
「陽に当たらないから美白には自信あるんだけどね〜」
二人は意気投合して色々話し合ってるけど、これって『潜水艦あるある』なのかな?
「この厚焼き玉子だけのサンドウィッチ、美味しいね〜」
「こっちのサーモンとクリームチーズのも美味しいよ〜。おぉ、レタスがパリパリのシャキシャキだ」
「エビとアボカドが!オーロラソースで美味し過ぎる〜〜」
その小さな身体のどこに収まるの?っていうくらい船霊さん達はパクパク食べる。
一方の艦長さん達はお酒を煽りながら、さっきの演習内容を振り返ってワイワイやってる。
「しっかし、砲戦中だったとはいえ、よく探知されずにネルソンをヤれる位置まで接近したもんだな」
「あぁ、私が接近したんじゃないですよ。偵察機からの通報を受けて特攻さんの予想進路まで先回りして、潜航して待ってたんですよ」
タナトス中佐と帝国の潜水艦長さんも、マリネやテリーヌをつまみながら歓談していた。
「あらあら〜、みなさんお腹が〜空いてたのかしら〜」
結構な量が並んでいたんだけど、既にあちこちのテーブルで空いたお皿が出始めた。船霊さん達の食欲は凄まじく、艦長さん達はアルコール類をお茶でも飲むかの様に飲み干してゆく。
「わたしは〜、お料理の〜追加をしますので〜、アサヒちゃんは〜飲み物を運んで〜、雪風ちゃんは〜お皿を下げて下さいね〜」
間宮さんはボク達に指示を出すと、静かに席を立ち厨房へ向かう、ボクと雪風ちゃんはお皿を下げたりお酒を追加したりと大忙しだ。
ちょうど一番上座、双方の総司令官が座るテーブルにお酒の追加を持って行った時だった、不意に『社長さん』に呼び止められた。
「あぁ、平賀さん。ちょっとよろしいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「先程オヤブンさんに伺ったのですが、貴女は平賀造船官のお孫さんなんですね?」
「はい、そうです。いつも祖父がお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ。平賀造船官にはいつもお世話になっております、平賀造船官がいなければ我々は全力で戦えませんからねぇ」
リラバウル随一とも言われる艦隊の総司令官にすら、そう言って貰える平賀さんって実は凄い人なのかも・・・
「ところで、平賀アサヒさん?」
そう言うと社長さんはボクの頭のてっぺんから足のつま先までをマジマジと見つめた。
「なぜ貴方は水兵服なんでしょう?」
「え?」
「オヤブンさんの話では、戦海士を目指して地球から来られたそうですね?それなのに何故、我々戦海士の制服である白の詰襟では無く、船霊さん達と同じ水兵服でスカートなのか・・・と」
「え〜っと、それはですね・・・」
ちょっと待って!
今、水兵服だけじゃなくってスカートの事も気にした⁉︎
もしかして・・・バレてる?
ボクが冷や汗をかきながら返事に困っていたら、オヤブンが笑いながら社長さんの空いていたグラスにビールを注ぐ。
「そんな細けぇトコ良いじゃねぇか」
「いや〜、些細な事が気になる・・・わたしの悪い癖ですねぇ」
「ところで、ボクにも一つ質問というか疑問があるんですが?」
オヤブンさんが来艦した時からずーっと疑問に思っていた事をぶつける。ボクの視線の先には船霊のイラストリアスさんと、空霊のマリーさんが優雅な所作でテリーヌとワインを楽しみながら歓談していた。
「はい?なんでしょうか?」
「あのぉ、なぜにメイドさん?」
そう、イラストリアスさんとマリーさんは黒いメイド服に白いエプロン、白いつけ襟にヘッドキャップまでつけている、どこからどう見ても地球の文化史博物館で見たビクトリア朝の完璧なメイドさんだった。
「あぁ、それはオヤブンさんのこだわりですよ」
「あ〜、なるほど」
赤ワインを一口飲んで社長さんが簡潔に説明してくれた。そうかこだわりか、趣味なんだ。
ボクがすんなり納得しようとしていたら、そこにオヤブンさんが割って入った。
通信でもオヤブンさんの事を『御主人様』って呼んでたから、薄々そうじゃないかな〜って思ってたんだ。
「おいおい社長、その一言で済ますんじゃねぇよ。でもってアサヒちゃんも、すんなり納得すんじゃねぇよ」
納得しちゃいけなかったんだ、てっきりオヤブンさんの趣味を反映した結果だと思ってた。
「最初はあの二人も士官制服を着てたんだ」
「『駆逐艦・潜水艦の船霊は水兵服、巡洋艦・戦艦・空母は士官制服』という不文律がありますからねぇ」
「それなら、そのまま士官制服で良いのでは?」
イラストリアスさんは色んな意味で立派な装甲空母だ、士官制服でも全然問題ないはず。
やっぱりメイドさん好きなオヤブンさんの趣味?
「そんな目で見るんじゃねぇよ。しばらくは士官制服を着ていたんだが、なんだったっけか?最近サルベージされた古代アニメーション見てから、『英国で【仕える者】とは、こうあるべきなのよ!』とか言い出して、地球からわざわざ取り寄せやがったんだ」
「お二人共、元々ルーツを大事にされる方でしたから、英国独自の文化というものに触れてしまっては、居ても立っても居られなかったのでしょうねぇ」
「他人事のフリするなや、社長」
ジト目で社長さんを睨むオヤブンさん。
しかし当の本人は涼しい顔でグラスの赤ワインを眺めている。
「惚けるなよ、あいつらにイギリスの仕立て屋紹介したの、社長だろうが!」
「わたしは、『イギリス服の腕の良い仕立て屋さんを紹介して下さい』と言われたので、わたしが知る限り腕の良い仕立て屋さんを紹介したまでですよ」
「おかげで俺は軽巡一隻分の出費を抱えたぜ」
「それくらいは男の甲斐性でしょう?」
二人で軽巡一隻分のメイド服一式ってナニ?
「まぁ、社長んトコのタイショーだって船霊さん達は巫女の格好してるもんなぁ・・・そう言えば今日はいねぇのか?」
巫女さん?確か古代日本の神社とかいう宗教施設にいた女性職員だよね。
そう言えば、リアスに一緒に来た女の子もそんな格好してたなぁ、彼女は戦空士だったけど。
「彼の場合は完全に彼の趣味ですがねぇ、ちなみにタイショーは先々週からハワイへ行っていますよ」
「ハワイ?店ぇ放ったらかしてバカンスか?」
「バカンスというより、訓練航海ですね。彼、新しく氷川丸さんを迎え入れましてね。マグロとクジラを仕入れに行くついでとかで、軽空母の龍驤さんを旗艦に、練習軽巡の香椎さん、給糧艦の伊良湖さんに氷川丸さんを連れて行ってしまいましたよ」
「軽空母に軽巡って、正気か?タイショーって自前でクジラ取る気なのか?」
クジラって、あの海洋性大型哺乳類のアレだよね?
地球でも一時期絶滅危惧種になったとかなんとか・・・
「まさか、いくら彼でも捕鯨まではしないでしょう。
ですが、捕鯨を快く思わない方々もいらっしゃいますからねぇ、タイショーは調理と食事を邪魔されると激怒しますから・・・」
反捕鯨に限らず『反◯◯団体』と言うのは、少なからずどの時代どの惑星にも存在している。自分の意見だけを他人に押し付けてくる迷惑千万な人達で、大声張り上げて主張するだけなら五月蝿いだけで良いんだけど、聞き入れられないと実力行使に至る原始人も稀に発生する。
酷いのになると『反戦武装組織』というツッコミどころ過積載な連中まで出てくる始末で、スローガンが【平和の為なら戦争も辞さない】というあたり、一度遺伝子レベルで検査した方が良いのまで存在していたらしい。
リアスにも反戦平和を唱える【自称:平和を愛する平和団体】が生息していて、戦海や戦空を目の敵にして、そこかしこで問題行為を起こしているらしい。
「確かにな・・・俺でも飯絡みでタイショーを怒らせるのは御免蒙る」
「料理人の矜持なんでしょうねぇ」
うわっ、タイショーさんは気をつけておこう。
ボクのイメージでは、タイショーさんは気難しい頑固オヤジの板前さんになっていた。
「普段は明るく楽しいハゲ親父なんだがな」
え?
「えぇ、陽気な居酒屋のタイショーなんですがねぇ」
ダメだ、タイショーさんのイメージが定まらない。
「アサヒさん?・・・アサヒさん?」
「あ、ハイ!なんでしょうか?」
ボクがタイショーさんのイメージに四苦八苦していたら、社長さんに声を掛けられていた。
ボク慌てて顔を上げると社長さんの方へ向き直った。
「大したことではないのですが、アサヒさんは・・・もう所属される艦隊をお決めになられたんでしょうか?」
「いえ、まだ右も左もわからない状態ですので、そこまで考えが及んでいません」
次の瞬間、オヤブンさんの目が今までになく厳しいものになったのを、ボクは見逃していた。
「おい、社長」
初めて聞くオヤブンさんの声色にボクは身震いしてしまう、それは演習とはいえ戦闘中ですら聞いた事のない声だった。




