表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄の獰猛、再び〜戦海の絆〜  作者: ソロモンの狐
3/44

移住審査

ちょっと背伸びしてしまう机に向かい、僕は初めてペーパーという記録媒体に必要事項を記入してゆく。

ハルゼー審査官に貸して貰った記入様のペンは、『記入』という行為に不慣れな僕でもスラスラ書けるとても良い道具だった。

タッチセンサーにも音声入力にも無い『書いて残す』という感覚。

氏名・出身地・経歴その他諸々、これまでの『自分』というものをペーパーに移して行く行為に、いつの間にか僕は没頭していた。


最後の項目まで書き上げて再びカウンターへ戻ると、さっき埠頭でテンション上げまくっていた女の子がハルゼー審査官のカウンターに身を乗り出し、中を覗き込んでいた。

そうか、彼女が『もう一人の移住希望者』だったのか。

道理で妙な格好してると思った。

彼女のテンションは全く下がる様子がない、むしろハルゼー審査官が操作する機械を見て瞳を輝かせている。

あれは確か・・・タイプライター?

1000年以上前に地球で使われていた古代の印字機械、ガチャガチャと騒々しいし入力の取り消しも出来ない、手首や指にも絶対負担が掛かっているであろうそれは完全な欠陥機械。

昔の人達はこんな欠陥機械でも使わざるを得なかったのか、そう思うと古代人の苦労と共に現代に生まれてきて良かったとつくづく思い知らされる。


「それはタイプライターだね、古代の印字機械だ」


タイプライターを知らないであろう彼女に、興味の対象の名前を教えてあげる。


「タイプライター、これが?」


名前を知った事で一層興味津々でタイプライターを見つめる女の子。そんなに見つめなくても良いでしょ、確かに珍しいけどね。


「ほぅ・・・小僧、ドアの開け方は知らんのに、タイプライターは知っとったか」


その言葉に僕は少しだけムッとする。


「スミソニアンで実物を見たんですよ、動いてるのを見られるとは思いませんでしたけど」


その間もハルゼー審査官の指は止まらない、本当は音だけ出してて思考入力とかやってるんじゃ無いよね?

僕も女の子と同じ様にカウンターから身を乗り出して、ハルゼー審査官の手元を見つめる。

ホントに入力してる、それも結構な速さだ。

そう思って見ていると、さっきまで騒々しいだけにしか聞こえなかった音が、妙に心地良いリズムに聞こえてくるから不思議だ。


そうこうしている間に、彼女の分のペーパーが出来上がる。


「これでお嬢ちゃんの分は良し」


ペーパーにもう一度目を通し確認する。


「次は小僧の分じゃな、ほら貸せ」


ハルゼー審査官、心なしか彼女と僕で扱いが違いませんか?

彼女は『お嬢ちゃん』で僕が『小僧』、一度なんて『貴様』だったよね?


御剣大和(みつるぎ・やまと)です、移住審査お願いします」


僕は少し緊張しながらハルゼー審査官にペーパーを手渡す。


「ふんっ、初めて書いた割に綺麗な字で書けとる。ん?ミツルギ?小僧、貴様ミツルギの、ミツルギミカサの縁者か?」


ほら、今度は小僧と貴様の両方一度できたよ。

しかも曽祖父の名前まで出てきた、表情も今まで以上に闘犬っぽい。


「はい、御剣三笠は僕の曽祖父ですが?」


まだ見ぬ曽祖父よ、一体何をした?しでかした?

隠しても仕方ない、ここは素直に認めておこう。

下手に隠して後でバレたら、それこそハルゼー審査官(闘犬おじさん)に噛み殺されかねない。


「そうか・・・こぞ、いや貴様がミツルギのひ孫か。

そうかそうか、ヤツのひ孫か・・・そう言えば目元なんかがヤツに似ておる」


あれ?なんか妙な感じ。

懐かしむような、喜んでるような・・・それでいてなんか物騒なオーラが出てきてるんですけど。

今度は僕のペーパーをタイプライターにセットして、またガチャガチャとタイプを始めるハルゼー審査官。


隣の女の子は、目を閉じてまた聞き入ってる。


いつの間にか僕も聞き入ってしまっていたようだ、唐突に途切れた音にふと現実へ引き戻される。


「よし、出来たぞ。コッチがお嬢ちゃんの許可書、貴様のはコッチじゃ」


ハルゼー審査官は両手で僕らに許可書を差し出す。


「ありがとうございます、ハルゼーおじさま」


「ありがとうございます、ハルゼー審査官」


二人共お辞儀をして許可書を受け取った、反射的にお辞儀をしちゃうのは、やっぱり僕らが日本人系だからなんだろうか?


「おう、これで二人共リアス人じゃな。綾風戦空士に御剣戦海士」


「え?君が戦空士?」


僕は隣の女の子を見る、背丈は僕と同じくらい、年齢だって同じか下手をすれば年下に見える。戦空士って荒っぽい人達ばかりだって聞いていたけど、女の子もいるんだ。

なんて思っていたら、向こうも同じように返してきた。


「え?貴方が戦海士?」


ご丁寧に指まで差してる、失礼なのはお互い様か、僕も彼女を指差してた。


「僕は御剣大和です、よろしく」

改めて自己紹介しておく、これも何かの縁だろうし

『戦海士は紳士たれ』

というのが地球で仕入れた唯一の知識だったから。


「わ、私は綾風っ、綾風瑞穂ですっ。よろしくお願いします」


なんだかとても緊張してるみたい、僕ってそんなにとっつき難いのかな?ちょっとショック。


「まぁ、リアスについてはこれをよく読んどけ。綾風戦海士はもう充分だろうが・・・大和、貴様はしっかり頭に叩き込んどけ!」


そういうとハルゼー審査官は、机の引き出しから二冊の本を出して僕らに手渡した。

本だ、ペーパーで出来た重たくてかさばって破損しやすくて検索機能も無い一々不便な本だ。


「えへへ、実はもう持ってるんです」


何故か照れ臭そうに彼女はボストンバックから同じ物を取り出す。


「やっぱり持っておったか、しかし随分くたびれとるな」


確かに彼女の本はボロボロだった、しかしそれは粗末に扱ったからではなく、むしろ大事に大事に繰り返し繰り返し使われたからこそのくたびれ方だった。


「はいっ、いただいてから毎日読み耽っていたので」


毎日って・・・いくら毎日読んでもそこまでボロボロになるのかな?

やっぱりこの子も戦海士だから、粗忽なところがあるのかもしれない。

「あぁ、それはちょっと古いヤツだな。中身は大して変わっとらんが、これも持って行け」


何故か嬉しいそうに受け取る綾風さん、変わり者だな絶対。

こんな荷物増えても仕方ないだろうに。


「大和、ほれ貴様も持って行け。ここで暮らすなら読んどかんと恥かくぞ」


そう言ってハルゼー審査官はそれを押し付けてきた。

が、僕にはあまり必要無い・・・だから渋々受け取った。



だって、僕は来週の便で地球に帰るのだから。

僕は一週間だけのリアス人、一週間だけの戦海士なのだから。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ