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鋼鉄の獰猛、再び〜戦海の絆〜  作者: ソロモンの狐
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覚悟

特攻艦隊の針路が085に揃い、イラストリアスから再びソードフィッシュ雷撃機が五機発艦して行った。

第一次偵察隊は索敵範囲を広げる為、互いに離れていく針路を取っていたけど、第二次偵察隊はおおよその範囲が絞り込まれている為、あまり広がらずに飛んで行く。


「方位085を中心に五度ずつずらしているようですね」


多分、どれか一機の雷撃機が襲われてもすぐに隣の索敵線を飛ぶ機体がフォローに行ける様にしてるんだと思う。


「こちらアトランタ。11時の方向、敵索敵機発見。水偵(げたばき)です」


入れ替わりに現れたのは帝国艦隊の偵察機だった。

マップ上単縦陣で進む艦隊の左前方に、黄色の点滅する光点が表示された。


「こちらネルソン、1時方向にも敵機。アレも水偵(げたばき)だ」


「挟まれたな・・・敵の機種はわかるか?」


敵索敵機は、砲戦部隊から付かず離れずの距離を保っていてイラストリアスからは直接見えない位置にいた。


「こちらアトランタのジェダイ。単発単葉低翼で双フロートの複座機・・・アレは零式三座水偵ですね」


「チッ、また面倒なヤツに見つかったモンだな。とりあえず帝国艦隊の最低一隻は日本艦、それも重巡クラスってことか」


マップの隣に新たなウインドウが開く、そこにはジェダイさんが言っていた『零式三座水偵』なる機体の3D画像と性能諸元が表示されていた。

最高速度は367キロと平凡だけど、驚くべきはその航続距離でなんと3300キロもある、おまけに滞空時間も15時間近くに達する。

これって三人乗りだよね?

三人で交代しながら操縦するの?

食事は良いとして、トイレとか休憩とかどうするんだろう?

この時代の日本人(ごせんぞさま)って、どこまで人間離れしてたのかな?


「こっちにゃ戦闘機が無いからなぁ。まぁ、近付いてきたら対空砲火で追い払え」


今回のイラストリアス戦闘機を全部下ろして、ソードフィッシュ雷撃機に統一してきている。

だからあの水偵を排除する方法は無い。

もしソードフィッシュでは無く、艦上爆撃機かなにかだったら複数機で追い回して撃墜無理でも追い払うことが出来たんだろうけどね。

データで見る限り、複葉機vs水上偵察機でもソードフィッシュは零式三座水偵に勝てそうになかった、下手すればソードフィッシュが撃墜される可能性の方が高い。


「敵索敵機が盛んに無電打ってますね、暗号化されていますが私達の座標と針路のようですね」


イラストリアスさんが偵察機から発信された電波を傍受したらしい。


「イラストリアス、無線封鎖解除だ第一次偵察隊を呼び戻せ。全艦、対空見張りを厳とせよ。今頃第一次攻撃隊が出てるだろうよ」


見つかったからにはこちらから電波を出しても問題ない、今は一機でも多くの戦力が欲しいんだからさっさと呼び戻すことにしたんだと思う。


それから15分後、今度は第二次偵察隊の四号機が連絡を絶った。

四号機は艦隊針路の中央右寄りの索敵線を飛んでいた機体で、本命の索敵線は艦隊針路の左側、二号機と三号機のはず。

オヤブンさんの予想よりだいぶん右寄りだ。


「思ったより前進してねぇな・・・それに撃墜(おと)されるのが早過ぎる」


空間投影されているマップにはオヤブンさんが書き込んだ帝国艦隊の予想位置と針路が記されている。

それによると、帝国艦隊は自らが発見されたと同時に特攻艦隊とは反対側へ針路をとり、距離を保ったまま空母艦載機による空襲を仕掛けてくると予想していた。


「三号機と五号機も通信途絶です」


「おかしい、おかし過ぎるだろ」


オヤブンさんに少し焦りの色が見える。


「確かに妙ですね、こちらの偵察機は一切通信出来ずに撃墜されています。それも結構な広範囲で」


敵に居場所を知られない様に偵察機を落とすのは理解出来るんだけど、ここまで執拗に徹底的に落とすというのもちょっと異常だよ。

直接見られるかも知れない偵察機を落とすのはわかるけど、両隣りの索敵線を飛ぶ偵察機までとなると神経質過ぎる。


「なんだ・・・社長、なにを企んでやがる」


オヤブンさんも帝国艦隊の意図を読みあぐねている。


「ジェダイより意見具申あり」


「なんだ?」


「2時から3時方向にかけて邪悪なフォースを感じます」


邪悪なフォースって度々出てくるけど結局なんなんだろう?

とりあえずボクは敵意とか害意と脳内翻訳する事にした。


「2時から3時方向だと?」


艦隊の2時から3時方向となると、さっき通信途絶となった偵察機の偵察範囲よりも更に外側になる。オヤブンさんの予想地点からもかなり外れている場所だ。


「そいつはデカイか?」


「いえ、微弱です」


オヤブンさんはジェダイさんの意見具申を受けて再び考え込んだ。


「そいつは潜水艦かも知れねぇな、回り込んで奇襲でもかける算段だろう」


今回の演習には両軍一隻ずつ潜水艦が参加している、水中に隠れて忍び寄る事が可能な潜水艦が洋上艦と一緒に行動する必要は無い。

現にタナトス中佐の潜水艦は潜航したっきり姿を見せていない。

帝国艦隊の潜水艦はオヤブンさん達の意識が帝国艦隊の本隊へ向いている隙を狙うつもりなのかも知れない。


「ったく、社長は演習でも一切手ぇ抜かねぇな」


あの手この手を次々に繰り出してくる『帝国の社長』さん、一体どんな人なのかな?


「3時方向の敵艦を潜水艦だと仮定して、視界の外だから距離4万と仮定すると・・・イラストリアス、ヤツは俺らを有効射程に入れるのにどれくらいかかる?」


敵潜水艦は間違い無くこちらに見つかる前に潜航して接近してくるはず、そうなると水中速力の遅い潜水艦が射点につくのは一苦労のはずだ。


「敵潜水艦がタナトス中佐と同等の艦としても一時間は掛かりますね。それでもバッテリーはカラッポになる計算です」


「俺たちが突撃針路を取ったから、社長の計算もズレたな」


怪我の功名とでも言うべきなのかな?

これが『戦海』なんだね。

『戦海』は人と人の戦い、常に思い通りにはいかないし、裏の裏をかかなければ勝てない。

臨機応変に対応出来ないと勝てない。


「アサヒ艦長、面白れぇだろ?こいつが戦海の醍醐味さ」


手探りの状況、乏しい判断材料で即座に決断しなければいけないのに、オヤブンさんは生き生きとしてすごく楽しそうだ。


そしてボクもその世界へと引き込まれていきそうだった。


「ハイ、見てるだけなのに凄く楽しいです」


訂正、充分引き込まれてます。


ワクワクする、これからの展開に。


ドキドキする、互いの指揮官の知略と各艦の奮闘に。


特攻艦隊はひたすら前進する、オヤブンさんは航空偵察を諦めた様子で残り23機のソードフィッシュ雷撃機は全機雷装して、第一次攻撃隊になる12機が飛行甲板の後方にリフトアップされてきてスタンバイをしていた。


「やっぱり、帝国もガチの殴り合い狙いだったのか」


正面やや右寄りの水平線が薄くけぶってきた。

それは主力艦が吐き出す煤煙だ、現代の技術で本当なら無煤煙化してるんだけど、無駄にリアルを求める戦海の人達の要望によって人畜無害な天然素材で色付けされている『見かけだけの煤煙』だった。


「望むところだ、ネルソンの16インチ砲で粉砕してやるわい」


確かにネルソンの主砲配置なら前方に向かって撃つのは得意そうだよね、ついでに真正面からなら被弾する面積も最小限に出来る。

でも、ボクの中に小さな違和感が生まれる。

早い段階で偵察機を張り付かせて特攻艦隊の編成も場所も針路も知っていたはずの帝国艦隊が、どうして真正面からぶつかってきたんだろう?

策なんか弄せずとも勝てる、と言う自信なのだろうか?

リラバウル有数の戦力を持つ、という驕りなのか?

でも、さっきオヤブンさんは社長さんの事をこう言っていた。

『演習でも一切手を抜かない人』

だと・・・

なのに、なぜ?


「頼りにしてるぜ、弾着観測射撃は出来ないが我慢してくれよ」


「心配ご無用ですわ、距離3万なら弾着観測がなくても当ててご覧にいれます」


船霊のネルソンさんは自信たっぷりだ。


「それじゃ、俺たちは一旦下がる。イラストリアス12ノットに減速」


「クレオパトラ以下も減速します」


イラストリアスを中心とした輪形陣が徐々に遅れ始める、空母が砲戦に巻き込まれたら元も子もない、だから戦況が確認できる範囲で後退して安全を図るための措置だ。


「こちジェダイ、敵艦隊を発見」


「艦種が分かり次第報告せよ」


水平線の向こうに少しづつマストや上部構造物が見えてきた。


「こちらジェダイ、敵は単縦陣の模様・・・先頭はフレッチャー級駆逐艦、次に利根級重巡洋艦」


帝国艦隊も特攻艦隊と同じく単縦陣だった。

次々に現れる艦船の種別をジェダイ中佐が報告してゆく、そして報告のあった艦のデータがマップに落とし込まれていく。


先頭は米国製駆逐艦のフレッチャー級、なんと175隻も建造された駆逐艦。

対空攻撃力は心許ないけど、五連装魚雷発射管二基は接近を許すと厄介な相手になりそう。

次に日本の利根級重巡洋艦、艦首に四基八門の8インチ砲を搭載してる。艦尾は水上機を搭載・運用するためのスペースになっている。

なんだかネルソンの重巡バージョンみたいだね、でもネルソンと違って水偵が六機も搭載出来るんだ。


「利根級の後続は、ドイッチュラント級装甲艦ですね」


「また妙な(ふね)を持ち出してきたなぁ」


オヤブンさんがうめく。


ドイッチュラント級装甲艦、別名ポケット戦艦。

『戦艦より弱いけど早くて、重巡洋艦より遅いけど強い』と言うコンセプトで設計建造された艦。

自分より強い戦艦相手だとスピードを生かして逃走、自分より弱い巡洋艦相手なら28センチ砲で戦うという自分勝手極まりない艦だ。


「帝国の戦艦はフッドのようです」


フッド級巡洋戦艦、ネルソンと同じく英国の戦艦だ。だけどフッドは“巡洋”戦艦で30ノット近く出せる代わりに装甲は本家の戦艦より薄く、防御力に難がある。

旧地球歴の20世紀末の有名な言葉に

『当たらなければどうと言う事はない』

と言う名言があるらしいけど、それとなにか通じるところでもあるのかな?


「こちらジェダイ、いま見えているのは以上ですね」


「どういうこった?四隻だけだと?」


戦艦一隻・重巡二隻・駆逐艦一隻だけ、潜水艦は別としても空母と残り三隻が全く見当たらない。

偵察機があれだけ落とされたんだから、絶対に戦闘機を積んだ空母が同行していると思ったのに・・・


「なにもかが奇妙だ、社長の狙いがサッパリわからん」


オヤブンさんは困りながらも、嬉しさ楽しさを隠しきれないご様子。


「これだから帝国艦隊相手の演習はやめられねぇんだよ」


「どうします?このまま予定通り反航戦で行きますか?」


単縦陣の主力は戦艦ネルソンだけど、先頭を進むのはジェダイさんの指揮するアトランタとZ25級駆逐艦二隻だ、オヤブンさんが考えていた状況とは色々違うけどどうするんだろう。


「あぁ、問題無い。このまま突っ込むぞ」


下手な小細工無し、特攻艦隊は戦闘準備を整え帝国艦隊へ向かっていった。




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