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鋼鉄の獰猛、再び〜戦海の絆〜  作者: ソロモンの狐
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リラバウル二日目の朝

「う〜〜ん、よく寝た〜〜っ」


リアスで迎える初めての朝、リラバウルの二日目の朝だ。

昨日は色々あり過ぎて、布団に入った僕はそのまま夢も見ない程の深い眠りについた。

昨夜、102号室で就寝しようとしていたボクのところに突然間宮さんと雪風ちゃんが来たのは驚いた。

間宮さん達のことだから『一緒に寝よう』とか言ってくるかと一瞬身構えたけど、空調機の付いてない102号室だと寝苦しいと思うので間宮さんの201号室で寝た方が良いと勧められた。

ボクは遠慮しようかと思ったけど、リラバウルは熱帯で窓を閉めていたら部屋の中は結構暑かった。

窓を開けてても網戸っていうのが付いているから大丈夫、と思ったんだけど外の空気も暑かったし、なによりその網戸に極彩色の得体の知れない虫が何匹も引っ付いていたので、網戸にして眠る勇気はなかった。

ちなみに間宮さんは203号室の雪風ちゃんの部屋で眠るという事だったので、好意に甘えて部屋を貸して貰ったのだった。

様々な小物に囲まれた間宮さんの部屋で落ち着かないかな?と思ったけど、空調機からの涼しい風とお香でも炊いていたのか、部屋全体からほのかに香る甘い匂いでボクはすっかり熟睡していたのだった。

洗面所で顔を洗い歯を磨き、パジャマから昨日の水兵服に着替えて帽子を被り、部屋にあった姿見で身だしなみをチェックする。


「うん、変な折り目も付いてないしOK」


姿見に映るボクは確かに女の子に見える。

男の子にしては少し低い身長。

男の子にしては華奢な身体。

男の子にしては色白で肌もスベスベ。

顔つきも穏やか、ヒゲもスネ毛も生えてこない。

ボクの全部が、ボクが男の子である事を否定している気がしてきた。

これでこの服が似合わなければ良いんだけど、我ながら腹が立つほど似合っていて、情けない程に女の子してる。

肩を超える黒髪が余計に女の子っぽさを引き立たせてるのかなぁ、いっそ短く切っちゃおうか?

でも鏡を見ながら想像して見たけど、絶対似合わなさそうだから却下だ、短髪より女の子の格好が似合うってなんなのさ・・・


軽くショックだ。


ボクが軽く絶望していると、コンコンとドアをノックする音がした。


「アサヒちゃ〜ん、起きてる〜?」


雪風ちゃんの声だ。


「は〜い、準備出来てるよ〜」


パタパタと小走りで玄関まで駆けて行きドアを開けると、そこには爽やかな笑顔の雪風ちゃんが立っていた。


「アサヒ艦長、おはようございます」


ピシッと敬礼して朝の挨拶をする雪風ちゃん。

アレ?艦長扱いに戻ってる?


「おはようございます、雪風ちゃん」


見よう見まねで敬礼を返す。


「バッチリ決まってますね」


ボクが敬礼を下ろすと雪風ちゃんも敬礼を直す。


「ありがとう、雪風ちゃん。雪風ちゃんこそ、今日も似合ってるね」


ホントは『今日も可愛いね』って言いたかったんだけど、朝一からまた妙なスイッチが入っても困るんで言わなかったけどね。


「えへへ、アサヒ艦長に褒められちゃったです」


準備は出来ていたから、そのまま二人で階段を降りる。

そこには、平賀所長と間宮さんが待っていた。


「おはよう。アサヒ、雪風」

「おはようございます〜、アサヒちゃん雪風ちゃん」


何か話していたらしい二人。


「おはようございます、おじいちゃん、間宮さん」

「おはようございます、平賀所長、間宮さん」

「間宮・・・さん?」

しまった!間宮さんの表情が暗くなって目がウルウルしてきた。


「間宮母様、おはようございます」


パァッと明るくなる間宮さんの表情、どんだけゲンキンなんだ。


「あれ?明石さんは?」


あたりを見回しても明石さんの姿はない。

寝坊かな?それなら起こしに行かなきゃ。


「明石さんは〜、お部屋のお片付けが〜、ありますので〜」

「先に行くぞ、朝飯までには来るじゃろう」


平賀所長を先頭にぞろぞろと造船所へ移動する。

時間は午前七時、まだ街は起き出したばかり、熱帯の空気もまだ温まっていないから過ごしやすい。

造船所に着くと間宮さんは朝ごはんの準備に、ボクと雪風ちゃんは朝ごはんまでの間に、事務室で平賀所長に座学を教わる事になった。


「基本的な事はそこに書いてある」


分厚めのテキストを渡された。

座学は自習になった。


一時間程自習をしていると、間宮さんが奥の部屋から

「ごはんですよ〜」

と呼ぶ声、ちょうどのタイミングで明石さんがやってきて、みんなで朝ごはんとなった。

今日の朝ごはんは、塩鮭とほうれん草の胡麻和え、それにごはんと、お豆腐とワカメのお味噌汁だった。


・・・一人を除いては。


しょんぼりしていて若干元気の無い明石さん、明石さんの朝ごはんは、ごはんとお味噌汁、あとは梅干し一個だけだった。


「あのぉ、明石姉様?良かったらお魚半分こにします?」


あまりの格差に居た堪れない気持ちになったボクは半分こにした塩鮭を差し出そうとした。


「アサヒちゃんは〜、しっかり食べないと〜いけませんよ〜」

「え?でも・・・」

「明石ちゃんは〜、良いんですよ〜」

「明石姉様、なにかあったの?」


なにがあったんだろう?間宮さんが意地悪でこんなことをするとは思えない。


「明石ちゃん〜、今日だけ(・・・・)特別メニューが良いのかしら〜?それとも一週間かしら〜?」


「今日だけでお願いします」


呻く様に答える明石さん、ボクはこの時理解した。

誰にでも言えない事、知られたく無い事は多い。

そして知らなくて良い事、知らない方が良い事はもっと多い。

「それじゃ、いただきます」

「「「「いただきます」」」」

間宮さんのごはんは今日も美味しかった。



食後にお茶を飲んでいると平賀所長が今日の予定を話し出した。


「アサヒは雪風で訓練航海に行ってこい、訓練内容は基礎航海術と主砲射撃訓練ってトコだな。間宮、悪いが付いて行ってやってくれ」


「了解しました」

「は〜い、久しぶりのお出かけだわ〜」

雪風ちゃんとの訓練に間宮さんが?

なんだろ、保護者的な立場で付いてきているのかな?


「明石は儂とカシオ造船に行くぞ、タナトスんトコに引き渡す艦の最終調整をするそうで手伝いを頼まれとる」

「お?あの娘も遂に出撃可能になったの?」


一気に元気になる明石さん。


「竣工だけだがな、基本知識は大丈夫だが、ある程度は慣らしておかんとタナトスも困るだろうから、その調整だな」


「了解〜、楽しみだな〜」


こうしてボクらは各自準備に取り掛かった。





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