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鋼鉄の獰猛、再び〜戦海の絆〜  作者: ソロモンの狐
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裏方の力

『まな板の鯉』ってこういう状態なんだっけ?

鯉って魚だったよね?見た事ないけど。

ボクは間宮さんの膝の上に乗せられちょこんと座っていた。


取り乱してしまった間宮さんに危機感を感じたボクは、呆然と見ているしかなかった明石さんと雪風ちゃんに助けを求めた。


「間宮さん落ち着こう、とりあえずアサヒちゃんを解放するんだ」


「アサヒちゃんは私のです〜、放してください」


雪風ちゃんが相変わらずおかしな事を口走ってるけど、気にしたら負けだと思うことにした。


「ゆきりん、それは聞き捨てならないよ。アサヒは私のもんだよ」


明石さん、お願いですからこれ以上話をややこしくしないでください。

誰のものでもありません、ボクでボクのものです。


「間宮さん、アサヒちゃんを放しなよ。いい加減にしないと実力行使だよ?」

「い、いくら間宮さんでも譲れない事もあるのです」


二人は間宮さんににじり寄る。


「嫌です〜、アサヒちゃんを〜、私のムスメを取っちゃやだ〜〜っ」


余計に抱きしめる力が強くなった。

やれやれといった表情の明石さんと雪風ちゃん。


「仕方ないなぁ、ゆきりん。私が間宮さんを抑えるからアサヒを確保してよ」

「わかりました、間宮さん覚悟です」


更に距離を詰める二人、船霊にもある程度個体差があって、それは本体の艦種に影響されるらしい。

完全に非戦闘艦である間宮さんが、駆逐艦である雪風ちゃんとパワーでは引けを取らない明石姉様の二人に敵うはずがない。

そう思ってました、この瞬間までは・・・


「うぅ・・・ぐすん、お好み焼き、タコ焼き、タコ飯に鯛めし、鯛茶漬け」

「うっ・・・ずるいぞ!間宮さん」


急に明石姉様の動きが鈍る。


「えっぐ・・・シュークリーム、クレームブリュレ、イチゴ大福、アイスクリーム」

「ふえっ・・・そ、それは卑怯です」


雪風ちゃんに至っては完全に動きを止めてしまった。


「もう作ってあげないんですからぁ」


なるほど、『胃袋を掴む』ってこういう事か。

ダメだ、この二人に解決を期待したボクが悪かった。


「アサヒ、ごめん」


明石さん、どうして目を逸らしますか?


「アサヒちゃん、ごめんなさいです」


雪風ちゃんは背を向けた。

ちょっと?お二人さん?




そして冒頭、現在にいたる。

「ふんふんふ〜〜ん」

鼻唄を歌いながら、軽やかに、朗らかに、そして上機嫌でボクを膝に乗せてる間宮さん。

ボクの長い髪をゆるい感じの三つ編みにしたり、ポニーテールにしたりして遊んでる。

いや、間宮母様。

さっきから『間宮さん』って呼ぶと泣きそうな顔になるんだもん。ちなみに『お母様』って呼んでって言われたから一度だけ呼んで見たところ、蕩けてしまいそうになったから、アレは封印です。



「で?そうなっとるわけか」


外出から帰ってきた平賀所長の第一声だった。


「こうなってるわけです、お祖父様」


もう達観するしかなかった、それに不快なわけでも無いし、むしろ心地いいし。


「間宮よ、そろそろ晩飯にしようや」

「え〜〜っ、今日は〜おやすみにしたいです〜。その辺にあるもの食べてて下さい〜」


うわっ、完全に職場放棄だ。


「それでは仕方ないな、折角アサヒが来た祝いにすき焼きをしようと、奮発してコウベビーフの特上を二キロも買って来たというのになぁ・・・明石と雪風に作らせるか、無惨なすき焼きにならねば良いがのぉ」


見れば平賀所長の右手には乳白色のビニール袋、左手には白い大きめの紙袋が下がっていた。


「それどういう意味だよ、所長」


「すき焼きくらい作れるはずです」


「明石に料理のスキルは求めちゃおらんわ、お前は鍋料理より鍋そのものを作る方が上手いだろう。雪風は台所に立たせる方が怖いわい、この前カレー作るのに小麦粉炒め損なって粉塵爆発起こしただろうが、お前の艦内厨房じゃなかったら大惨事じゃわい」


鍋料理するのに鍋そのもの作るって、自給惑星『DASH』で大人気の農業系アイドルですか?

それに料理中に粉塵爆発って何?カレーって爆発物なの?


「コウベビーフの〜、すき焼きですか〜?う〜ん、今日は〜、肉じゃがにしようと材料を〜買って来たんですけど〜」


「その肉じゃがは出来てるのか?」

「まだです〜」


そりゃそうだ、お茶会始めてから間宮母様は一歩も動いていない。


「今から作っても味が染み込まんだろ、そんな肉じゃが食いたく無いぞ」


「わたしも〜、そんな肉じゃが出したく無いです〜」


そこはプロの料理人としての意地なのかな?

でも、これじゃいつまで経ってもラチがあかない。


「それじゃ間宮母様、ボクもお手伝いするから『すき焼き』を作って貰えませんか?」

「それなら〜良いですよ〜」


嬉々としてボクを解放して立ち上がる間宮母様、平賀所長からビニール袋を受け取る。


「それでは〜、準備を〜始めましょ〜」


ボクは手を引かれて、事務所に連れて行かれた。



平賀造船の事務所は、入ってすぐの部屋がかなり広めの事務室になっていて、入って右側に大きなデスクが一つと普通サイズのデスクが二つ、そしてデスクの背後の壁には黒いボードが設置されていた。

多分大きなデスクが平賀所長専用の机だと思う、青いインクで駆逐艦雪風の図面が印刷された大きなペーパーが見えていた。

左側には、ボクが平賀所長にぶん殴られて雪風ちゃんに介抱されていたソファーと、お昼ごはんをみんなで食べた応接セットがある。

そして向かって右端にある扉を開くと奥へ続く廊下がある。廊下の途中に引き戸があって、そこは一段高くなっていて、畳という天然素材の敷物が敷かれた結構広い部屋になっていた。


「ここは〜、みんなでごはん食べたりするトコですよ〜。寮にも〜小さな台所がありますが〜、みんなココでごはん食べてくれます〜」


廊下の一番奥はL字になっていて、突き当たりが広めの台所、その隣にトイレとシャワー室が設置されていた。

「所長は〜、お仕事が忙しくなると〜、此処に泊まり込むんですよ〜」


どうやらその為のシャワー室らしい。


「それでは〜、支度を〜始めましょ〜」


やる気を取り戻した間宮母様の支度は手際良く、お手伝いと言っても、お肉や野菜を盛り付ける大皿を用意しただけだった。

お肉は一枚づつ丁寧に盛り付けられ、野菜も綺麗に洗われた上で寸分違わず切り揃えられる。


「戦闘モードの〜、わたしは〜、結構凄いんですよ〜」


なるほど、間宮さんの戦場は台所で武装は料理そのものなんだ。話し方から戦闘モードっぽさは全然無いんだけどね。

決して主砲や魚雷を撃つだけが戦闘じゃない、明石さんや間宮さんのような裏方がいるから、戦闘艦は全力が出せるんだ。


「凄いです、間宮母様」

「うふふ〜、アサヒちゃんも女の子なんだから〜、これからお料理も〜、練習しましょうね〜」


ごめんなさい、その点については保留させて下さい。






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