母性の人、間宮さん登場
いまだブツブツ言ってる雪風ちゃんを残して、ボクと明石さんは一旦雪風から退艦した。
もちろん明石さんが先でボクは後ろに続く。
「あらあら〜、可愛い子ね〜、どこから来たの〜?お名前は〜?」
間宮さんという和装美人のお姉さんは、おっとりとした話し方でボクに話しかけてきた。
「あの、初めまして。ボク今日地球から来ました、平賀所長の孫で平賀アサヒって言います」
なんだか自分で自分を追い詰めている気分だよ。
ボクどんどん女の子になってないかい?
「あら〜そうなの〜、可愛いわね〜。私は〜、給糧艦『間宮』の船霊なの、よろしくね〜」
給料?サラリーで働いているのかな?サラリーで働く艦ってなんだろう?
「給糧艦の給糧ってのは給料じゃないぞ、給食の給に食糧の糧。一種の補給艦だよ」
明石さんから鋭いツッコミ、この人ボクの心が読めるのか?
「そんな顔しなくても、アサヒちゃんの勘違いくらいわかるよ」
え?ボクどんな表情してたんだろ。
「給糧艦というのは〜、ごはんを作る艦なんですよ〜」
物凄くザックリとした説明、ありがとうございます。
「ホントにごはん作ったり、お菓子作ったりしてくれるんだよ」
え?ごはんとかお菓子作るだけの艦?そんなのアリ?
「信じてませんね〜、それでは〜、私の大人気な〜お菓子ですよ〜」
「じゃ〜ん」と効果音をつけながら、植物繊維で編んだ手提げから棒状のモノを取り出した。
「はい、アサヒちゃんに差し上げます〜」
「お?間宮羊羹じゃん⁉︎良いな〜、私にはないの?」
ずっしり重い『羊羹』というものを受け取ると、明石さんが予想以上に食いついていた。
本当に食らいつきそうなくらいに食いついていた。
「ごめんなさいね〜、それが最後の一竿なの〜。また作るわね〜」
「それじゃ、みんなでオヤツにしませんか?ボク一人じゃ食べきれないですし」
平賀所長はまだ帰って来てないし、女子だけのお茶会っていうのも良いよね。
ヤバい、一瞬自分の性別間違えてた。
「良いですね〜、美味しいものはみんなでいただきましょ〜」
しかし間延びした話し方の人だなぁ、全然戦闘艦の船霊っぽくないよ。
「お〜い、雪風〜。間宮さんの羊羹切るぞ〜」
雪風に向かって明石さんが大声で叫ぶと、ドドドと音を立てて雪風ちゃんが走ってきた。
タラップを使わずに舷側から飛び降りて来た、危ないからやめようね?雪風ちゃん。
「わ〜い、間宮さんの羊羹です〜。分厚く、分厚く切ってください」
トラウマスイッチは甘味でオフになるらしい、覚えておこう。
「それでは〜、わたしはお茶を用意しますね〜。どこで〜お茶にしますか〜?」
せっかくだからおんぼろな事務所じゃなくて、もっと良いところがないかな?
キョロキョロ見回すけど適当な場所は見当たらない。
「それでは〜、野点というのはどうでしょうか?」
「野点?良いね、やろうやろう」
「わ〜い、間宮さんのお茶会です〜」
野点ってなんだろう、明石さんも雪風ちゃんもノリノリだけど。
「野点というのは〜、屋外でお茶を楽しむお茶会の事ですよ〜。道具は私の艦に揃っているので〜、取って来ますね〜」
間宮さんの本体もみられるんだ。
「それでは〜、私の艦と〜、雪風ちゃんを〜交換しますね〜」
間宮さんはドック入口横にある、ここだけは現用テクノロジーの空中投影型コンソールだ、それを操作・・・しようとして固まった。
「明石さ〜ん、これって〜どう動かすんでしたっけ?」
小首を傾げてる間宮さん、なんだかハイテクノロジーに弱いお母さんみたいだ。
「あ〜、いいよいいよ。私がやるから」
教えるよりも自分がやった方が早いと思ったんだろう、明石さんが代わってコンソールを操作する。
「えーっと、雪風ちゃんを亜空間ドックの八番に格納して、間宮さんを十二番から呼び出しだね」
明石さんが操作すると、今まで目の前にあった雪風の船体が消え去り、代わりに雪風より巨大な艦影が現れた。
長さは雪風より少し長いくらいだけど、船体の大きさは雪風の比ではなかった。
雪風が全体的に低く抑えた設計で、獲物を狙う猟犬の様なスタイルなのに対して、間宮は色こそ雪風みたいな灰色だけど貨物船っぽくて、ボクが乗って来た『あるぜんちな丸』に近い感じがした。
艦首は大きく立ち上がっていて舳先は海面に対してほぼ垂直だ、艦橋も横に広くてちょっと窮屈な雪風とは全然違う、その艦橋の後ろ艦の中央部に大きな煙突が一本そそり立ってるんだけど、これも直立してて全然速そうじゃない。
もしかして、元は貨物船だったのを改造したとか?
それなら間宮さんのおっとりした話し方にも納得出来るね。
「じゃじゃ〜ん、こちらが給糧艦『間宮』で〜す。お肉やお魚、お野菜などを一万八千人に三週間供給出来るんですよ〜」
一万八千人分を三週間⁉︎なんだそれ?
「それだけじゃないんです、間宮さんは羊羹や最中、アイスクリームもラムネも作ってくれるんです。艦隊のアイドルですよ〜」
「アイドルだなんて〜、恥ずかしいですよ〜」
薄紅色をした着物の袖をフリフリしながら自己紹介?をする間宮さん、なんだか凄くかわいい。
見た目は二十代後半くらいなんだけど、薄紅色の和服に胸まである白いフリフリ付きエプロンで、のんびりというか、おしとやかな雰囲気で美人だけど、どちらかというと『かわいいお姉さん』か・・・
『優しいおかあさん』って感じだ。
おかあさんって呼んだら怒られるかな?
怒られるよね?
「間宮さんは、全長が150メートルだけど、排水量が一万五千トンもあるんだよ」
雪風が全長100メートルちょっと、排水量は2000トンだから全長が二割増程度なのに、排水量が七倍以上あるの⁉︎
そりゃ巨大に見えるわけだよ。
「それでは〜、お道具を取って来ますね〜。雪風ちゃん、お手伝いして貰えますか〜?」
間宮さんはタラップを下ろすと、雪風ちゃんを連れてタラップを上がっていった。
「それじゃ、私達はベンチを運んで来ようか?折角だし、屋根のない日の当たる場所でやろっか」
「いいですね、そうしましょう」
ボクらは事務所から木製のベンチを引っ張りだして、ドックに挟まれた突堤の先端へ運んでいった。