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鋼鉄の獰猛、再び〜戦海の絆〜  作者: ソロモンの狐
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雪風ちゃん御乱心

「御剣艦長、貴様にそんな趣味があったとはなぁ」


主な原因の一つが艦橋前の大砲に吊るされて何か言っている。

そもそも貴方が僕を海に投げ込まなければこういう事態にならずに済んだんです。

そういう意味では、もう一つの原因イー402のタナトス中佐には相応の対価(バツ)を受けて貰わなければならないね。

僕の中にドス黒い感情が芽生える。

ちなみに平賀所長には[私は敗北主義者です]と書いた木の板を首から下げて貰っている。


「えへへ、艦長とお揃い、艦長カワイイ」


船の操縦とかはマトモなんだけど、それ以外のところが全部ぶっ飛んじゃってる雪風ちゃん。

その操縦すら危うくなってきていて、心なしかさっきから響いてくる機械音の割にスピードが遅い。


「雪風ちゃん、大丈夫?」


「へ?何がですか?凄くお似合いですよ?」


・・・違う違う、そうじゃ無い。


「僕が聞いてるのは雪風ちゃんの事だよ、機械の音が大きいのにスピード出てないから、どこか壊れたんじゃないかと」


思考っていうか嗜好の方は大分壊れてるみたいだけどね。

この上船の方まで壊れられちゃ、たまったもんじゃない。


「ボイラーもタービンも絶好調ですよ。えへへへ、艦長のスカート姿カワイイです」


うん、完全にダメだね。

どうやら早く帰りたくないからワザと速度を落としているみたいだ。僕は一分一秒でも早く帰って着替えたいのに・・・


「雪風ちゃん、入港まで巡航速度って号令は生きてる?」


僕は確かにそう『号令』したはず。

三秒ほど間を空けて、急に雪風ちゃんがうずくまる。


「イタタタ、持病の癪がっ・・・機関不調です」


10秒前と全然違う事言ってるよ、持病の癪ってなにさ?


「それに、速度を落とさないと捲れちゃいますよ?スカート」


慌ててスカートの裾を押さえる。


「くぅぅぅ、良い!良いですその仕草、その表情!」


更にヒートアップしてる。


「写真機、写真機取ってきます」


そう言い残すと雪風ちゃんはダッシュで艦内に消えて行った。


「雪風は可愛いもんに目がないからなぁ、覚悟しとけよ御剣艦長。あぁなったら儂でも止められん」


大砲の先でぶらぶら揺られながら、平賀所長が笑いを噛み殺した声で楽しそうに話す。

今大砲撃ったらどうなるんだろ?

撃ってみようか?

撃っちゃうか?


確かに僕は小柄だし、運動とか苦手だったから華奢だよ?今の地球じゃあ日焼けなんてしないから色白さ。

顔も中性的っていうか女顔で、小さい頃はよく『お嬢ちゃん』って間違われたさ。

初等部の運動会でフォークダンスする時、女の子の列に入れられたさ。

中等部に入ってすぐの頃、初めて告白されたのは三年生の先輩だったさ、男だったけど。

男の子同士で巫山戯てたら、女の子から熱い視線を送られた事にも気付いていたさ。

でも、ここまで露骨に愛でられるとは・・・トホホ。


艦長室にもどこにも姿見なんてないから、自分が今どういう姿に見えるのか客観視することが出来ないのは、良い事なのか悪い事なのか?


「ハァハァ・・・写真機、写真機です」


息の上がった雪風ちゃんが戻ってきた、手には古いタイプの写真機が握られていた。

走ったからハァハァ言ってるんだよね?

他の事柄が原因じゃないよね?

瞳の輝きが尋常じゃない⁉︎


「撮りましょう、写真。撮らせて下さい、写真」


嫌だ、こんな姿保存したくない。

こんな格好、後世に残してたまるか。


「雪風ちゃん?ちょ「さぁ先ずはポートレートから撮りましょう」」


「・・・ハイ」


・・・チクショウ、勢いに押し切られた。

結局、雪風ちゃんに言われるがままポーズをとらされ、艦橋、大砲の前 (一番前の大砲には平賀所長が吊るされているから、一番後ろの大砲で)、機関銃の操作席に座ってのポーズ、船尾のおっきな樽みたいなものを落っことす所での写真、船の中央部のデッカいパイプを四つ並べた機械の上に跨ってのポーズ、[電信室]と書かれた部屋で、レシーバーを着けて古代の機械を使っている『ふり』をしたものまで・・・

気がつけば、船の行き足は港のはるか手前で止まっていた。


「さぁ、次は私の部屋ですよ〜」


雪風ちゃんに手を引かれ、雪風の船内を縦横無尽に歩き回る。

そこかしこで写真を撮られまくったけど、おかげで船内の構図は頭に入った。

今いるのは多分、艦橋の真下、甲板の一層下ってとこだ。


「は〜い、ここが私のお部屋で〜す」


テンションMAXな雪風ちゃん。

どうしよう僕、女の子のお部屋訪問って初めてだよ。

ドキドキしながら雪風ちゃんの部屋に入る。


「お、お邪魔します」


雪風ちゃんの部屋は、壁が濃いグレーの鉄板で窓が少々ゴツい丸窓と言う事以外は、いたって普通の『女の子のお部屋』と言う雰囲気だった。

広さは12畳くらいと結構広い、さっき僕が使った艦長室の二倍以上あるよね?

床には薄いグリーンのカーペット引かれ、部屋の真ん中には小さなテーブル、壁には色んな小動物の写真がフォトフレームに入って飾られていて、他にはクローゼットと小さな洋服ダンス、その上には猫や馬のぬいぐるみが置かれていた。

反対側の壁にはセミダブルベッド、そして薄いピンクのお布団が敷かれていた。

僕が部屋の内装なんかに気を取られていると、雪風ちゃんの背後でカチンと小さく金属の音がした。


「雪風・・・ちゃん?」


振り返ると雪風ちゃんが凶悪な笑みを浮かべていた。


「うふふふ、さぁ次は・・・お待ちかねのセクシーショットですよ〜」


待って、ダメ、それは絶対ダメ。

両手の指をわさわさと動かしながら、徐々に距離を詰めてくる雪風ちゃん。


「唇の初めては紫音さんに取られちゃいましたけど、他の初めては、うふふふ・・・両方、私のものです」


待って、ちょっと待って、凄く待って!

色々大変なことを口走ってますよ?


「ど、どういうことだよ?唇の初めてって。ぼ、ぼきゅだってキスの・・・キスの一つや二つ」


「したことあるんですか?正直に言わないとお仕置きしちゃいますよ〜」


・・・その手に持ってる赤いロープはなに?

どこから出したの?

さっきまで持っていた写真機は?

セクシーショットはどこいった?


「グフフフフ、嘘つきましたね〜。そんな悪い子にはお仕置きですよぉ」


ジリジリと迫り来る肉食獣(ゆきかぜちゃん)、後退りする僕の背中には冷たい壁の感触。

もう逃げ場はない。


「大丈夫ですよ〜、男の子は初めてでも気持ち良いはずですし、(おとこ)()の方も慣れれば気持ち良いはずですから、多分」


ごめん、何言ってるかワカンナイ。

っていうか、わかりたくない。

時間だ、とにかく時間が必要なんだ。


「なんで、僕より小さな女の子のに襲われなきゃならないんだよっ」


「その方が背徳感があって良いからです」


あっさり答えられた!

キョトーンとして、

なに当たり前の事聞いてるの?

って顔された。


「時間稼ぎはここまでですよ、艦長」


ずいっと雪風ちゃんが間合いを詰めてきた。

少しでもドアに近付こうと壁沿いに移動する。

もう一度タナトス中佐が急速浮上して来てくれないかなぁ、なんて好都合なこと考えてたけど無理だよね〜。


「うふふ、艦長ったら誘ってるんですかぁ」


壁沿いに移動した事で僕は今ベッドを背にする形になっていた。


「いや、誤解だよ。雪風ちゃん、落ち着こう」


ついに雪風ちゃんが目の前に迫る、そしてトンと軽く両手で押された。


「う、うわっ」


そしてそのままベッドに押し倒された。


「うふっ、その怯えた表情・・・堪らないです」


ついに雪風ちゃんが覆い被さってきた。


「ヤダヤダヤダヤダやめてやめて、ホントやめて、ちょっと待って」


大声で叫んで雪風ちゃんを止める。


「ダメですよ騒いじゃ」


優しい言葉をかけながら、雪風ちゃんは何かを取り出した。


「艦長が悪いんですよ、悪い子にはお仕置きですよ」


「むぐぅっ」


口に何か入れられた⁉︎

吐き出そうとしたら、そのまま後頭部でひも状のものを結ばれてしまった。


「期待と不安が入り混じったその表情も、あぁ一線超えちゃいそうです!」


・・・もうとっくに超えてるでしょ。

もうダメだ、こんな格好で大人の階段二段飛ばしで駆け上がっちゃうのか、諦め掛けたその時だった。

救世主は意外なトコから現れた。


「お〜い、御剣〜、まだ無事か?」


艦橋前の大砲に吊るされているはずの平賀所長だ。


「おぉ、やっぱりココだったか・・・うん?」


え?鍵閉まってなかったの?

普通にドアを開けて平賀所長がひょっこり顔を出した。


「お?おぅ・・・まぁ・・・なんだ」


ベッドに押し倒された僕と、押し倒した雪風ちゃん、そしてポカーンとした平賀所長の間に奇妙な空気が流れる。


「邪魔したな、雪風」


待って!どうして?助けてください!


「あ〜・・・晩飯までに帰れれば良いからな、儂は艦橋でジェダイと『アトランタ』と茶でも飲んどるから気にするな」


「ふがむぐ〜、ふがふがふが」(見捨てるな〜、助けて〜)


全力で抗議するけど、猿轡さるぐつわ)で全く伝わらない。


「大丈夫だろ、雪風なら上手くしてくれる・・・まぁ楽しめ」


二人ははサムズアップして、平賀所長は良い笑顔で退出して行く。

ダメすぎる、この救世主は役立たずだった、こんなことならさっき大砲を撃っとけば良かった。


「ハイ、艦長の心と身体に私を刻み込むです」


雪風ちゃんも凄く良い笑顔だなっ。

あ~、もうどうにでもなれ・・・




こうして、僕の希望は潰えた。







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