魔王と王女で朝食を
今回は普段より長いですよ!
半分に分けたい気持ちを抑えましたよ!
ツィン
なるべく音を立てぬよう、ユータロスはカップをソーサーに戻した。
ロロが入れた紅茶がいつにも増して美味い。
普段は気にも止めない柑橘系の香りにが、より一層余の気持ちを愉快にさせる。
美しい。実に美しい。
左右完璧に均整のとれた顔、ツンととがった鼻先。少し赤みのあるピンクの唇。大きくカールした長い睫毛。煌めく薄いゴールドの髪と、それ以上に眩い白い肌。それらとコントラストを成す様なブルーのドレスが彼女のセンスの高さを感じさせる。まるで悪意のない幼き天使の様な寝顔に余は魅せられていた。
「んん…」
目の前で女が心地良さそうに寝返りを打った。
組んだ脚の上下を替えるときの衣擦れにの音にすら、注意を払う。
そのまま待つこと、いや、愛でること1時間。眠れる森の美女は、王子ではなく魔王が指一本触れることなく、自然に眠りから目覚めた。
見慣れないベッドカーテン。見慣れない壁。
視線を天井方向に移す。やはり見慣れない天井がそこにはあった。
-ここはどこ?!-
ギョッとした矢先、背中側からの視線に気づき、さらにハッとした。
「お目覚めですねお嬢さん。ご気分は如何かな?」
一気に覚醒した。上半身もすぐさま起こした。
状況が飲み込めない。この人は誰で、ここはどこ?っていうかこの人白くない?
「あ、あの、ありがとうございます。ここは一体どこですか?あなたは?」
「ここは、マイアーカルデロン城。余は城の主である、ユータロス王だ。」
どこだそれわ?!聞いたこともない城だ。
そもそも私は眠る前何をしていたの。そういえば昨日はミナビアに行って…そうだ!落ちたのだ!テラスから真っ逆さまに!
「そしてどうか混乱しないで聞いてほしい。ここは其方ら人間達が住んでいた世界とは違う。今我々がいるのは魔界と呼ばれる世界だ」
何を言っているんだこの人わ。だめだ思考がついていかない。
「良ければ、冷たい水でも如何かな」
そういって男はグラスに注がれた水を手渡してきた。
「あ、ありがとうございます。」
手渡された水を一口、口に含んだ。
ほんの少しだけ、落ち着いた気がした。
「あの、顔を洗ってきてもいいですか?」
「えぇ、勿論。ロロ!ご案内して差し上げろ」
そういって、これまた色白の男が部屋に入ってきた。
「こちらです。お嬢さん」
「ありがとうございます」
ロロと呼ばれる男の案内に続いて部屋を出た。
「ククククク」
立ち姿も素晴らしい。
慎重に触れなければ折れてしまいそうな華奢な手足。幼くも女を感じさせ始めた凹凸のあるカラダ。すらりと伸びた姿勢が育ちの良さすら感じさせる。
もう数年、熟すのを待つか?いや、敵わぬ。そう今夜だ!一度安心させて、あの凛々しくも可憐な表情を、恐怖に染め上げてから頂くとしよう。
おぉ!心の中で感嘆した。
化粧水等、アメニティと思われるものが各種用意されている。ボトルに書かれたテキストは全く読めない文字であったが、手に出した雰囲気でどれがどれかはおよそ判別がついた。すいません、お借りします。
顔を洗って少しさっぱりし、タオルで顔を拭きながら鏡を見ていると、違和感に気づいた。
顔どころか体にも擦り傷一つない。
私が落ちたミナビア城のテラスは3階か4階に位置していただろう。城の3階ともなると、普通の宿屋のそれと違って、倍程度の高さになる。どう運が良かったとしても、擦り傷やアザの一つもないのはおかしい。
窓から見える赤みのかかった空の色も、どこか不気味さや違和感があった。
魔界…。
ユータロスと名乗る男の言葉を思い出した。
洗面所を出ると、ロロと呼ばれていた男が待っていた。
「すいません、化粧水とかお借りしました。」
「ご自由にお使い下さい。朝食の準備が出来ておりますのでこちらへ」
そういって、また別の部屋に案内された。
朝食?頭蓋骨が浮いて、蛙の脚が飛び出たスープが出てくるんじゃないよね…。
部屋では、先程のユータロス王と別にもう1人、恰幅の良い非常に大きな男が、巨体に見合った大きな肉を豪快に食いちぎっていた。
ユータロスの向かい、巨体の男の左の席をロロさんが椅子を下げて案内してくれた。
白いシーツの円卓には、ポタージュの様な淡い黄色のスープや、彩り豊かなサラダ、贅沢に卵を使ったであろうスクランブルエッグなど、先の想像が申し訳なくなる程の美しい、トラディショナルな洋風の朝ごはんが並んでいた。
「何をお飲みになります?何でも言って下さい」
ロロさんが気を使ってくれる。何でも?何でもって何でもあるの?
「じゃあ…オレンジジュースを」
「かしこまりました」
そういって、オレンジ色の液体が入った水差しを取り、それをグラスに注いだ。
差し出されたグラスを手に取り、思わず一口口に含む。
「…美味しい。」
「お口に合って良かったです」
ロロが私に微笑みかける。
「まだ体調が優れない部分もあるだろう。好きなものを、好きなだけ食べるがよい」
「ありがとうございます」
お言葉に甘えて、魔女が混ぜてはいなさそうな、パステルイエローのスープを一口頂いた。
「…美味しい。」
魔界とかジョークだろう。
「して、お嬢さん。其方の名は何と申す。」
「あ、すいません。申し遅れました。私はユーカ、スミノフ、レヴェイエール。プラファ王国の…一応王女です、」
「なる程、王女様だったか!どうりで綺麗な身なりをしてると思ったぜ!」
巨体の男が大きな骨つき肉を食べながら、いや、喰らいながら私に話しかけた。この人だけは少々魔界っぽい。
「俺の名は、オーフレイム。偉大なるユータロス様の右腕だ。」
「王女と言っても、本当に小さな国なんです。暖かいベッドに美味しい食事をありがとうございます」
「良いのだ。人間が魔界を訪れる事など100年に一度あるかないか。其方は我々にとって滅多とない客人。何かあればロロに言うとよい」
「何でもお申し付け下さい」
本当にこの人なら何でも用意しそうだ。どこか完璧というものを彼は感じさせる。
「本当に、ここは魔界なんですか?」
「確かに魔界だ。其方は森の中で倒れているのを発見された。あぁ、そう言えば彼奴に何か褒美をやらんとな。オーフレイム、いつでも良いので奴を連れて参れ。」
「畏まりました」オーフレイムが食べる手を止め頷いた。
「あの?私は帰れるんですかね?その、人間界って言うんですか?おうちに」
「流石の余でも方法はわからん。そもそも人間が魔界に来た時に何が起きるかと言うと、地上と魔界の間にほんの小さな隙間が生じる事がある。出来てこぶし大程度のものだ。滅多とない事だが、それが人が通れる程の大きさにまで裂け、さらにそこを人が通らんと魔界にはこれん。次元の狭間が開いているのも、ほんの数秒間のことだ」
「あ!」
「何か思い当たる事があるようだな」
「えぇ、私、すり抜けたんです。テラスの手すりを。そっか〜。私魔界にきちゃったのか。」
ユータロスにとっては意外だった。泣いて恐怖し、絶望の淵に沈むものと思っていた。
「何処かに街や住む所、仕事が得られそうな所はありますか?」
またもや以外な台詞が浴びせられた。
「食事や寝床の心配は必要ない。其方は客人だ。余が丁重にもてなすので、安心するが良い」
「いや、でも、帰れないんでしょう?流石にずっと住むのは申し訳ないので、どこかに移り住もうと思います」
一同「…。」
-なんだこやつ、恐怖が微塵もないのか!?
-おやおや、風向きが変わってきましたねぇ。
-人間の分際で生意気な!!
-パンでも作ったら売れるかなー?でもこのパン美味しいから無理かなー。
「まぁ何も急く必要はない。一先ずはここで今後の身の振り方を考えるがよい」
「お心遣い感謝致します。早速ですがシャワーの様なものはございますか」
「うむ、案内してやれ」
「承知致しました。」
いつもよりご機嫌な表情でロロが返事をした。
お読み頂きまして有難うございます。
感想等、お聞かせ頂けますと幸いです。
やっとこさ主役とヒロインがかち合いましたね。
お待たせして申し訳ありません。
魔王風の言葉使いが難しいです。
大魔王バーンをイメージ(嫌に古いな!)しているんですが…。
まぁ多めに見てください。
一瞬、寝室を出た所で話を切ろうとしました。量的には普段、大体こんなもんだろうと。
ただ、いやいや寝室で寝顔見てウットリしてちょっと喋っただけやん!とあまりにも話が進んでいないことに気づき我慢しました。
書き溜めがあるので、明日も投稿出来そうです。
続きも読んで貰えたら嬉しいです。
でわでわ!