漆黒の伯爵
私の名はロロ・ムリキュイール・イーゼンフェルト。バンパイアです。
マイアーカルデロン城の主である、ユータロス王の左腕を自負しております。
もっとも、この城にはユータロス様とその右腕であるオーフレイムと私の3名しか住んでおりません。
私の役目はユータロス様の身の回りのお世話。そうですねぇ、グラスを磨きあげることと、美味しい紅茶を入れる事、グェッラ(魔界固有のテーブル?ゲーム)等のゲームや話のお相手をさせて頂くといったところでしょうか。
「置きましたよ」
そう言ってロロはビショップの駒を敵陣に走らせた。ややグレーのかかったブルーブラックのミディアムヘアがさらりと揺れる。駒を取って置く、ワイングラスを磨く、何気ない動作や仕草の一つ一つが絵になる男である。
我が主、バロン・ユータロス・アレクサンダー・マックイーン66世は、叶わぬものなし、敵うものなし、不可能なし、魔界の闇を統べしバンパイア種族の王の中の王。
過去数百万年からなる、幾千万もの血の集大成。魔の寵愛を一身に受けた、生まれながらの魔王でいらっしゃいます。
王は圧倒的に圧倒的な強者。
ですが魔王とあれど、闘いや魔界全土を統べし大魔王の地位への欲は全くございません。
まだユータロス様が青年のような容姿をされていた頃、力比べにと魔王の中で最も強いと噂されていた竜族の王との闘いに出られた事がございましたが、ものの数分で竜王は魔界の塵に。竜王の支配下の竜達も、滅亡しかける程に数を減らしました。どうやらその時に悟られた様です。ご自身が比べるもののない、孤独とも言える程の最強の存在であることを。
今でも数百年年に1度程の頻度で、竜族のリベンジャーや、血気盛んな魔王レベルの挑戦者が来城されますが、私とオーフレイムで退けられなかった事はございません。ときどきお酔いになられた王かがもち掛けてくる命がけのお戯れのせいで、我々も魔王レベルまで腕をあげました。崇高なる王の意に反して、なるべく薄めの酒類をご用意していることは私だけの秘密です。もっとも、強さや闘いにしか興味のないオーフレイムは、次にいつその日がやってくるのかと楽しみにしている様ですが…。
磨き上がったグラスは風の魔力を帯び、手のひらからフワリと浮かび上がった。そして踊る様に舞いながら、ごく小さな音とともに棚へと収納されたていった。
日々退屈と戦っていらっしゃる王ですが、食欲と色欲は健在でございます。
基本的に王が生で口にするのは、血とワイン、そして美しい雌の生物のみ。
しかし、ご自身で夜な夜な部屋に忍びこんで寝込みを襲うといったトラディショナルなバンパイアスタイルを王は採りません。(何千万年前の話ですか…)
マイアーカルデロン城から少し離れた位置に、城から追い出されたバンパイア達(並みの魔力の持ち主では王の魔力が強すぎて城の中で正気を保てないのです)と、魔界各地から集められた多種多様な種族の美しい女だけが住む街ハーレムクイーンがございます。
街に住むバンパイア達がその美しい女達に手を出す事はまずありません。王やオーフレイムの逆鱗に触れる事を激しく恐れるからです。
過去に2名その大罪を犯したバンパイアがおりましたが、拷問を受けては治癒を繰り返され、正気を失っては、正気を取り戻すまでに回復され、またその悲鳴を王の思念で、魔界に散らばる男だけに百年以上にわたり送り続けたという恐怖の伝説が出来上がりました。不死に近い程の寿命を持った我々にとってはまだ記憶に新しい最近の事ですが。
ハーレムクイーンには王自らが女を選びに行かれるのではなく、敢えて女と雌の違いすらわからないオーフレイムに調達に行かせます。
王曰く「其方ではそつがなさ過ぎる。オーフレイムの当たり外れがある人選にこそ興が涌く」との事。
あまりの苦手ぶりに当初オーフレイムはこの仕事を辟易していましたが、
「3度連続で余の興をそいでみよ。貴様とは今後千年手合せをしてやらん」
その一言以来、本人なりに真剣に選んでいる様子。
さて、今回はどんなものを連れて来るのでしょうか。今では私にとっても小さな楽しみの一つです。
バァン!!!!!!!
いつにも増して荒々しく玉座の大扉が勢い良く開いた。
街からオーフレイムが戻ったのでしょう。
「騒々しいですよオーフレイム。扉は静かに、、、」
言い終わる前にオーフレイムが声を荒げた。
「ユータロス様!人間です!生きた人間の女がいました!」
ニヤリという音が聞こえてきそうな程の王の表情を見るのは、実に100年振りの事ですねぇ。
「っふん。連れて参れ」
最後までお読み頂きまして、本当に有難うございます。
また、期待に添えないものでしたら、申し訳ございませんでした。
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幸先良く、第一話で初のブックマークを頂く事が出来ました(*´Д`)マジか!?
本当にありがとうございます!
コツコツ投稿して参りますので、末永くお付き合い頂けますと幸いです。
繰り返し、お読み頂きましてありがとうございました。




