ビフォー・ザ・スキャンダル
テラスのテーブルでやや遅めの朝食にアールグレイを嗜むユータロス。鬱蒼とした空の色をしているが、列記とした朝だ。
「おはようございます。ユータロス様。如何でした?」
意図する内容に似つかわしくない爽やかな笑顔でロロが話しかけた。
「其方、まだ城内におったのか?ユーカ姫と街に出たものと思っておったぞ」
一瞬、ユータロスの想定外の返事にキョトンとする。
「其方がおらぬと思っておったから、オーフレイムに茶を入れさせたが…」
ユータロスは顔をしかめながらカップをソーサーへと戻した。
「ユーカ様はご健在で?」
素朴な表情で質問を繰り返すロロ。
「貴様、会話の流れから察っせるだろう」
茶葉の多さで濃過ぎる紅茶と、ロロの質疑の面倒さにユータロスはむっとした。
「失礼しました」
「ふん。街に連れて行き、現実を突きつけてやるがよい。」
「畏まりました」
ロロが穏やかに頭を下げる。
「おはようございます」
ユーカがハキハキした声を発しながら入ってきた。
「ロロさん、今日はお願いします。私はいつでも準備出来てるんで」
にこやかにユーカが話かける。
「では、早速参りましょうか。それではユータロス様」
「うむ、行って参れ。…ユーカ姫、くれぐれも期待せぬようにな」
「はい…」
ユーカの表情が少し曇る。
「夕方には戻ります」
2人が出ていった後、オーフレイムにお湯を足させた。ユータロスはお茶をすすりながら、先ほどのユーカの表情を思い出していた。
―ハーレムクイーンにて
「お、おぉー。」
ユーカはハーレムクイーンが王都ミナビアの様な都会的で想像以上に大きな街であった事と、様々な種族、それもユーカの目から見ても美女が溢れる街並みに驚いた。
「ギャ、ギャルがいる!」
露出が高く化粧の濃いサキュバスを見て、思わず口から出た。
「ギャル?ですか?」
「あ、いえ、こっちの話です。」
ユーカはミナビアで見かけた都会の若い女の子達を思い出してクスりと笑みがこぼれた。
それからユーカはロロに通訳(リアルタイムで思念を双方に飛ばす)を手伝ってもらいながら、街行く美女に話を聞いて回った。
―日没
「はぁ〜。手掛かりなしですね。」
ユーカのため息がついた。
「そろそろ戻りましょうか?ユータロス様がお待ちです。」
「あの?お酒を飲みに集まるような場所はありませんか?」
「だいたいがそういうお店ですよこの街は。女性の多くはそういう仕事についておりますからねぇ。」
「少しだけ、少しだけ話を聞きに行かせてもらえませんか?」
「困りましたね〜。」
そう言ってロロは天を見上げると一呼吸おいたあと、少しだけですよと承諾した。
―クラブ・スキャンダルにて
「あーら、色男と…お嬢ちゃん。珍しい組み合わせねぇ。」
薄くいかにも高級そうな生地のドレスを身に纏った魔族の女が甘ったるい声で出迎えた。ややキツい目や鋭そうな爪、牙、尖った耳以外は、ほとんど人間と変わりなかった。
「こんばんわ…」
ユーカは少し怖気づきながら、なるべく笑顔で挨拶をした。
「思念?彼女喋れないの?」
「えぇ、彼女はユーカ姫、人間界からこちらに迷い込んでしまい、今はユータロス様の城にて客人として扱われております。私はロロと申します。お見知り置きを」
ユーカとロロが軽く頭を下げた。
「まぁ!あなたがロロ様!先程は失礼を申し上げました!それからあなた人間なの?!初めて見たわ。まぁ2人ともお座りになって」
そういって魔族の女はボックス席へと二人を案内した。
カラン。水割りの氷が溶け落ちる。ユーカの近況の話とロロへのインタビューが延々と行われ、ここでも人間界へ帰るための情報は得られそうになかった。
リリカと名乗った魔族の女は、乗客と珍客の来店に上機嫌だった。他の客はそっちのけで自分のウイスキーのロックをどんどん喉に進めていく。
「人間のハラワタって食べると永遠に長く美しいカラダを保つって言われてるのよね〜。」そういってリリカはユーカに対して舌舐めずりをした。ユーカは苦笑いで場を取り持つ。
「ユータロス様だって貴方が食べ頃になるのを待っているだけなんじゃないの〜?」
「リリカさん、ユーカ様はユータロス様の客人です。滅多な事は言わないでください。」
ロロが毅然と言葉を遮った。
「ウフ、ごめんなさいちょっとからかっただけですよ〜そんな怖い顔のロロ様も素敵ですね。」
リリカはシナを作って、ロロに愛想を振りまいた。
「ユーカ様、そろそろ」
「はい、そうですね…」
やや血色のよくない顔でユーカは同意し、2人は店を出て城へと戻る事にした。
―城にて
「ただいま戻りました」
ワインを飲んで待つユータロス王とオーフレイム。
「随分遅かったな貴様ら。ロロ、貴様最後に何か言う事はあるか?」
そう言って右手をあげると、昨日の巨大な鎌が手元に現れ、禍々しいオーラを漂わせた。
「ご、ご冗談を。様子はご覧になってたでしょう?」
ロロは苦笑いをながら、クラブ・スキャンダルに行く前に天を仰いで、空を飛んでいる魔力で具現化された王の目に確認をとったことを思い出していた。
「ふん。さっさと準備をするがよい。乾き物にはもう飽きたわ。」
ナッツを口に運びながらユータロスは悪態をついた。
―深夜
その日の夜も王はユーカの寝室を訪れた。
また明日も話を聞きに行ってくると意気込んでいたユーカではあったが、1人で眠りに落ちた後には涙を零していた。
―ふん。その気丈さ、いつ迄持つかな?
結局その日もユータロスは指1本触れずに部屋を後にするのだった。
いつもお読み頂きまして有難うございます。
今回はたんたんと進めている感じです。
次の話はそうじゃないかもしれません。
ではまた( ´Д`)ノ