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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第13重力子 ボクハ ミンナトトモニアル
93/105

池上君の家で

地獄の塔が現れる少し前の時間。

波多野は池上の行方を調べるため、彼の生家を訪ねていた・・・。

私は池上君の消息を追うため、彼の生まれ育った場所に来ていた。

彼と別れてからどれぐらい経ったのだろう。


彼について調べていると、特別婿養子になったという事が分かった。

だから、ご両親は亡くなっているのだと考えていた。

だが、存命と知って急いで会いに来たのだった。

彼の幼少期に住んでいたアパートにとても綺麗とは言えない外観だった。


「ここか・・・。」


チャイムを押して呼び出すと、中からは失礼だが元気を失った女性が現れた。


「あの・・・、お電話で話した波多野と申します。」

「えぇ・・・、あぁ・・・。お入り下さい。」


案内されて部屋に入ったが、外からは考えられないような綺麗な部屋だった。

外観から古いアパートと思っていたが、中は比較的広くなっている。

少し長めの廊下の横に、風呂とトイレ、そしてキッチンがある。


ただ、彼の消息を聞いてみたが、何年も前から会っていないと話すだけだった。


「そうですか・・・、ご存じありませんか・・・。」

「刑事さん、あの子は・・・、良信は・・・元気でしたしょうか・・・?

先ほどのお話だと、あの震災のあった場所に住んでいたのですよね?

あの子は・・・、あの子は無事だったのでしょうか?」


ここまで子どものことを思っているとは考えもしなかった。

調査では育児放棄をしたとあったからだ。

涙ぐみながら話す彼女からは想像できなかった。


「えぇ、とても元気でしたよ。一緒に復興活動をしていました。

他人のことを気遣う好青年でしたよ。」

「そうですか・・・、よかった・・・。」

「でも、どこに行ってしまったのか・・・。

良信君が、こちらに来たら、ご連絡頂けませんか?」

「・・・あの子はここには来ないと思います・・・。」

「えっ?何故でしょうか・・・?」


私は何故と聞いたが、実際には予め調べていたので、その理由は分かっていた。


「私は悪い母親です。あの子に酷いことばかりしてしまった・・・。」

「・・・。」


彼女の暴力については、家庭裁判所の記録にもあったのだ。

だが、目の前の母親は、それを深く反省している様子だったので、少し驚いてしまった。


「私は・・・、私は自分のことばかり考えていたのです・・・。悪い母親なのです・・・。」


私はむしろ同情してしまった。


「そんな・・・、過去にどんなことがあっても、良信君にとって、あなたは母親です。きっといつか・・・。」

「・・・そうでしょうか、そうでしょうか・・・。」


彼女は、下を向くとつぶやくようにそう繰り返した。


「うぅぅぅ・・・、刑事さん、ありがとうございます・・・。こ、この部屋・・・。」

「・・・?」

「あの子が最後に綺麗にしてくれた部屋なんです・・・。そうだ、掃除しなくては・・・。

綺麗にしてくれたから・・・、ずっと綺麗にしなくては・・・。

あの子が綺麗にしてくれた部屋ですもの・・・。」


そういうと、彼女は、私がいるにもかかわらず、掃除を始めてしまった。

この部屋が綺麗な理由が分かった気がした。

彼女は池上君が立ち去った後もまめに掃除を続けているのだろう・・・。


「そ、それでは、また来ますので・・・。」

「あっ、えぇ、えぇ、すいません。遠いところを・・・。ありがとうございました。」

「いえいえ・・・。それでは失礼します。」


私はその哀れな母親からは、何も分からないと判断し、そのまま立ち去ることにした。


「そういえば、田舎に帰ってないな・・・。」


何となくそうつぶやいてしまった。


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