最後の神官
戸越も自分を取り戻し始めていた。
それを狙ったかのように、悪魔は戻り始める。
悪魔の声に呼応するように池上の奥に眠る過去の記憶が戻り始める・・・。
戸越もまた、自分を取り戻し始めていた。
自殺するように消えていった戸越は、悪魔と共に永原の身体を乗っ取った。
そして、僕に色々な嫌な思い出を思い出せるのだった。
「わ、私の人生は何だったんだ・・・。
私は、自分で自分の人生を生きていなかったということなのか・・・。」
「と、戸越先生・・・。もう、良いのです。先生は、全て精算したのです。もう苦しみ必要は・・・。」
「あぁ・・・、嫌だ・・・、駄目だ・・・。あぁ・・・、あぁ・・・。」
「と、戸越先生・・・?」
「や、奴らが戻ってきた・・・。」
「えっ・・・?」
<<Dark Mat...
「もうさせねえよ。戸越、ふざけやがってぇぇっ!何がダークマターだぁぁぁっ!」
「ひぃぃぃ・・・。すいません、すいません・・・。」
客観的に見れば、永原が独り言を話しているように見えるかもしれない。
しかし、話しているのは、様々な不運を起こした最悪の存在と、それに怯える戸越だった。
「戸越を解放しろっ!」
「池上ぃぃぃ、お前は、俺の邪魔ばかりしやがってぇぇぇ!!!!
大人しくしていれば良いのによぉぉぉっ!!!!!」
「影で戸越達を操り、僕を幼少から付きまとうお前は何者なんだっ!正体を見せろっ!」
「あぁぁぁん、良いだろうぅぅぅ、よく見ろよぉぉぉっ!!!」
すると、"それ"は、その姿を永原の頭上に見せた。
顔は羊顔であるが、目つきは全てを不幸に陥れようとする赤い目をしている。
そのボロボロの羽で動かした風は触れた人間を絶望におとしめる。
鋭い牙、血に染まっている爪、身体はうろことも羽とも言えない黒い物体で覆われていた。
「いつも、そうだぁぁぁっ!おまえは、いつもそうだぁぁぁぁっ!ムーの時もそうだったぁぁぁぁ!!!」
それは僕に指を差してそう言った。
「ムー?ムー大陸?」
「だが、あの時はぁぁぁ、俺達の勝ちだったぁぁぁ!!」
ムー大陸・・・。
幻の大陸、存在したのか・・・?
太平洋上に存在したと言われている大陸。
科学文明は世界を覆い尽くし、ラ・ムーを中心とした文明、文化が広がっていたという。
だが、その大地は、海中に没してしまったと言われている。
「うん・・・?」
僕の胸から溢れる光・・・。
温かい・・・、そして力強く、知恵に溢れる言葉が自然の僕の口から溢れてくる。
「お前たちが・・・。」
「あぁぁぁん?」
「お前たちがムー大陸を沈めてしまったばかりに、どれだけ文明が退化したか分かっているのか・・・。」
僕の中の深い記憶がさらに語り始めた。
「ムーの中心人物達は、この国を作り、ここまで発達させた。
だが、太平洋沿岸に広く移住した人達の文化はうまく進化できず終わってしまった・・・。
マヤ文明は、指導者に恵まれず、他の国から攻め入られて全滅してしまった。
アメリカに渡った人達は、文明をうまく発展させられず、狩猟民族になってしまい、
最後にはイギリスやフランスから侵略されて、文明を滅ぼされてしまった・・・。
南アジアに渡った人達も・・・。
エジプトに向かった人達は、かろうじて文明を作ったが、それも長くは続かなかった・・・。
しかし、今度はそうはさせないっ!必ず止めるっ!
1万2千年もかけて進化した人類と、この文明の進化を止めさせるわけにはいかないっ!!!」
「クククゥゥゥ・・・、カカカァァァ・・・。
思い出したかぁぁぁ、ムーの最後の神官よぉぉぉ。」
「最後の神官?」
「だがぁぁぁ?だが、だが、だが、だが、だが、だがぁぁぁっ!
今度もぉぉぉ、俺達の勝ちだぁぁぁ!!!!
沈め、沈め、沈め、沈めぇぇぇっ!!!!
今度も沈めぇぇぇっ!!!!
何が希望だぁぁぁ?
何が愛だぁぁぁ?
全て世迷い言だぁぁぁっ!!!」