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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第13重力子 ボクハ ミンナトトモニアル
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小さな逃げ道

地獄に落ちた戸越に対して、悪魔は文字通り地獄のような折檻を繰り返し行っていた。

だが、そんな苦しい状況の中、戸越は一条の光を見つける。

そして、その先に向かうのだが・・・。


痛みと苦しみが永遠と続いていた・・・。


「痛い、痛い・・・、嫌だ・・・、もう、嫌だ・・・。ハァ・・・ハァ・・・。」


痛みで声も出せなくなり、何も考えることが出来ない・・・。

腕、足、身体、こいつは笑いながら、私を滅多斬りにした。


「グッ・・・、あぁ・・・、ぎゃぁ・・・。ぐぁぁ・・・。」


何度も、何度も・・・。


「ククク・・・、ひゃひゃひゃ・・・、おら、おら、どうするんだぁぁぁっ!!!」

「や、止めろ・・・。」


だが、あるとき、こちらでの"死"の瞬間に、か細い光が一瞬だけ見えた。


その光に手を伸ばした瞬間だった。


「あ、あれは、な、永原君・・・じゃないか・・・。」


ここは、私のいた別荘地・・・。

私がいなくなってペンションごと無くなった跡地だった。


「助けてくれ・・・、助けてくれ・・・。

か、身体・・・、そうだ、身体があれば・・・!

か、身体を・・・、くれ・・・!!!」


苦しさから逃れるため、私はわらをもつかむ思いで永原君の身体を乗っ取るしか無かった。


「ハァ、ハァ・・・、や、やったのか?!」


だが・・・。


「よぉぉぉしぃぃぃ、よぉぉぉくやったぁぁぁ、戸越ぃぃぃっ!!」

「ひぃっ!!な、なんでここに・・・。し、しかも何人も・・・。」


逃げたと思ったあの不気味な声が僕のみ耳とで聞こえ、全身が震え上がった。


「お前が、永原って奴の身体を乗っ取るのを待っていたぁぁぁっ!」

「な、なにを言って・・・?」

「愛那とかいうガキと永原が出会って、永原がまっとうになっちまって、操れなくって困っていたんだぁぁぁ。」

「・・・ま、まっとう?」

「まあ、ちょっとした善人になっちまったって事だぜぇぇぇ。」

「・・・ぜ、善人になったからって、操れなくなっただって・・・?」

「だからよぉぉぉ、お前を媒体にして操るんだぁぁぁっ、クククッ・・・!」

「ば、媒体・・・?」

「お前を通せば、楽に操れるぜぇぇぇっ!!」

「さ、最初から、これを狙って・・・。あぁ・・・、あぁ・・・。」


この悪魔は私が逃げる隙をわざと作っていた。

しかも、永原君の身体を私が奪うと分かっていたのだ。

自分で出来なかった憑依を僕を通してやってしまったのだった。


「お前はぁぁぁ、引っ込んでろぉぉぉ。心配するな、俺がお前の"フリ"をしてやる・・・。クククッ・・・。」


この悪魔は、どうしてここにいるんだ・・・?

私を苦しめていた悪魔とここにいる悪魔は、顔も声も同じだった。

同じ時間に存在していたということだった。


だが、そんなことは、どうでも良かった。

私は、逃げ切れなかった・・・。

その事実は、私に絶望と恐怖を突きつけるのだった。


「だ、駄目じゃないか、永原君・・・。何で良心に目覚めちゃったりするのさ・・・。

僕に散々、酷いことを言ったのに・・・。ブツブツ・・・。」


私の代わりに悪魔がしゃべる。

私とまったく同じ声、話し方だった。

だが、それがとても恐ろしく感じる・・・。


「と、戸越、お、お前・・・。くっ、身体が動かない・・・。」


永原君は、自分の身体から半分ずれたような状態だった。


(永原君・・・、こ、これは私じゃ無い・・・、私じゃ無い・・・。)


私はこの時、奇策を考えていた。


「永原君、君の身体・・・、そうか、すでに君も、ヘッドギアの生け贄になっていたんだね。

どおりで操りやすいはずだ。いつ身体を失っていたんだい?・・・まぁ、どうでも良いことか。」

「戸越、止めろ・・・。」


(今だっ!)


その一瞬、私は気力を振り絞ってヘッドギアを使った。


<<DARK MATTER!!!>>


「戸越ぃぃぃっ!お前ぇぇぇっ!!何をしたぁぁぁっ!!!!」


最後に、しずくと出会って、魂や霊体について実感できた時に、ダークマターの存在について思い出していたのだった。

もしかして、この宇宙自体も霊体であり、銀河系、太陽系も、惑星も大きな霊体ではないのか、それを秩序立てているのは、ダークマターではないのかと。

その仮説は正しかった。

私の奇策は成功して、自分を中心にして、ダークマターが、放射線状に広がって、全ての霊体を追い払うことが出来た。


(や、やったっ!せ、成功だっ!!!)


だが、少し奇妙な感覚を覚えた。

自分が経験したことも無い記憶が頭に浮かんでくるのだ。


(こ、これは何の記憶だ・・・?)


私は池上君とは知り合いでは無かったのに、彼を罵倒したり、殴りつけたりしている記憶が浮かんでいた。

しかも、この池上君は、とても幼いじゃないか。


悪魔達と私は、少しの時間だが、一体となったため彼らの策略、計略、陰謀が分かってきたのだった。

それは、記憶の共有に近かった。

悪魔達は、池上君の幼少時から付きまとい、彼を苦しませていた。彼を邪魔していたのだった。

池上君は、それに打ち勝つように努力したことも分かったのだった。


(・・・い、池上君・・・、君はどうしてここまでされて生きてこれたんだ・・・。)


私は彼の生き方、彼の忍耐力、彼の努力が理解できなかった。

酷い仕打ちを受けている姿が目に移った。

孤独に苦しんでいる姿も目に映った。

精神病棟に閉じ込められている姿も目に映った。


だが、どうして?

どうやって?

うちのような偏差値の高い大学に入学できたのか。


私は科学者として・・・、いや、一人の人間としても、彼の生き方について、知りたくなってしまったのだった。


そして、同時に嫉妬していた。

自分の孤独な生き方と比べていた。

同じ孤独さを味わいながら、私は地獄で苦しみ、彼は色々な人から愛されている。

何故・・・、何故・・・、何故・・・・、何故・・・、何故・・・、何故・・・、何故・・・、何故・・・。


嫉妬は怒りに変わり、憎しみに変わり、彼に再び同じ苦しみを味あわせてやりたいと考えていたのだった。


この時の私は、分かっていなかった。


この感情は、自分を苦しめていた悪魔と同じだったということを。

結局、自分も奴らと変わらないということを。


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