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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第13重力子 ボクハ ミンナトトモニアル
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インフェルノにて

ペンションで自らの身体を消した戸越は、彷徨っていた。

そこの現れたのは、悲しみ顔をした雪ヶ谷しずくだった。

彼女と最後の話をした戸越が行く先とは・・・。

「こっ、ここは・・・、どこだ・・・。私は一体・・・。」


私は自らの身体を原子レベルで分解してしまった。

だが、しずくがそうであるように、私は確かに"存在"していた。


最初のヘッドギアの操作ミスでフィギュアに宿ってしまってから、様々な"もの"に身体を入れ替えていたから、

実際、入れ替えるものが無くなったのは初めてだった。

つまり・・・、これは・・・"死んだ"ということ・・・。


「先生・・・?先生?戸越先生?」

「し、しずくか・・・。また会えたね・・・。」


しずくは、僕のそばにいてくれた。


「はい、先生・・・。」


それに気づくことが出来なかったということか。


「私は、最後の肉体を消してしまった。」

「はい、だけど、肉体は無くても魂は・・・。」

「・・・その通りだ。

最初に君が研究室に置いたフィギュアに宿った時も、"自分"がいたんだ。

その時点で魂って奴を信じることも出来たっていうのに・・・。」

「フィギュア?あぁ、私が置いたあの・・・?」

「ヘッドギアの実験中に、身体から魂ってやつが抜けてしまって、君の持ってきたフィギュアに宿ったんだ。」

「えぇ・・・、そ、そうなんですか・・・。」

「うん・・・。」

「で、でも、クスクス・・・。」

「え?何だい?」

「ごめんなさい。あのフィギュアが自動で動いているところを想像してしまいました。見てみたかったなぁ。」

「い、いやぁ・・・。」

「ふふふっ!」

「いやぁ、あれは、あれで大変だったんだよ・・・。」

「ふふふっ!」

「あははっ!」


こんな普通の会話をするのは久しぶりだった。しかし・・・。


「しずく、ここは、どこなんだい?」

「ここは亡くなった人が最初に来る場所です。色々と心の整理をする場所・・・。」

「そうなのか・・・。

心の整理か・・・。

自分とは・・・、自分とは一体何なんだろうね・・・。

脳で考えているのが"自分"とばかり思っていたよ。」

「は、はい・・・。考えている自分は脳とは関係ないと思います。脳はあくまで身体を動かす媒介物。」

「そうか、だから、考えていた自分は色々なものに移動できたのか。」

「しずく・・・、僕は、この後どうなるんだろう?」

「あ、あの・・・、その・・・、て、天国という世界があって・・・。」

「・・・地獄もあるんだね?」

「・・・。」


目をそらすしずくは、何も言わなかったが、私の行く世界が分かっているようだった。

それがどんなに恐ろしい世界か、彼女の悲しそうな顔が教えてくれた。

だが、こんなに冷静でいられるも彼女のお陰だった・・・。


「僕は殺人者だ。罪を償わないといけないということか。天国か・・・、そこには、すぐに行けないみたいだね。」

「うぅ・・・。」

「恐ろしいマッドサイエンティストになってしまったしね・・・。」

「先生・・・、もうすぐ、お別れです・・・。残念ですが、ご一緒出来ないのです・・・。うっ、うぅぅぅ・・・。」

「あぁ、世話になったね。」

「ぐすっ・・・。せ、先生・・・。一緒にいられないなんて・・・。」

「私はとても悪いことをしたが、勉学に励み、科学に貢献した。そして君に出会えた・・・。これは素晴らしいことだ。」

「きっとすぐ帰ってこれます・・・。またすぐに会えますっ!」

「そうだね。ありがとう。ありがとう。ありがとう。し・・・ず・・・。」

「好き!!先生大好き!!!う・・・、うぅぅぅ・・・。」


その瞬間だった。


んっ?

落ちている?

しずくと別れの挨拶をした途端、私はどこかに落ち続けていた。


そ、底が見ない・・・。

落ちていく・・・。

無限に落ちていく・・・。


そ、そうか・・・、これが地獄に落ちるという事なのか・・・。

死んでしまって肉体が無くなれば、私の考えそのままの世界に行くだけ・・・。


私は・・・、あの時、恐れていた、焦っていた・・・。

恐れと焦りによって、全てを壊してしまった・・・。

大事な人の命を奪い、可能性に満ちていた生徒達の命すら奪ってしまった・・・。

最後には、自分の命すら奪ってしまった・・・。


全てが罪だったのだ・・・。

だから落ちていくのか・・・。


「ど、どこまで行くんだ・・・。」


私は永遠とも思えるぐらい落ち続けた・・・。


「・・・?!」


落ちて続けていたはずだが・・・、こ、ここはどこだ・・・。

薄暗い闇が広がる。

真っ黒な空に星は見えない。

大地は赤茶けていて、枯れきった木々が生い茂っている。


「何だここは・・・。」


「ようぅぅぅっ!せ・ん・せ・いぃぃぃっ!」


その声は、私の身体を震わせるような薄気味悪い声だった・・・。


「な、なんだ君は・・・。」


不気味な容姿の男。

目が死んでいる。

髪は長く乱れている。

服もぼろぼろで、手にはナタを持っている。

少しにやけた顔がさらに不気味さを増している。

それに、つ、角・・・、羊のような角が生えていた。


「先生は操りやすかったぜぇぇぇ。」

「わ、私を操る・・・だって・・・?」

「あぁ、人殺しってのは楽しいよなぁぁぁ~っ!だろぉぉぉっ?クククッ・・・。」

「何を言っている?」

「時々、俺らはお前みたいな気が狂ったやつを操って、殺人を楽しむんだが・・・。」

「な、何?何だってっ?」


この男は、不気味な顔で笑っていた。


「殺すってえのはぁぁぁ、さいっこうぅぅぅにぃぃ、気持ち良いぃぃぃっ!!」


殺人を楽しんだというこの男は誰なんだ・・・?


「私は・・・、私は・・・、殺人を犯した瞬間は意識が無くなっていた・・・。」

「俺がお前の身体を乗っ取っているんだ。当たり前だぜぇぇぇ。」

「何だって?乗っ取った?」

「しかし爽快だったぜぇぇぇ。何だぁぁぁ、あの頭に付ける道具はぁぁぁっ!

楽に殺せて、爽快っ爽快ぃぃぃっ!クククッ・・・。

いやぁぁぁ、それにしちゃ楽すぎるかぁぁぁ・・・。

こう、もっと・・・、刺し殺しているぅぅぅ実感が欲しかったなぁぁぁ。」

「そ、そんな・・・。」

「さぁ、今日からは仲間だぁぁぁ。存分に働いてもらうぜぇぇぇ。クククッ・・・。」

「な、仲間だって・・・?い、嫌だ・・・。」

「嫌じゃないぜぇぇぇ。お前も望んでいただろう?他人に操られるのをなぁぁぁっ!」

「嫌だ・・・。」

「自分で何も考えず、他人の言いなりだったろう?ここでもそうしてもらうぜぇぇぇっ!」

「嫌だ・・・。だ、誰かぁぁぁぁっっっ!!!」

「そうだぁぁぁ、そのうちお前にも、殺人の快楽を味あわせてやるよぉぉぉ。

いやぁ、もう、すでに味わっているかぁぁぁ?クククッ・・・。」


く、鎖・・・。

いつの間にか鎖で手足をつながれて、土台の上に寝かされている・・・。


「さぁ、これからが楽しみだなぁぁぁっ!お仲間になった記念だぁぁぁっ!」


そいつは、ナタを私の右腕の肩に振り下ろした。


「ぎゃ~~っ・・・。」


み、右腕が切り落とされた・・・。


「もう一本!」

「い、痛い・・・。ぐわぁぁぁぁ~~っ!」


両腕を無くしてなすすべが無い・・・。


「い、痛い、痛い・・・、止めてくれっ!」

「ほら、止めだぁぁぁっ!!」


頭が割れたのが分かる・・・。


「がぁ・・・がぁ・・・ぐがぁ・・・。」


-----


「・・・?」


「戻ったかぁぁぁ?」

「も、戻った???わ、私は、死んだはず・・・。」

「そうそう、死んだはず、死んだはず、死んだはずぅぅぅ!クククッ・・・。」

「・・・死んだ?私は死んでるのに・・・。な、なぜ・・・?」

「何度でも死んでくれっ!俺を楽しませてくれやぁぁぁっ!!!」

「や、止めろっ!!!ひ、ひぃ~~・・・。」


誰かぁっ!!!

助けてくれ!!!

出してくれっ!!!

出してくれっ!!!

出してくれっ!!!

あああぁ、あ、、あああ、、あああ・・・・・。


何度も、何度も、私は殺される・・・。


何故だ・・・。

何故だ・・・。


あれ、私は何をしたんだっけ・・・。

何故ここにいるんだっけ・・・。


い、痛みだけが残って・・・。

何も考えられない・・・。


な、何も・・・か、かんがえ・・・。

い、痛い・・・痛い・・・いた・・・い・・・。


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