第九圏 第二の円
戸越からすれば、いとも簡単に地獄から戻ってくる僕は信じられない存在だった。
それは自分が死に至り、悪魔達から暴力を振るわれていた状況から、すぐに抜け出すことが出来なかった状況とは全く正反対だった。
「戸越、もう止めるんだ・・・。」
「き、君は何で心が折れたりしないんだ・・・?
おかしい、おかしい・・・。絶対におかしい・・・。もっと自分の闇を思い出せっ!」
<<第九圏 第二の円!!!>>
「・・・。」
今度は、ホームレス達と分かれた後。
中学校、高校では、必死に勉強したせいか、友達は出来ず、一人でいることが多かった。
僕はホームレス達や香織さん達の支援を思い出して、努力すると誓ったから余り気にしていなかった。
大学に入っても同じだったが、4年生になり研究室に入ると、今までとは全然違った。
研究室のメンバーは、僕を無理矢理、飲み会や、遊びに連れ出してくれた。
最初は正直、面白くも何ともないと思っていたけど、徐々に楽しみになっていった。
そして、僕は分かったんだ。
これが友達というものだということを。
身にもならないくだらない話をしているみんな。
その場にいるだけでも楽しかった。
だけど、あの殺人事件で、この大事な友達達が失われてしまう。
僕は、封印していた力を解き放ち、とっきょを必死で追いかけた。
何も情報を得ることが出来なかった時は、絶望してしまい、自暴自棄になりかけてしまった。
警察は僕を犯人扱いし、こちらの話を全く聞いてもらえなかった。
それは自由を奪われたあの精神科病院を思い出すような恐怖だった。
そして、震災によって、更に多くのものを失ってしまった。
あの時は、僕が原因で起こしてしまった災害なのだと思い、塞ぎ込んでいた。
だけど、新しい出会いもたくさんあった。
とっきょ、
ユウ姉さん、
シャーレ、
やまいちゃん、
良子さん、
そして、愛那。
みんなヘンテコな姿だったし、戦うことにもなったけど、彼女たちの不運を断ち切ることが出来て、
仲良くなることが出来た。
別れもあれば、出会いもある。
陥れる人もいれば、救ってくれる人もいる。
殴る人もいれば、愛を与えてくれる人もいる。
人生には、色々な出会いがあるんだと分かって、自分の不運にも感謝することが出来た。
そう気づくと、僕を覆っていた悲しみの塔は、消えていった。
「戸越、違うよ。僕だって心は折れたよ・・・。
だけど、僕は、苦しかったこと、悲しかったこと、楽しかったこと、嬉しかったこと、その全てを受け入れたんだ。」
「・・・。」
「何故、そんなに他人を苦しめたいんだ・・・。」
「・・・考え方、・・・感じ方が違うだけで、こんなにも違うのか・・・。
それが、僕と君との違うところだということか・・・。」
戸越は酷く落胆した様子だった。
僕はそんな素晴らしい考え方をしたとは思っていない。
みんなに助けてもらったことや、みんなから教わったことを大事にしているだけだ。
「戸越先生・・・。」
「先生か・・・。いや、止めてくれ・・・。
僕は操り人形だったんだ・・・。
自分の意思を持たない、ただの人形だったんだ・・・。
だから、奴らの思うままに操られて、あんなに多くの人間を殺してしまい・・・、
しずくさえ・・・。」
今度はやけくそになって、焦燥した戸越では無かった。
冷静な「戸越先生」に戻っていた。