第八圏 第九の嚢
インフェルノと呼ばれる塔は、地獄に落とす入り口になっていた。
そこでは、人間の持っている闇を増幅させる。
戸越は僕をそこに落とすことで、同じ苦しみを味合わせようとしていた。
「戸越、僕は母親には感謝すらしているんだ。」
「はぁ?!・・・か、感謝だって?」
「あの時の苦しさが、今の自分を作っているって事が分かった。」
「じ、自分を作っただって?不幸に落ちたあの状態が、幸せだったというのか?!」
「違う、そうじゃない・・・。あの時は苦しかった。だけど、それが自分を形成するための試練だったということなんだ。」
「試練・・・。で、では、この時はどうだったんだっ!!」
<<第八圏 第九の嚢!!!>>
また、同じように塔が現れて、8層目の扉が開くと、僕は吸い込まれるように塔の中に入れられた。
「次は全ての自由を奪われたことを思い出せっ!」
あの病院にいた記憶が蘇る。
僕は精神科病院で自由を奪われた。
何も出来ず、何も考えることも出来ない環境だった。
与えられた薬は、力を抑えることが出来たが、考えることするおぼつかなくなり、病院の外に行くことは許されず、
身体も心も縛られた生活だった。
この頃の僕は何が出来たのだろうか。
自ら逃げるという選択肢は本当に取れなかったのだろうか。
この時の僕は自分への罪の意識もあった。
"それ"は僕にこうささやいた。
「お前は周りを破壊する破滅者だ。だから縛られて当然なのだ。」
僕は生きている限り周りを不幸にする。
精神分裂の症状は、周りを不安にさせる。
僕の力は他人に怪我をさせる。
「僕は存在してはいけないんだ・・・。」
だけど、そこに現れた一条の光。
否定した自分をそんなこと無いよって言ってくれた。
「普通に決まっているじゃないっ!!!」
「もう、バカバカバカッ!見捨てられていい人間なんてどこにもいないのよっ!」
暗い部屋に差した光は部屋中に広がって、僕にまとわりつく全ての闇を払ってくれた。
あなたは、僕を見つけてくれた。
そう、愛は他人への関心から始まる。
あなたは、僕を病室から出してくれた。
そう、愛は人を縛らない。
あなたは、僕をあの病院から抜けさせてくれた。
そう、愛は人を自由にする。
彼女から教わったのは、そんな人間の優しさだった・・・。
これは恋愛とは違う愛だった・・・。
僕は愛されていた事に感謝した。
すると、僕は"今"に戻っていた。
「何で・・・?何でそんなにすぐ戻ってくるんだ・・・。」