第七圏 第一の環
苦しみの世界から戻った戸越は、ヘッドギアを使い、池上に同様の苦しみを味合わせようとする・・・。
「まずは、君の幼かった頃の辛さを思い出すが良いっ!」
<<第七圏 第一の環!!!>>
戸越がヘッドギアを使うと、巨大な塔が現れ、その7層目にあたる入り口が開く。
その入り口が、僕の方に迫り、自然に塔の中に入ったようになった。
だが、中は暗闇が広がるだけだった。
「さあ、インフェルノで自分の罪を思い出せっ!」
戸越の声が響くと、次の瞬間、幼少期の自分の記憶が浮かんでくる・・・。
それと同時に僕は幼少時に住んでいた家にいた。
幼少時の嫌な思い出・・・。
母親は恐怖の存在でしかなく、僕は、いるべき場所が無かった。
僕は母親が連れてきた男に殴られていた。
そして、母親は一緒に僕を罵倒した。
「お前なんていなくなれば良いっ!」
僕の本当の父親は、賭博好きな人間だった。
競馬や競輪でお金を使い、金がなくなれば家に戻り、母親に暴力を振るっていた。
母親は、この暴力から逃げるためには、お金を父親に渡すしか無かった。
ついには、ローン会社で借金を作るようになっていった。
だが、父親は外で女性を作って、ここまで尽くした母親もを捨て、家にある金を全て持ち逃げした。
そこに見えたのは、暗い影を落とす母親の姿。
奴隷のようにこき使われ、最後には捨てられた哀れな女性だった・・・。
自分の寂しさ、苦しさ、絶望感を紛らわすために、男を捜すようになっていった。
例え、その男が自分の息子に暴力を振るおうとも、別れるという選択は取らなかった。
だけど、僕を罵倒している言葉の奥底で、母親の苦しみの声が聞こえてくる・・・。
(私は・・・、何を・・・、何をしている・・・?
自分の息子が殴られているのに、何をしている・・・?
この男の暴力を・・・、暴力を止められない・・・。
私は・・・、母親失格・・・。駄目な人間・・・。)
お母さん、あなたは、本当の気持ちに嘘をついていた・・・。
今なら分かるよ・・・、あなたの苦しみ・・・。
(私は自分の息子に何て酷いことを言っているの・・・?
違う、違う、違う、良信、違うのよ。)
お母さん、だから、あなたはホームレス達がやってきて、あなたから僕を引き剥がそうとした時に、
力を失ってしまったんですね・・・。
僕を育てる資格は無かったと、自分に言い聞かせたのですね・・・。
母親の苦しみを知ったとき、僕は母親を理解することが出来た。
とても可哀想なお母さん・・・、僕は全て受け入れるよ・・・。
すると思い出は消えて、光に包まれた。
僕を覆い尽くしていた塔は消えて、また元の場所にいた。
信じられないといった顔をした戸越は、僕に向かって言った。
「なぜ、なぜ・・・、そんなにすぐ戻ってくるんだ・・・。」
「戸越、お前のお陰で母親の苦しみが理解できたよ・・・。」
「何だって・・・?理解できた?
そんな・・・、お前を殴りつけていた母親を・・・理解できただって?バカなっ!」