支えられていた存在
永原の身体を乗っ取った戸越は、自らの闇を語り始める・・・。
消えたペンションの空間の中で、戸越の作ったダークマターでみんな吹き飛ばされてしまっていた。
残っていた僕と、永原と、永原の身体を乗っ取った戸越しかいなかった。
戸越は、悪意に満ちた言葉で、僕の悲しみに満ちた過去を掘り起こす。
それにしても、戸越は何故、こんなにも僕のことを知っているのか・・・。
僕の過去については話したことは無いのに・・・。
「ククク・・・・。池上君、洗足香織を覚えているかな?」
「か、香織さん・・・?か、彼女がどうしたんだ・・・。なぜ彼女を知っているんだっ?!」
「彼女の、そ・の・後だよ。」
「その後・・・?」
僕と別れた後の香織さん・・・?
戸越のその冷たい「その後」という言葉にどんな意味があるのか、僕は直感的に聞きたくないと思ってしまった・・・。
「君を助けてくれた彼女だが・・・。」
「か、香織さんについて、何を知っているというんだ・・・。」
「彼女だが、君を逃がしたことによって、医者になる道を閉ざされてしまったよ。ククク・・・。」
「!!!」
・・・何てことだ。
医者に向かう道を歩んでいた香織さんの道が閉ざされてしまった・・・?
「君のせいだぁぁぁっ!!君を逃がした後、病院の先生達から怒られ、大学に報告されたそうだよ。
その後、せっかく医学試験に合格したというのに、どこの病院も受け入れてくれなかったそうだ。
あ~あ、可哀想にねぇ・・・。ククク・・・。」
「・・・。」
僕は愕然としてしまった・・・。
「今は、コンビニでバイトしているようだね。ククク・・・、医学部は高い授業料だったろうに。
ああ、酷い、酷いねぇ・・・、そうだろう?親不孝だねぇ・・・。えぇ?」
「そ、そんな・・・。」
「君のせいだ、君が原因だよ。不幸を全て呼び集めるのは君が得意とすることだろう?」
「・・・。」
「もう少し教えてあげよう・・・。あの浮浪者達についてだ。」
「えっ・・・?」
「池上って奴は、君の親になったんだったかな・・・。
コイツは、仕事がうまくいかず、すぐに辞めちまったみたいじゃないかぁ。
Dとかいう、勉強バカは三流塾で月数万で働いていて、
Jだかいう筋肉バカも、結局仕事に就けず、浮浪者を続けているし、
Kとかいうハッカーは警察に捕まってるらしいなぁ。
あのハゲ坊主は、どこにいるんだぁ?この前の震災で死んだんじゃ無いのかぁ?」
「・・・あぁ・・・。」
「君は不幸を呼ぶ奴なんだよ。それぐらい分かれよっ!」
ホームレス達とは、分かれてから会っていなかった。
お父さんから、来るなと言われてしまっていたからだ。
だけど、一度だけみんなに会いに行ったことがあった。
そこには誰もいなかったのだ・・・。
どこに行ったかも分からず、どうにも出来ないで立ち去るしか無かった。
それでも引き続き僕はお父さんから仕送りをもらっていたから、何とか生活できていたのだ。
みんなと会いたかった。
それが、こんな事になっていたなんて・・・。
・・・だけど、だけど、だけど・・・。
「違うっ!!!」
「はぁ?」
「違うっ!違うっ!みんなどんな境遇でも、強く生きている人達なんだっ!
毎日の小さな幸せを大事にしている人達なんだっ!」
「戸越っ!一体、お前は何なんだっ!」
「戸越?戸越、戸越、戸越っ!!!あぁ、まったくっ!!先生って呼べって言ってるだろっ!!!」
「先生というのは・・・。」
「はぁん・・・?」
「先生というのは、自己犠牲の精神を持った香織さんや、あのホームレス達のような、たくましく生きている人達・・・、
そんな尊敬できる人達のことを言うんだっ!!」
「あぁ、ムカつくなぁ・・・。
つまらない、つまらない、つまらない・・・。
ブツブツ・・・。
池上君、つまらない・・・。
君は不幸を呼ぶ人間だというのに、生きてる価値なんて無いというのに・・・。」
「昔は僕もそう思っていた・・・。
だけど・・・、だけど・・・、こんな僕を多くの人が支えてくれた。
辛くたって乗り越えるための勇気や知恵をもらったんだっ!
香織さんや、ホームレスのみんながいたから、ここまでこれたんだっ!!!」
「ふん・・・。
僕はね・・・。自分が嫌いなんだよ・・・。
嫌いで嫌いで仕方が無いんだ・・・。
だって、そうじゃないか・・・。
僕は取り返しが付かないことをしてしまったじゃないか・・・。
だけど、おかしいんだ・・・。
自ら命を絶って、この絶望感から逃れようとしただけなのに・・・。
落ちていったんだ・・・。
深い、深い闇にね・・・。
地獄って世界はあるんだ・・・。
そう、あるんだよ・・・。
そこで、くそみたいな悪魔共に僕の身体は切り刻まれて、何度も何度も・・・。
僕は何十年、苦しみを味わったのか・・・。」
自ら命を絶った戸越。
それは、何時間か前のこと・・・。
戸越は何を言っている・・・?
「いや、これもおかしい・・・。
何十年も経ったはずなのに、隙を見て逃げてきてみれば、数時間しか経っていないじゃないか・・・。
ああ・・・、ああ・・・、もう嫌だ、全てが・・・。
やっと逃げて来られたと思ったのに・・・。
また奴らは僕を追いかけて来る・・・。
あぁ、奴らは一体何なんだ・・・。
一体何なんだっ!!!!
奴らは言った。
僕を操って人を殺したんだって・・・。
僕は操り人形だったってことかい・・・?
・・・もう嫌なんだよっ!!!」
戸越は自分の罪から逃げ出したいだけだった。
その罪は永遠に彼から離れない・・・。
罪そのものが悪魔と同調して、戸越を追いかけているだけだった。
「それは・・・。」
「はぁん・・・?」
「それは、お前の心が呼び寄せているんだ・・・。」
「何だって?」
「お前の自己否定の考えが、そいつらを呼び寄せているんだ・・・。」
「・・・僕が、奴らを呼んだ?」
「マイナスの思念が、マイナスの悪魔を呼び寄せただけだ・・・。昔の僕のように・・・。」
「僕の思念が・・・ね・・・。
まったく、まったく、まったくっ!!
あぁっ!!!
あんなふざけた奴らを呼んだ?
苦しい世界を・・・僕が呼び寄せた?
ふざけないでもらいたいっ!
そうか・・・、そうか、そうか、そうか・・・!!!
君も味わえば分かるっ!!ククク・・・。
池上君、君の闇をもっと思い出したまえっ!
まずは幼少期の恐怖心としよう・・・。」
「な、何を・・・!」
戸越の目は赤い色になっていた。
それは人間の目では無い。
その目は、あの悪魔達との同調を意味していた・・・。