定職
良信に先に帰って欲しい言われたホームレス達、その帰りの会話。
彼らの子どもがもたらした、もう一つの幸運とは・・・。
Zは、先に帰れと言うから仕方なく帰ることにした。
少し心配だが、身体もしっかりしたZ・・・、いや、良信だから大丈夫だろう。
奴なりにけじめを付けることにした、ということだろう。
あの弱々しかった良信が、ここまで強くなったのは、一応我々のお陰だろうか。
こんな浮浪者共が集まって子どもに教育をして、良信に悪い影響が無いか気が気じゃ無かったが、
それなりの効果をもたらしようだった。
そんな帰り道、弁護士の櫻井さんから話があった。
「池上さん、こんなことしていないで仕事をしたらどうだい?」
「こんなことって、良信に怒られるぜ?」
「うん?そうなの?」
「ああ、何だかんだ言って、あいつは俺達を尊敬してくれているみたいだからさ。」
「そりゃ、すごい。まあ、でもさ、定職に就いた方が良いって。」
「う~ん、でも、もうこんな歳だからさ。」
すると、櫻井さんは、真剣な面持ちでこちらを向いた。
「うちにおいでよ。」
「えっ?」
「うちの事務所で働きなよ。」
「・・・でも、いいのかい?」
「良いに決まっている。丁度、一人事務担当の人が辞めちゃってさ。困っていたんだ。」
「しかし・・・、自分はいい歳で、うまく仕事が出来るか・・・。」
「まったくっ!心配しすぎだよっ!」
「そうかい?」
「というかさ・・・、」
そういうと、少し呆れたような、それでいて、嬉しそうな顔をしてこう言った。
「親父になったんだろ?」
「・・・あぁ、あぁ・・・、そうだったな・・・。」
「明日、事務所に来なよ。」
「分かった。良信のためか、仕方ないな。」
「そうだよっ!親父さんっ!」
「Jさん・・・、ちぇ・・・、何だか照れるな・・・。」
「良かったじゃないか、Aさ・・・、じゃない池上さんかな?」
「う、う~ん、ありがとう。Dさん。」
櫻井さんは、他の奴らにもこう言った。
「皆さんのお仕事も探しましょう。少し待っていて下さいね。」
「えぇ、本当ですかっ!」
「そりゃ、ありがたい。」
「助かります。」
何だかKさんだけ、乗り気じゃ無いな。
「えっ・・・、今の収入す、すごく良いんだけどなぁ・・・。」
「駄目ですよ。Kさん。ま・じ・めに仕事しませんと。」
「Hさん・・・、あ、あなたは何を知っているの・・・ですか・・・。」
「そうだよ、Kさん。一緒に定職に付こうよっ!」
「Dさん・・・、は、はぁ・・・。」
俺はこの光景を見て思った。
良信・・・、お前、すごい奴だな・・・。
縁結びの神様どころか、幸運の女神ってところだな・・・。
でもまだまだ、教えたいことが俺達にはあるんだ。
明日から、ビシビシいくぞっ!良信っ!
余話が続いていますが、これで終わりです。