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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第12重力子 「アタラシイ イエ ハ ナニヲモタラシタ?」
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新しい家がもたらしたもの

ついに母親に会いに行くZ。

ホームレス達は、彼に案内されてZの家に着く。

これが終わりであり、始まりであった・・・。

翌日、とても良く晴れた日で、僕の心とは真逆だった。

自分の最寄り駅を降りると、ホームレス達は、僕の案内で母親の住む家に向かう。


みんなはいつも適当な格好をしているが、今日はスーツ姿になっている。

どこにこんな服があったのか、僕は全然気づかなかった。

Hさんに至っては、袈裟衣を着ていて、これからみんなでお葬式にでも行くかのような感じだった。

確かに僕にとってはお葬式みたいな感じなんだけど・・・。


「う~ん、ああ、ここかぁ?」

「は、はい・・・。」

「汚いアパートだなぁ。」


いや、みんなの段ボールの家も相当だったんだけど・・・。


「何だ、やっぱ会いたくないか・・・。」

「・・・。」


ピンポーン。


「あぁん?誰だよ。」


僕は、この声に背筋が凍り付く。


日曜日はさすがに母親は家で休んでいると思った。

案の定、声が聞こえて玄関の扉が少し開く。

そこには、ムスッとした母親がいた。


「えっと、息子さんについてお話ししたいことがあって来ました。」

「なんだよ。知らないよ。今は行方不明なんだ。」

「おい、来な。」


僕はビクビクしながら母親の視界に入った。


「お、お前・・・。お前、逃げやがって、せっかく金をもらったのに、返す羽目になったじゃないかっ!!!」

「い、いえ・・その・・・。」

「くそ、早く来いよっ!」


僕はまるで蛇に睨まれた蛙だ・・・。

何も言い返せないし、ビクビクするだけだ・・・。


「はい、そこまで。」


Aさんが話を遮った。


「奥さん、息子さんですが、私に預けて頂けませんか?」

「はぁ?何言ってるの。コイツは病院に送るの。」

「それはあなたがお金をもらうためですよね。」

「ふん、そんなことはどうでも良い。コイツは私の息子なんだから、さっさと置いて帰ってくれっ!!」

「自分の息子が帰ったというのに、第一声が、それですか、まったく・・・。上がらせてもらいますよ。」

「お、おい・・・。」


ずかすかと、五人のホームレス達が、家に上がっていく。

さすがの母親も五人もいるとは思わなかったのか、ひるんでしまっていた。

Hさんは、声は出さないものの、ひたすら念を唱えているように見えた。

そのお陰か羊顔の奴も今はいない。


掃除係だった僕がいなくなったため、部屋は荒れ放題だった。

捨ててないゴミに、食べあとの弁当に、カップ麺、洋服も散らかしたままだった。

台所にはゴキブリが這い回っている。


ホームレス達は、こんな部屋でも全く気にしない、ある意味で強い人達だ。

居間に行くと、ゴミを押しのけて、ドシンと座って、話し始めた。


「あのですね。息子さんの育児を放棄した状態でしたよね。」

「ふん、こんな恐ろしい息子は育てる意味が無いんだ。知ったことか。」

「行方不明とおっしゃっていましたが、捜索願などを出したのでしょうか?」

「だ、出したよ。当たり前じゃないか。」

「ですが、警察に問い合わせてみましたが、捜索願は出ていないとのことでしたよ?」

「な、何を、そ、そ、そんな訳は・・・。」

「いや、息子さんを大事にしていないのは、よく分かりました。ですから、私に息子さんの育児を任せて欲しいのです。」

「ふ、ふざけるな・・・。」

「今、息子さんをお渡ししても、病院に送るだけですよね。お金がもらえるとか先ほど話していましたし。」

「あ、あぁ、確かにお金がもらえるとか言っていたな・・・、だけど、お前たちと関係ないだろっ!!

そ、そうだ。息子を育てるというのなら、金をよこせ。」

「ああ、恐喝ですか?お金をよこせと。」

「きょ、恐喝じゃないよ。そ、そう、交渉だよ。」

「よく分かりました。と、言うことだそうです。弁護士さん。」

「はぁ?」


もう一人、そう、もう一人、弁護士が付いてきていた。

Aさんの昔の会社で知り合った方だそうだ。

彼が、一緒にきてくれていた。


「奥さん、育児放棄と、恐喝と、よろしくないですね。今の内容はこれに保存させて頂きましたよ。」


Kさんが予めスマホでボイスレコーダーのアプリをインストールしておいて、それに保存していたのだ。


「な、な・・・。」

「今、ご自分で育児を放棄されたと証言されましたよね。後日、家庭裁判所から通達があると思います。」

「ふ、ふ、ふざ・・・。」

「もう、止めましょうよ。奥さん。息子さんの幸福を願ってあげて下さい。」

「・・・ち、畜生・・・。」


悔しがる母親を見て、何故か僕は哀れに思えた。

僕の事なんて考えた事は、なかったかもしれないが、それでも母親。


「お、お母さんっ!」

「な、なんだよっ!」

「今までありがとうございましたっ!」

「・・・。」


そう言うと、力が抜けきったように、母親はその場に崩れ落ちた。


「皆さん、先に帰って下さい。」

「うん?あぁ、分かった。」


みんなは、何かを悟ったのか、これ以上は何も言わず外に出て行く。


僕は掃除を始めた。

母親も何も言わず、下を向いたまま座っている。


汚くなった部屋に散らかっていたカップ麺などをゴミ袋に入れる。

洗っていない洋服は洗濯機に入れて洗濯した。

台所の洗っていない皿を全て洗った。

そして、唯一の安らぎ場所だったお風呂も綺麗に掃除した。


その掃除は2時間ほどかかった。


「それでは、お母さん、お元気で・・・。」

「・・・。」


気のせいか、泣いているようにも見えたが、それ以上は何も話さず、そっと家を出て行った。


後日、Aさんや、弁護士が話し合って、家庭裁判所で母親の育児放棄が立証されることになる。


僕の養育権は、Aさんに変わった。

そして、Aさんの本当の名字を付けて、晴れて僕は、「池上 良信」となった。


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