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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第12重力子 「アタラシイ イエ ハ ナニヲモタラシタ?」
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嬉しさと不安と

順調に生活を始めたZこと良信に対して、ある日、Aは驚きの提案を行う・・・。


ホームレスとの生活が数ヶ月過ぎた時、食事が終わったあとに、Aさんから少し離れた場所に呼び出された。

それは驚きの提案だった。


「おい、Z。お前、中学校に通えよ。」

「えっ?中学校・・・ですか・・・。」

「そうだ。学校だ。みんなで考えたんだけど、やっぱ、お前はまだ若いからさ。学校に行った方が良い。」


ちゅ、中学校に通う・・・。

買い物をしている時に見かける同じ年代の中学生達。

彼らとは別世界にいたから、関係の無い話だと思っていた。

だけど、このままどこに行こうとしているの分からない自分もいて、不安と焦燥が僕の心から離れなかったのも事実だった。


「えっとだな、そこでまずは、お前をアパートに住ませることにする。」

「えっ?」

「学校に行くのに、ここから通うんじゃ、不味いだろ?」

「え、えぇ、まあ・・・、そうかもしれませんが・・・。」

「日雇いで行っているバイト先のおばあさんが、アパートをやっているんだけどさ、誰も住んでいないし、

さみしいから誰でも良いから住んで欲しいんだってさ。

お前のことを話したら、喜んで住んで欲しいとよ。」


この提案にも驚いてしまった。

確かにあの段ボールの家では、恥ずかしいかもしれないけど・・・。


「でも、家賃が・・・。」

「まったく、ガキのくせに金の心配しやがってっ!大丈夫だ。タダで住まわせてくれるとさ。」

「そ、そうですか。で、でも皆さんは・・・。」

「なあに、俺達のことは心配するな。今までも何とかやってきたんだしな。」

「だ、だけど・・・。」

「あのなぁ・・・。お前には、俺達みたいになって欲しくないのよ。」

「そんなこと言わないで下さいっ!僕は皆さんのようになりたいですっ!!」

「馬鹿野郎っ!いくら俺達から学んだって、実践する場がないんじゃ意味が無いんだよっ!」


突然怒りだしたAさんに驚いてしまった。

だけど、みんなのことを否定することは許せなかった。


「は、はい・・・。でも、皆さんは、とても素晴らしい人達です。それは否定出来ませんっ!」

「分かった・・・、分かったよ・・・。全く、引かねえな・・・。」

「はい。」

「だけど、学校には行ってもらうっ!これは俺達全員の意見だ。」

「・・・。」

「ともかく、四の五の言わず、子どもは親の言うことを聞くもんなんだってっ!」

「はい、分かりました・・・。」


学校に通えと言うAさんは、付け加えるように大事なことを話した。


「それと・・・。」

「はい?」

「お前、駄目母親とは縁を切ったんだろ?」

「・・・はい、まぁ・・・。」


そしてAさんは、コホンと咳払いをすると、意を決したような顔をして話した。


「お前、お、俺の息子になれ。」

「えっ?!」

「・・・何だ嫌か?」

「嫌というか・・・、僕がAさんの息子?」

「そうだ。お前は俺達の子どもだったが、学校に通わすには、誰かが保護者にならんといかんからな。

お、俺が・・・、その・・・、お前の・・・、ち、ち、父親になってやるんだっ!」

「僕のお、お父さんに・・・。」

「そ、そうだ。」


Aさんは、自分の照れを隠すように目をそらして鼻を掻いている。

だけど、息子にするってそんなに簡単なんだろうか・・・。


「そんなに簡単にAさんの子どもになれるのですか?」

「まあな、特別養子って奴だ。お前は、もうすぐ俺の息子になるっ!」

「そのためには、お前の母親と話を付けないといかん。」

「はい・・・。」

「自分ちの家ぐらい覚えているだろ?今度の日曜日、俺達をお前の家に案内しろ。」

「・・・。」


正直、またあの母親に会うのは気が進まない。

はっきりって、会いたくない。

また病院に送られてしまうのではないかという恐怖が募る・・・。


「嫌なのは分かるが、前に進むためだ。」

「はい・・・、でも・・・Aさん・・・。」

「何だ、まだ何かあるのかよ。」

「う、嬉しい・・・です・・・。」

「あん?小さくて聞こえない。」

「とても嬉しいですっ!ありがとうございますっ!」

「そ、そうか・・・、そ、そりゃ、そりゃ、良かったっ!お、お、俺も、う、う、う、嬉しいぞっ!!」


今日は少し早めの夕食だった。

まだ落ちきっていない夕日は、新しく生まれる親子の心を暖めてくれていた。

そして、遠くからは他のみんなもこの光景を温かく見つめていた。


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