恩返し
ホームレス達との奇妙な生活が始まった。
だが、ある日、ZはAから注意を受ける・・・。
あてにしていた場所は、何も無く、行き場を失った僕は、ホームレス達と共に生活することになった。
この電車が通る橋の下は、浅い川が流れ、川辺は草が生え、その段ボールの家は自然に溶け込んで存在していた。
僕は、ここに来た翌日から、それぞれ家を巡回しながら、色々教えてもらうようになる。
Aさんは、人生論を教えてくれた。
Dさんは、中学校の勉強を教えてくれた。
Jさんは、身体を鍛えてくれた。
Kさんは、パソコンの使い方を教えてくれた。
Hさんは、あの世とかこの世か不思議なな話しを聞かせてくれた。
こんな毎日が充実した事はなかったので、嬉しくて仕方が無かった。
僕はあの力も使えなくなった事もあり、生きるための勉強に集中できるようになっていった。
だけど、ある日、Aさんから注意を受けた。
「おい、Z、お前、掃除してくれないか?働かざる者食うべからずだ。」
「た、確かに・・・。僕は働いていない・・・。」
「まあ、勉強は今のままで良いんだが、少しは働くって事もしないとな。」
「はい。」
「良いか・・・、Z、働くってのは世の中に恩返しをするって事なんだ。」
「恩返しですか・・・。」
「そうだよ。人間は何だかんだ言っても、相互に協力し合いながら生きているんだ。
だから、感謝して恩返しをしなくちゃならないんだよ。
こんな浮浪者でも、生きている限り、社会から何かの恩恵を受けているんだよ。」
「なるほど・・・。」
香織さんや、ここにいるホームレス達から、色々としてもらってばっかりだったから、この一言は身にしみた。
「掃除か・・・、確かにここは、汚くて、しかもかなり臭い・・・。この匂いには耐えきれない・・・。」
「う、うむ・・・。相変わらずはっきり言うな。」
「分かりましたっ!掃除しますっ!!」
この時から、15時ぐらいまでは勉強を色々な人から教えてもらって、そのあとは掃除をする時間にした。
匂いの根源は、服と部屋の下にひいている布団であることは確実だった。
僕はお金をもらって、部屋の布団とボロボロの洋服をコインランドリーで洗うことにした。
「う~ん、それでも臭い・・・。」
「そうかなぁ、臭いかなぁ。」
「はい、とても・・・。」
あとは、この段ボールか・・・。
僕はコンビニに行くと、買い物をせず、段ボールをもらってきて、家を形作る段ボールを変えていった。
この段ボールの家を作る"技術"は、後々、災害に見舞われたときに役に立った・・・。
Aさんの家で調子に乗った僕は、他のホームレスの家も"リフォーム"していった。
「はぁ、新築になったなぁっ!お陰で匂いが消えたわ。」
「ありがとよ、Z。」
「Z は、起用だなっ!なかなかやるじゃないか。」
何だかZと呼ばれるのが、格好いいような気がしてきた。
それにしても感謝されると、とても嬉しい。
「あと・・・、皆さん・・・。」
「何だ?」
「お風呂に入って下さい・・・。」
「ふ、風呂かっ!」
「はい、お風呂です・・・。せめて2,3日に一回ぐらいは・・・。」
「う~ん、仕方ないなぁ、Aさん、こいつが言うんじゃしょうがないわっ!」
「Dさん、だけど、これは痛い出費だぜ・・・。」
「あははっ!」
「くははっ!」