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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第12重力子 「アタラシイ イエ ハ ナニヲモタラシタ?」
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ある橋の下で

頼りにしていた児童養護施設はすでに無くなっていた。

どうすることも出来なくなってしまった良信の行き着いた先とは・・・。


一体どこをどう走ったのか覚えていない・・・。


自分の意識が無かったということは、この時も別人格だったのかもしれなかった。

そう思うと、また恐怖に襲われてしまう・・・。


精神科病院での縛られた生活・・・。

思考を薄弱にする薬の数々・・・。

僕を全く聞いてもらえない人達・・・。


「あんな場所だけは戻りたくないっ!」


そんな気持ちが僕を動かしていた。

だけど、頼りにしていた施設もなくなっていて、僕は途方に暮れるしかなかった。


「か、香織さん・・・、僕はどうしたら・・・。」


しばらくすると、小さな橋が見えてきた。

行く宛てもない僕は、橋の下でうずくまる。


膝下ぐらいまでしか深さがない川、その流れは日に照らされて、キラキラと光が揺らめいて、とても綺麗だった。


そんな時、誰かが僕に話しかけてきた。


「おい、どうしたんだ、ボウズ?」


ふと見上げると男の人が上から覗いていた。


「こんなところでどうしたんだ?大丈夫かよ・・・。震えているじゃないか。」


見知らぬおじさんが、もう一人、こちらにやって来た。


「Aさん、何だ?どうしたんだ?・・・何だ、子どもかよ・・・。」

「Dさん、こいつ震えているぜ。なあ、ボウズどうしたんだよ?」

「何かあったのか?」

「いえ・・・。」

「何だ?家出か?」


家出・・・。


「家・・・出・・・、そうかもしれません・・・。」


家・・・、家・・・、僕にとって家ってどこにあるんだろう・・・。


落ち着ける場所

安らぎのある場所

帰るべき場所

帰りたい場所


多分・・・、怖い場所なんかじゃないっ!


「何だ家出かよ・・・。こんなところいてもしょうがないぜ?家に帰れるか?」

「家・・・、家・・・、ぼ、僕には・・・家なんて・・・。ううぅぅ・・・。」


どうして良いのか分からず、涙が出てきてしまった。


「あぁ、もう、仕方ないっ!ちっと、こっちこいっ!」

「おい、Aさん、連れて行っちゃうの?大丈夫かなぁ・・・。」

「でも、家がないとか普通じゃないぜ?」

「う~ん、まあ・・・。」

「さぁ、行くぞ、ボウズッ!」


僕は、この知らないおじさん達の後を追って行く。

そして、たき火が炊かれている場所に案内された。

その暖かさとおじさん達の優しさで、また涙がどっと出てきてしまった。


「お、おいおい・・・。」


彼らはいわゆるホームレスでこの橋の下を住居にしていた。


「な、何だって?それでここに来たのか。」

「そりゃ、酷い話だな・・・。だが、どうしたもんか・・・。」


もう一人、このたき火に集まってくる。


「Aさん、Dさん、どうしたんだい?あれ、子どもかい?」

「おう、Jさんか、コイツが迷っていてね。」

「はぁ、家はどうしたんだい?」

「それがさ・・・。」


彼らは自分たちをアルファベットで呼び合う。

自分たちの過去を思い出さないようにするため、本名を名乗らない決まりらしい。

順番にAから名前を付けたようだったのだが、何らかの理由でここを去る人がいると"間"が抜けるらしい。

今いる人は、Aさん、Dさん、Jさんだった。

あと、Hさんと、Kさんがいるのだが、今はここにはいないようだった。


「おい、ボウズ、しばらくここにいな。」

「お、おい、Aさん、そりゃ、不味いって。警察につかまるって。」

「Jさん、良いじゃないか。そうなったら刑務所で良い飯が食えるってものだよ。」

「あははっ、そりゃイイや。そうしようよ。」

「あちゃ~、でも良いかぁ!」


こうして、僕とホームレス達との不思議な生活が始まる。


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