遙か上空の彼方で
池上は新しい研究室に所属したがなじめないでいた。
そして登校する時に商店街の上空で見えたものとは・・・。
僕は、あれから途方に暮れていた。
商店街を抜け、大学に向かっていた。
いきなり友達を全員失ってしまい、研究室も閉鎖され、未来を絶たれたような気がした。
ひとまず別の研究室に所属させてもらえたが、大きな事件の後でもあり、たった一人の生き残りでもあり、うまく馴染めなかった。
変な目で見られても仕方ない・・・。
そう、一人だけ生き残っている僕が犯人と見られてもおかしくない。
白い目で見られるのは慣れているが、話し相手にもなってくれない人達に嫌気が指してきていた。
それにしても、研究室の教授、生徒達が一度に死んでしまった事件。
死因は未だに不明。
犯人と思わしき少女は消えてしまった。
消えてしまったというより、僕が消してしまった。
封印していた「力」は使ってはいけなかったのかもしれない・・・。
この力、自分でもよく分からない力。忌まわしき力。
とっきょと名乗った子は、重力子を使っていると言っていたが・・・?
重力で働くと想定されている重力子のことだろうか・・・?
疑問だけしか残らない。
どうしたら良いんだ。
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暗闇の中でかすかに懐かしい声が聞こえる。
いや、僕を、僕を恐れる声・・・。
「忌まわしき子!こ、怖いわ・・・。あなた・・・。」
「だ、大丈夫だ・・・。そうだろう?良信?」
「お父さん!お母さん!そんなに怖い顔しないで・・・。何もしないよぅ・・・。」
僕の周りには勝手に浮かんでいる包丁やナイフ。
台所のあらゆるものが浮かんでいる。
「ひっ、ひ~~っ。」
「僕は何もしていない・・・・。何もしていない・・・。 何もしていない・・・。 何もしていない・・・。 何もしていない・・・。 何もしていない ・・・。」
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思い出したくないことを思い出してしまった。
そして訪れる絶望感。
僕は・・・。
僕は、 一人だ・・・。
僕は、また一人だ・・・。
3年前・・・。
大学に入ってからすぐは、他の生徒と馴染めないでいた。
だが、研究室に入ってから人生が変わった。
研究室の教授、准教授を含め、同じ研究室の生徒達と仲良くなれたからだ。
御岳 教授
戸越 准教授
永原 秀人
雪ヶ谷 しずく
大崎 孝治
荏原 真一
そして僕
全員で7人しかいない小さな研究室だったけど、楽しかった。
大学に向かうために通る町を歩きながら涙が出てきてしまった。
泣いてばかりいちゃダメだ。
前を向かなくては、前を向かなくては・・・。
深呼吸をした瞬間だった。
「・・・?!」
遙か上空、人が浮いている・・・。
青いスーツを来た女性。
空に溶け込んでいる。
彼女は大学の方をじっと見ている。
何かを観察しているようだった。
僕はとっさに路地裏に隠れてしまった。
「あれ、僕は何してるんだ・・・。」
そっと見るとまだいる。
商店街の人達は、誰も気づいていないみたいだ。
あの「力」・・・。
トキコという子と関係があるのか?
飛んで追いかける?
「力」を使ってもいいのか?
わいてくる疑問を消すことはできなかったが、殺人事件に関わるヒントが得られるかもしれない。
そして僕は、また「力」を使った・・・。
空を飛んで、彼女に近づく。
「あの大学かしら・・・。」
何か小声で話している。
髪は少し茶色で肩まで伸びている。
とても頭の良さそうな顔立ちだ。
眼鏡をかけているからかな。
それにしても、彼女の周りを回る鎖・・・。
いや、よく見ると天気図で見るマークなんだけど・・・。
低気圧と高気圧の線が鎖のように回りながら、丁寧に「高」と「低」の字まで回っている。
「はぁ・・・。」
若干ため息が出る。
「んっ!、ど、どちら様?」
「!!」
彼女から声をかけられて驚いてしまった。
透き通るような綺麗な声だ。
しかし、「どちら様?」とは・・・。
冷静すぎないか・・・?
「い、池上と申します。」
丁寧に返してしまった・・・。
「これは丁寧に。私はユウと申します。んっ!?何あなた空を飛んでるのっ??」
「ええ、まあ・・・。」
冷静なんだか、抜けているんだか、よく分からない・・・。
「あれ、池上と言ったわねっ!?」
「は、はい。お姉さん。」
「お姉さんっ?!やだ、そんなっ。」
顔を赤らめてモジモジしている。
ちょっとかわいい・・・。
「ん?!まさか!あなたね!とっきょを消したのはっ !!!」
急に冷静になったのか。
やりにくいなあ・・・。
「やっぱり、あの子の知り合いですか?」
「私のかわいい とっきょを消してくれてっ!許さないんだからっ!!」
とっきょ、トキコという子を消されて怒っているようだ。
「あれは消したんじゃない、導いたんだ。」
「導いた?どこによっ!?」
「お、おまえこそ、殺人者の仲間なら、ここで捕まえてやるっ!」
「やれるものならやってみなさいっ!私は天気予報士ユウ!」
「天気予報士って、テレビの??」
「そうよ!覚悟しなさい!!!」
「嫌な予感・・・。」
「行くわよっ!」
<<今日の天気は・・・>>
「天気??」
<<ハレっ!>>
高気圧、低気圧の鎖が消えて、彼女の後ろに太陽が現れる!
そして異常に暑くなる。
「暑っ・・・。」
何なんだ?!
「丁度よかったわ、あなたから来てくれて!寒くて仕方なかったんだからっ!どう?暖かいでしょう?」
「いや、、、暑いんですけど、、、それより、おまえ達は何なんだ?いったい何をしようとしている?」
「あなたが知る必要はないわ。あの人の偉大な計画なんですからね。理解できるはずないもの。」
「誰だあの人とは!」
まぶしい上に、暑く、そして、話しながら口が渇いてくる。
「言えるわけないでしょ。大体何よ、若いくせに敬語も知らないのかしら。」
ああ、、もう・・・。
「そ、その計画を教えて下さい。お姉様。」
「うん?!」
急に太陽が小さくなる。
「あれ、温度が戻った。」
よく見ると彼女はうっとりした表情で、両手をほほに当てて目を閉じ、モジモジとしている。
「はっ!そ、そうね。世界中をきれいにする計画ってところね。詳細は話せないわ。」
真顔に戻っている。
「なるほど。どなたの立案なのですか?きれいなお姉様。」
「いやん、お姉様なんてっ!」
さらにうっとりとしている・・・。
「はっ!そ、そうね。あなたの知ってる人よ。もうあの人にメロメロっ!素敵すぎなのっ!」
「知っている人・・・?」
それにしても、この人はお姉様って呼ばれたいらしい・・・。
分かりやすいなぁ。
「な、なるほど。その方のお名前を教えていただけますか?すてきなお姉様!」
「きゃっ!恥ずかしいじゃないっ!かわいい子ねっ!」
このまま全てを話してくれそうだ。
僕よりも年上だと思うけど、かわいらしい人だ。
「はっ!そ、そうね。あなたが死んでくれたら教えてあげるっ!」
前言取り消し・・・。
「げっ、ダメか・・・。」
<<今日の天気は・・・>>
「またか・・・。」
<<曇り空っ!>>
周りが暗くなると雨が降り出してきた。
「痛っ!」
この雨は恐ろしく速度が速いらしい。
痛すぎる・・・。
取りあえず迂回して雲の外に出た。
「あ、あれっ!?」
彼女は何故か気落ちしている。
「お姉さん、どうしました?」
「ぐすっ、天気予報外れちゃった・・・。」
曇りって言ったのに雨だったからか・・・。
「あの、大丈夫ですよ。気にしないで。お天気は外れることもありますから。」
「ぐすっ、、そうよね。ありがとう。池上君は優しいのね・・・。」
「元気出してください!」
何やっているんだ僕は・・・。
「うん・・・、それなら・・・。」
<<天気予報士の憂鬱>>
「え~~~っ!」
どんよりと周りが暗くなり、彼女の目も恐ろしく輝いている・・・。
例の鎖が僕の全身を包み、外れなくなってしまった。
「いや、、あれ、、困った・・・動けないぞ・・・。」
「ぐすっ、ぐすっ、お天気が外れると憂鬱なの・・・。分かるわよね?」
「あはは、、、そうですよね。SNSなどで色々言われちゃいますもんね・・・。お姉様。」
「きゃっ!もうっ」
にっこりして、晴れやかになった。
鎖も緩んだのでさっと離れた。
「はっ!もうっ!やりにくいっ!」
それはこっちの台詞だ、と思ったんだが口をつぐんでしまった。
「うん、そうね、やっぱり。あなたは自然にその能力が身についたのでしょう?」
「子どもの頃から普通に使えた・・・。」
「あら、大変だったでしょうに。」
「それで僕は親に捨てられたんだ・・・。 」
「えっ、やだっ・・・ 。ごめんなさい・・・。あなたもさみしい思いをしたのね・・・。」
少し涙を浮かべている。
「はっ!、で、でも、それとこれとは話は別なんだから。同情なんてしないわ。」
「同情なんて・・・。それより、何でそんなに怒っているですか?トキコは・・・。」
「何も分かってないわねっ!!あなたが消したのよっ!重力子を使って存在の力を消してしまったのっ!」
「重力子で存在の力を消した?」
「そうよ、私たちは先生の力で生まれたイマージュだもの。」
「イマージュ??先生??」
「話しすぎてしまったわ。」
<<今日の天気は・・・>>
<<台風よ!津波にも注意してね。>>
「要らない注意事項・・・。」
彼女は大きく上に上っていくと、手のひらを交互に重ねて上に上げる。
鎖が彼女の周りを大きくうねる!
ものすごい突風と雨!
雷も鳴って襲ってくる!
逃げようにも逃げられない。
寒い、冷たい、痛い、痺れる・・・。
「うわ~っ、大当たりです!お姉様!!」
「ピクッ!いや、だめだめだめっ!」
もうこれは通じないか・・・。
「!」
また光が僕を包む・・・。
(・・・・・。)
「ま、また、君か・・・。)
(・・・・・。)
「あはは。ちょっとピンチなんだ。」
(・・・・・。)
「うん、そうだね。ありがとう。」
僕はまた光をユウという女性に向けた。
「な、何?光?あ、暖かい・・・。」
(・・・・・。)
「えっ?そうなの?」
(・・・・・。)
「・・・。」
(・・・・・。)
「うん・・・。ありがとう。」
彼女の姿が薄くなっているのが分かる。
「えっ??何を・・・先生、止めてくださいっ!!いや、駄目です!!!私を操らないでっ!!!」
「何を言っている? あっ!」
(・・・・・。)
<<きょ、今日のて、てん、天変地異は・・・>>
「天変地異っ?!」
<<大地震!!>>
「じ、地震だってっ?!」
恐る恐る地上に目を下ろす・・・愕然とした・・・。
「ま、町が、、、じ、地面が、、、わ、、、割れている・・・。何てことを・・・。」
「ああ、、、先生!!何てことを・・・!!」
<<ああ、、あと、あと、、お、おお、大雨!!!>>
「外れないでっ!!!!」
最後の願いのような言葉を発しながら、彼女は消えた・・・。
あたりは雨に包まれ、静寂になり、雨音だけが聞こえている。
そしてさっきのように痛くはなかったが、少し儚く感じた。