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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第11重力子 「コドクナソラヘノタビダチ」
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バカねっ!

母親と面会することで力を制御出来なくなってしまった池上。

また狭い病室に閉じ込められた彼の元に、洗足香織が急報を告げる・・・。

真夜中だというのに、目が覚めてしまっている。

小さな窓から空を見上げている。

星は綺麗に輝いているが、その輝きとは逆に僕の心は曇りきっていた。

これから、僕はどうして良いのか分からなかった・・・。

しかも、あれから更に強い薬に変えられてしまい、思考がほとんど出来ない・・・。


「良信君・・・。」

「・・・。」

「良信君・・・?」

「・・・か、香織さんっ!」

「起きていたのね。良かった。」

「か、身体は・・・、身体は大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫よ・・・、それより良信君、聞いて・・・緊急事態なの・・・。」

「えっ?」

「良信君の・・・君の移送が決まったわ・・・。」

「い、移送ですか?ど、どこへ?」

「ここよりももっと酷いところ、死んでしまった人もたくさんいるような酷い病院・・・。

君が酷い薬漬けになってしまう・・・。人体実験するような病院なの・・・。」

「えっ・・・。」

「あなたのお母様も同意してしまった・・・。お金もたくさんもらったみたい・・・。」

「・・・。」


僕はさらに絶望の淵に落とされてしまった。

こんな酷いことってあるんだろうか・・・。

僕はまともだ・・・。

しかし、客観的には周りの物体を動かすような異常者であり、複数の人格を持つ多重人格者でしかない。

人体実験・・・、嘘のような話だが、香織さんが言うなら真実だろう・・・。


「い、いつですか・・・。」

「明日よ・・・。」

「あ、明日ですかっ!」

「しっっ!静かにっ!私も今内緒でここにいるの・・・。」

「あぁ、すいません。最後までありがとうございました。」

「最後までって、何を言ってるのよっ、バカねっ!逃げるのよっ!あ、しまった・・・。大きな声出しちゃった。」

「に、逃げるんですか?」

「そうよ。今開けるから。職員はみんな眠っているわ。」

「は、はい・・・。」

「さぁ、これに着替えてっ!」


彼女はジーンズとTシャツを渡してくれた。


「ごめんね。急いだから、私のしかなくて・・・。」


女性用だから腰が少しぶかぶかしている・・・。


「背は同じぐらいだから何とかなりそうねっ!」

「はい。Tシャツもぴったりです。」

「ぴっ、ぴったり?本当にぴったりなの?」

「え?!はいっ、ぴったりです・・・。」


香織さんが落ち込んでいる・・・。

あれ、何か不味いことでも言ったかな・・・。


「(む、胸もぴったりなのね・・・、軽くショックだわ・・・。)」


き、聞こえているんだけど・・・。


「あ~、そ、そうだ~、胸のと、ところが、ぶ、ぶかぶかで、です。」

「良信君・・・、い、いいわ・・・。気を遣わせちゃったわね・・・。」

「いや、その・・・。」

「そ、そんなことより・・・、さっ、早くっ!」

「は、はいっ!」


薄暗い廊下を通る。

監視カメラが確実に二人を捉えているに違いない。

病院だというのにご丁寧に監視カメラが付いている。

暴れ回ることもある患者を監視したり、僕のように"脱走"するような輩を監視するためだろう・・・。

香織さん・・・、こんなリスクを負うなんて・・・。


(大丈夫だよ、警備員は寝ている・・・。)


「えっ?」

「うん?どうしたの良信君。」

「今何か言いました?」

「ううん。何も言ってないわ。」


今確かに、大丈夫って聞こえた。

女性の声だったけど・・・。


それにしても、目の前を早足で歩く香織さんは、あの時の傷が完全に治っていないのが分かる。

彼女の手足に巻かれた包帯がそれを物語っていた。

僕は心が痛くなった・・・。


しばらくして、職員用という扉があった。


「そうそう、これね。」


香織さんはパスカードを持っているので容易に中には入れた。


ここは職員用の廊下、さすがに監視カメラは見当たらなかった。

職員だけしか通れないからだろう。


「もうすぐ出口よっ!」

「はい。」

「あの角を曲がれば出口に出られるわ。」


(ご、ごめん。気づかれた・・・。)


まただ・・・。

また聞こえた。

ん?気づかれた?


「あっ・・・、せ、先生・・・。」

「洗足君、困るよ。患者を勝手に移送されてはっ!」


違う・・・、先生じゃないよ、香織さん・・・。

母親といつもいる"羊顔の奴"だ・・・。


「全く、どうしてくれようか、この女っ!」

「えっ?先生・・・、口調が・・・。」

「どうでも良いんだよ。そんなことはぁぁぁぁぁっ!!!」

「わ、私は、良信君を守りたいだけですっ!!!」

「はっ!何が守りたいだっ!!!貴様のような学生が、何を助けるだと?!」


僕が香織さんを守らないとっ!


「香織さん、下がってっ!」

「えっ?よ、良信君?」


(私が協力するよ。)


「た、頼むよっ!」

「お前は、何もんだぁっ!巫女の姿をしやがってっ!!!帰れっ!」

「み、巫女?良信君が巫女???」


「いつも、いつも、僕の邪魔をしてっ!」

「はっ!お前は、次の病院で薬漬けにする予定なんだっ!大人しく病室に戻れよぉぉぉぉっ!」

「い、嫌だっ!今度ばかりはっ!」

「いつも大人しくしているくせに、今回は随分勇ましいじゃねぇかよぉ。ははぁぁん、女を守る為ってかぁぁぁ?

いっちょ前に盛りが付いているんじゃねぇよっ!」

「もう、嫌なんだ・・・。」

「くそ面倒くさいっ!おらぁぁっ、逃げるんじゃねえぞっ!」


先生は僕を掴もうと近寄ってくるっ!


「もう、嫌なんだよっ!!!」


しかし、僕は、いつもは振る舞わされている"力"に集中する。


(自分の意思で方向性を付けるんだよ。いつもは無軌道だから制御出来ないんだ。)


「うんっ!」


僕は手のひらを先生に向けると、意識を集中した。

すると、先生はドアの方へ吹き飛んでいった。


「がはぁっ・・・。」


そのまま先生は意識を失った。


「はぁ・・・、はぁ・・・。」


香織さんのそばにいる白い巫女姿の女性が、僕の力をサポートをしてくれたお陰で先生を悪魔と一緒に吹っ飛ばすことが出来た。


「ありがとう。」


(良いんだよ・・・。)


白い巫女はそのまま消えて行く・・・。


「良信君っ!」

「香織さん・・・。」


ピシッ!!


「い、痛っ!」


香織さんは思いきり僕の頬をひっぱたいた・・・。


「何てことをするのっ!」

「えっ・・・、だって・・・。」

「バカバカッ!もうこんな力使っちゃ駄目でしょっ!!」

「いや、だけど・・・。」

「使っちゃ・・・、駄目でしょ・・・。」

「あっ・・・。」


そう言うと、香織さんは優しく抱きしめてくれた・・・。

外に通じる扉から少し冷たい風が吹く、だけど香織さんの匂いが優しく僕を包み込んでくれていた。


「駄目でしょ・・・?」

「は、はい・・・。ごめんなさい・・・。」

「うん。良い子。君はとても良い子。そしてとても優しいの。」

「優しい・・・?」

「そうよ。そんなヘンテコな力で傷つけた人達のことをいっぱい心配しているんだもの。」

「だって・・・、それは・・・。」

「とても優しい瞳をしているの、君は。」

「そ、そうですか?」

「そうよ。ちょっと顔を見せて?」


香織さんはニコニコしながら、僕の顔を見ている。

ちょっと気恥ずかしい・・・。


「さぁ、行ってっ!」

「えっ?」

「ごめんなさい。私が出来るのはここまで・・・。一緒に行ってあげたいけど、やり残したことがあるの。」

「・・・?」


その理由が、僕には分かってしまった・・・。

香織さんは、僕がいなくなった事に対する責任を一人で負うつもりなのだ。


「まさか・・・、後に残って、僕のことについて責任を取るつもりですか・・・。」

「バカねっ!子どもがそんなこと考えちゃ駄目よっ!」

「香織さんも子どもでは・・・。」

「二十歳を超えたら大人なのよ?そんなことも知らないのねっ!」

「そ、そうなんですか・・・。」


はしゃぐ香織さんとは対照的に僕は少し涙した。


「さあ、これを持って行ってっ!」

「えっ?これは・・・。」

「餞別ってやつよっ。」

「だ、駄目です。お金なんて受け取れませんっ!」

「何を言っているのっ!ここから離れる必要があるわっ!」

「・・・。」

「この先に、電車が走っている。朝、電車が動くまで、出来るだけ歩いて、そして、電車が動いたらここに行くのよ。」


香織さんは、住所が記載してある紙を渡してくれた。


「は、はい・・・。」

「か、香織さん・・・。あ、ありがとう・・・。」

「良いのよ・・・。」

「ありがとう、ありがとう・・・。こんな僕を助けてくれて・・・。」

「バカね・・・、バカね・・・、良いのよっ!もうっ!」

「ありがとう・・・、ありがとう・・・、ありがと・・・う・・・。」


いつまでも僕はありがとうを繰り返す・・・。


「さぁ、行きなさい・・・。ごめんね・・・。ここまでで・・・。」

「いえ、大丈夫です。何とかしてみせます。」

「力強いっ!男の子ねっ!力を使っちゃったけど、最後もかっこよかったわっ!」

「はい・・・。」

「バカね・・・。泣いちゃだめよ。」


香織さんも涙を流していた。

そして、もう一度、僕を抱きしめてくれた。

その温かさとやさしさと、柔らかさは、僕を包み込んでくれた。

唯一の味方であった香織さん・・・、香織さん、香織さん、香織さん・・・。


「さぁっ!頑張りなさいっ!!」

「はいっ!!」


さみしそうに手を振る香織さんを見つめながら、僕は一人旅立った。

空には僕の病室から見えた星が輝いている。

だけど、その輝きは絶望の輝きとは違う。

それは希望の輝きだと思った。

少し肌寒い。

だけど、心は軽く、温かい。

僕は旅立った。


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