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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第11重力子 「コドクナソラヘノタビダチ」
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香織さん

精神科病院に無理矢理入院させられた池上であった。

そこは、刑務所以上に自由を奪われる場所だった。

ただ、そんな不自由な暮らしの中だったが、彼にも優しい光が差し込まれる・・・。

精神科の入院生活は刑務所のようだった。

いや・・・、刑務所の方がまだ良いのでは無いだろうか・・・。

狭い病室に押し込められ、自由などほとんど無い。

定期的の飲まされる薬は、意思すら薄弱にさせられる。

正直、この時、自分は何を考えていたのか覚えていない・・・。


「ぼ、僕は正常ですっ!く、薬は飲まなくても大丈夫です・・・。」


そんな訴えはむなしいだけだった。

身体を押さえ込まれて、無理矢理薬を飲まされる。

飲まされた後は、頭がボーッとして何も考えられなくなる。


結局、ここでも僕が意識が無くなっている時は、周りの椅子や机が浮いて僕の周りを回ることがあるようだった。

自分では信じられない事実だったが、動画を見せられて愕然とする。

自分が映っているのだが、何か上の空で、笑いながら椅子や机を飛ばしているようにも見える。


「良信君、これでは薬を切らすことが出来ない・・・。」

「・・・。」


病院としては、こんな訳の分からない人間を放っておくことは出来ない。

理屈では分かっている。

だけど、これは・・・ただの・・・拷問でしかない・・・。

僕は絶望の淵に落とされていた。


そんな日々がどれぐらい続いたのだろうか・・・。

今日は何月何日なんだろうか・・・。

もはや考えたくもない・・・。


-----


「良信君・・・。」


「良信君・・・?」


小さな声が聞こえた。

それは、霊体でもない、病室の外から聞こえる女性の声だった。


「こんにちは。良信君。」

「・・・は、はい?」


女性の看護師は今までいなかったので新鮮だった。


「良信君、少し外に出てみる?」


彼女は僕を外に出してくれるということだった。


「は、はい。」

「私は、洗足 香織というの。大学生よ。今日は私が先生にお願いして外に出す許可をもらったのよ。」


彼女は、精神科で勉強している大学生で研修のためにこの病院にいるとのことだった。

洗足さんは、僕を見てあまりにも不憫に思い声をかけてくれたのだった。


「は、はい・・・。でも、自分でもどうなるか分からない状態です。ご迷惑をおかけしてしまうかも・・・。」

「気にしすぎよ。さあっ!」


久々に外、といっても病院の中庭だったが、そこに出た僕はその澄んだ空気に心が震えた。

小鳥のさえずり、土の香り、草花の匂い、全て何故か懐かしく感じた。


「せ、洗足さん、あ、ありがとうございます。」

「うん?何で?」

「そ、外に出るのは久々で・・・。その・・・、世界はとても綺麗なんですね・・・。」

「あら、素敵な気づきね、良信君。」

「は、はい。」

「あ、そうそう、下の名前で呼んじゃって・・・、少し図々しいかしら・・・。」

「い、いえ、そんなことは・・・。」

「良信君も、私を下の名前で呼んでも良いのよ。」

「え、えぇ・・・。か、か、か、香織さん・・・、ありがとうございます。」

「ふふっ。どういたしましてっ!」

「僕は・・・、その異常な人間だから、周りに迷惑ばかりかけてしまうから・・・。」

「うん?でも、良信君は、周りのことを気遣う事が出来てるじゃない。それだけでも、十分普通の人間よ。」

「ふ、普通・・・、普通ですか・・・?ぼ、僕は、普通ですか・・・?」


僕は普通の人間と言われて、涙が出てしまった。


「普通に決まっているじゃないっ!!!」

「あぁ・・・。」


香織さんの何気ない言葉・・・。


「自分は駄目な人間です。親にも、友達にも見捨てられた人間であるのに・・・。」

「もう、バカバカバカッ!見捨てられていい人間なんてどこにもいないのよっ!」


全てが自分の存在を否定しているように感じていたのに・・・。

香織さんは、それなのに、香織さんは何もかも許してくれた・・・。

その限りない優しさに、僕は涙を流さざるを得なかった・・・。


「か、香織さん、あ、あなたは・・・。」

「うん?どうしたの?」


彼女は頭の後ろから光が差していた。

こんな人を見るのは初めてだった・・・。

重なって見える女性の姿も見える。

その姿は、白い巫女のような服を着た髪の短い女性。

こちらを見て微笑んでいた。



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