ダークマター
愛那を信じることが出来た永原だったが、彼の周りには暗闇がいつの間にか立ちこめていた・・・。
永原は、愛那を信じることが出来た。
二人が抱き合う姿を見ていた僕らは、優しい気持ちになっていた。
しかし・・・、何だろう・・・、僕は、何か恐ろしい予感がした。
そして急に寒気に襲われ、身震いした・・・。
「だ、駄目じゃないか、永原君・・・。何で良心に目覚めちゃったりするのさ・・・。
僕に散々、酷いことを言ったのに・・・。ブツブツ・・・。」
この声は・・・、戸越っ!
戸越の声は、永原の口を通して聞こえていた・・・。
「と、戸越、お、お前・・・。くっ、身体が動かない・・・。」
「絶望しきったお前なら操りやすかったが、愛那が原因で良心が芽生えやがってっ!!!
愛那ぁぁぁぁっ!お前、散々と邪魔をしやがったなぁぁぁぁ!」
べ、別の声・・・?
その新しい声は、どす黒く、全てを否定するような声だった。
僕には、永原の周りに、戸越の姿と、複数の人間の顔が見えていた・・・。
い、いや、あれは人間じゃない。
それは例えるなら・・・、まさに悪魔としか、言いようがない。
黒い顔に羊の顔つき、そして、丸く曲がった角・・・。
目が赤く鼻が酷く曲がった魔女のようなものもいる・・・。
血のような顔に鬼のような角が生えているものもいる・・・。
「愛那ぁ、自殺まで追い込んだのに、早々に戻ってきやがって、あげく、俺達の邪魔をするとはっ!」
「永原くぅ~ん、もう少し俺の操り人形になれってよぉ~。」
「役立たずのくそ人間がっ!」
「善人面すんじゃねぇっ!」
悪魔達は、罵詈雑言を言いまくっている・・・。
愛那は毅然とした態度で自分の兄を励ました。
「お、お兄ちゃんっ!!駄目よっ!負けちゃ駄目っ!」
「だ、だが・・・、あ、愛那・・・、に、逃げ・・・ろ・・・。」
「いやっ!私はお兄ちゃんを助けるのっ!!!」
戸越と悪魔達は、永原の身体を操っている。
永原がもがいているのが分かるが、うまく身体を動かすことが出来ない。
僕の力では永原の身体を傷つけてしまう・・・、どうすれば・・・。
「永原君、君の身体・・・、そうか、すでに君も、ヘッドギアの生け贄になっていたんだね。
どおりで操りやすいはずだ。いつ身体を失っていたんだい?・・・まぁ、どうでも良いことか。」
「戸越、止めろ・・・。」
「そう、それ・・・。年上の人を呼び捨てにするのが・・・、すごく・・・、すごくねぇ・・・、ムカつくんだよっ!!!」
<<DARK MATTER!!!>>
永原を通して発せられたヘッドギアの力によって、辺り一面暗黒に染まる。
「・・・!」
「とっきょ、ユウ、み、みんな・・・?」
みんなが闇に包まれて、遠くに消えて行ってしまう・・・。
「やだやだやだ~~~っ!」
「み、見えない壁があって、ここにいられない・・・。い、池上君、気をつけ・・・」
「なんだいこれは・・・く・・・」
「消えちゃうよぉ~、お兄ちゃ・・・」
「い、池上さん、池上さ・・・」
永原を中心にして、広がった闇は、徐々に消えていく。
そして、僕と永原だけしかいなかった。
「み、みんな消えてしまった・・・?ど、どこに・・・?」
「さぁね。みんな、どこに行ったのやら。ブツブツ・・・。」
「と、戸越っ!お前は飛ばされなかったのか。一体、何をしたんだ・・・。」
「悪魔達も邪魔でしょうがなかった。やっぱり、この物質は霊体に影響があると思ったんだ。
存在は証明できても、造ることの出来ない暗黒の物質、ダークマターってやつさ。知っているだろう?」
「ダッ、ダークマター・・・。」
「ダークマターは、僕の仮説だけど、霊体と霊体達が作る空間をまとる事が出来る"膜"みたいな
ものなんじゃないかと考えたんだよ。数百億もある銀河系が分散されないようにしていて、さら
に太陽系のような空間もまとめる。そして、惑星にある霊界もまとめている物体ということ。
だから、霊体である彼らと波長の合わないダークマターであれば、ここにいられなくなる。
うん、仮説通りだった。ヘッドギアはすごいね、そうだろ?池上君。」
「お、お前・・・。」
「このダークマターが宇宙中に張り巡らされているということは、我々のような知的生命体が、
この宇宙空間に数え切れないぐらい存在するってことだよ。あぁ、ロマン溢れるじゃないか。」
「戸越、お前がみんなを吹き飛ばしてどうするつもりなんだっ!」
「・・・君もそう・・・。」
「・・・?」
「君も・・・、君も私のことを呼び捨てにするのがねぇ・・・、許せないんだよっ!!!」
「か、身体から、出ろ・・・よ・・・。」
「永原君は飛ばなかったようだね・・・。仕方ないか、うっすらとつながっているとはいえ、身体があったから。」
「く、くそ・・・。」
「大体、君では池上君を殺すこと何て出来やしなかったのさ。僕みたいに"実績"がないからね・・・。ククク・・・。」
「い、池上何とかしろよ・・・。」
「そうそう、池上君、君についてだが、あの悪魔達の立ち振る舞いで若い頃は苦労したみたいだね。」
「・・・。」
「気づいていなかったのかい?」
「・・・気づいていたよ。だけど、僕ではどうしようもなかった・・・。」
「まあ、子どもでは、何も出来ないものね。」
「思い出したくない・・・、止めてくれ・・・。」
「君は幼少時に親から酷く虐待を受けていた。そうだね?」
「・・・。」
「止めろ・・・。」
「君は、それが原因で、解離性同一性障害になってしまったね。」
「や、止めろ・・・。」
「解離性同一性障害とは良い名前だ。クククッ、昔の私だったら、ただの精神疾患だと思っただろう。
だが、死んでみて分かったよ。」
「・・・。」
「この世界にいる人間が分かりやすいように名前を付けた病気だ。実態は、そうさ。憑依さ。死んだ霊達のね。」
「・・・・。」
「死んだ霊が多数取り憑いて、入れ替わり、立ち替わりで、話しをする。これはまさに多重人格症状じゃないか。
笑えるよ。これは、君には何体付いていたんだい?ククク・・・・。」
「そ、そんなの・・・分からない・・・。」
「本体である魂が周りから精神的な攻撃を受けて、耐えられなくなり、内側にこもる。そして、その身体を他の霊達が使う。
実に分かりやすい。だけど、魂を証明できない精神学者達は、本人が知らないようなことを話す"人達"から目をそらして、
本人が人物を作り上げたとする。もう少し魂って奴を勉強する必要があるね。科学者達は。私もかつてはそうだったから、
同じようなものかもしれないがね。」
「・・・。」
「君は元々、憑依体質って言えば良いのかな、とにかく憑かれやすいってことだ。簡単に精神崩壊しちゃったみたいじゃ
ないか。」
「・・・はぁ、はぁ・・・。」
「しかし、どうやって他の霊体を追い出したのやら。それに、どうやって大学まで入ったのか。君は大したもんだよ。」
ぼ、僕は意識を失いそうになった。
断片的な記憶から、恐ろしさに震えた過去を思い出した・・・。