彷徨う小さな仔羊
退屈な事務仕事を日々こなす女性。
寂しさの果てに何が見つかったのか・・・。
会社でパソコンを操作する日々。
事務職なんてこんなものかしら。
毎日同じ事の繰り返し。
つまらないわ。
上司は中年男性で、時々胸とか足を見てるし・・・。
もうっ、スケベハゲ親父っ!!
気持ち悪いっ!!
そして家に帰ると一人きり・・・。
「ただいま~っ・・・。」
もちろん何も返ってこない・・・。
「全自動洗濯機は一人暮らしの味方だよね。」
と、独り言を言いながら朝入れた洗濯物を取り出してっと。
一応、自炊はしているんだから。
料理は何かを紛らわしてくれるんだもの。
何を・・・?
何を紛らわしてくれるというの・・・?
ご飯に味噌汁、今日は魚料理!
食事が終わったら、明日の天気も見ないと。
雲の流れって見てると楽しい。
我ながら変な趣味だよね。
う~んと、軽くヨガでもやってみるか~っ。
汗もかいたからお風呂に入ろっと。
さて寝るかな・・・。
・・・暗い部屋。
・・・静かすぎる部屋。
・・・何も無い部屋。
・・・何も無いから天井。
・・・そんなマンションの一室だけど
「うっく・・・、うう・・・。うっぅ・・・。」
何か突然涙がこみ上げてくる。
さみしくなんか無いっ!
さみしくなんか無いっ!
そう思い込んでいる・・・。
「う、、うぅぅ・・・。」
いつの間にか眠っていた・・・。
今日は家に帰る途中で一人で飲めるような居酒屋に行ってみた。
そこで知り合った身も知らない男性。
気づいたら、一緒に寝ていた。
どこかむなしさもあったが、心を埋めるには十分だった。
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「ねぇ?いつ結婚してくれるの?」
数ヶ月が経った後だった。
分かっていた。
結婚して子供もいることも・・・。
分かっていたけど、ついに切り出した。
「ああ、いつかな。」
白地しい言葉・・・。
これも分かっていた。
嘘だってこと・・・。
「約束よ・・・。」
そう言うと、肩にもたれてキスをせがんでいた。
数年経つと、連絡もくれなくなっていた。
こっちからはメールもしてやらないんだから・・・。
でも、どこか期待している・・・。
「う・・・、うぅぅぅ・・・。」
涙が止まらない。
何で・・・。
何で泣くの・・・私・・・。
分かっていたことでしょ?
あれ、何だろ。私ったら。
いつの間にか、そう全ていつの間にか・・・。
何か自分から動いたことあったかしら・・・。
オフィスで知り合ったあの人に声をかけてみても良かったのでは・・・。
自分から何か仕事に提案しても良かったのでは・・・。
そんなことを思ったのは手首を切った後だった。
ごめんなさい、お父さん、お母さん・・・。
何をしてしまったのだろう・・・。
後悔の念が急にわき起こったが遅かった。
体が動かない。
そうよね・・・。
何てつまらない人生・・・。
別に私一人消えたって・・・。
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ん?
ドアをたたく音。
ガチャッ。
あれ、鍵が掛かっているから、入ってこられないはずなのに・・・。
「・・・さん?・・・さん?」
警察の人・・・。
「あぁ・・・。やはり仏さんに・・・。波多野さ~ん、こっち来て。」
「はいっ!」
「配属早々に申し訳ないね・・・。救急車を呼んでくれるかい?」
「かしこまりました。」
何を言っているの私は生きているわ。
あれ、手首を切っても死なないのね。
うーん、でも何でだろう、体が動かないなぁ・・・。
二人の警察官は外に行ってしまった。
「大家さん、申し上げにくいのですが・・・自殺されたようです。」
「何てことだ・・・。」
この人たち何を言っているの?
よく見たら、私の上司もいるじゃない。
「・・・くん。何か思い詰めていたのかい・・・。うぅぅ・・・。申し訳なかった・・・。気づいてやれなかった・・・。」
泣いているの?
変な人たち。
私は生きているのに。
体が動かないだけっ!
でも、裸なのは困ったなぁ・・・。
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診察台の上に寝かされた。
ちょ、ちょっと止めて!!何をするの!?
体が動かないからって何をするのっ!
「手首だけですね。出血多量による死亡ですね。」
「ああ、そう書いておいてくれ。」
「若いのに・・・。」
じろじろ私の体を見ないでよ!!
スケベっ!!
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お葬式、私のお葬式・・・?
お父さん、お母さん・・・。
すごく泣いている。
私は生きているのよ・・・?
ち、違うのかしら・・・。
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火葬場よね?ここ??
いや、ダメダメッ!!
焼かないでっ!!
私の体を焼かないでっ!!
生きているのにっ!!
何をするのっ!!
ああ、、あああ、熱い熱い 熱い 熱い !!
止めてっ~~~~~!!!!
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あ、あれ。私の部屋だわ。
死んでないじゃない。
焼かれていないじゃない。
なんだ気のせいね。
変な夢だったわ。
自分が死んじゃう夢だなんて。
あはは、変な夢。
うん、そうそう。
死んでいないからまた死ななくっちゃっ!
生きていても仕方ないものっ!
手首を切ってっとっ!
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あれ、死んでない??
おかしいな?
変だなあ・・。
うん?
あれ、誰この人たち?
私の部屋に勝手に入らないでよ!!
「さ、、寒気がするね。この部屋・・・。」
「うん、そうね・・・。どうするの?この部屋にするの?」
「日当たりは良いから大丈夫かな。ここにするね。お母さん。」
「うん、了解!一人暮らしだからってダラダラしたら駄目だからね!」
「は~い。」
もう、勝手に住むとか決めないでよ!
何なのこの人たち!
あ、そうだ。
手首を切らなくっちゃ・・・。
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居候の子、泣いているわ・・・。
そうか、この子もさみしいんだ。
大学で一人っきりなのね。
そうだ。一緒に手首を切ろうよ。
大丈夫、何もかも忘れちゃうから。
あれ、何で手首を切るんだっけ?
あれ、何でだっけ?
まあ、良いか。
ほ・ら・・・、い・しょ・に・・・。