忘れたい記憶
元気がなくなった愛那だったが、彼女が出した結論に、永原は衝撃を受ける・・・。
当時、中学校1年生だった愛那は学校でいじめられていたのだ。
それを知ったのは、俺が高校1年生の頃だった。
それは突然訪れた。
ある日の朝食の時に、愛那が部屋から出てこないから、母親から呼びに行けと命令された。
嫌々、愛那の部屋に行ったのを覚えている。
この時、いつも俺より早く起きている愛那が起きていない点が不思議だった。
そして、イヤな予感が的中する。
俺がノックしても出てこないから、部屋を開けたら愛那が首を吊っていたのだった。
呆然として、声も出ず、身体全体が痙攣したように震えた。
ただ、動かない愛那が、ごめんなさい、と言ったように聞こえた。
この後、自分がどう動いたか記憶が定かでは無い。
母親の話では、俺も戻ってこないから、迎えに行ったと言っていた。
俺は愛那を助けようと首つりで踏み台にした椅子を震えながら戻している最中だったらしい。
それを必死に止めようとしたけど、ふりほどいてでも何とか愛那を下ろそうとしたらしい。
息をすでにしていなかった愛那だったが、その身体はまだ生暖かかったのだけは覚えている。
だから、何とかすれば生き返るのでは無いかと必死だったのかもしれない。
結局、急いで救急車を呼んだが、病院では死亡したことを確認しただけだった。
俺は身体全身の力が抜けて、その場に倒れてしまった。
端から見れば絶望の目と悲しみの顔だったろう。
明るく、愛らしく、優しい愛那が家からいなくなってしまった。
全ての音が無くなったような家で、両親と俺は1ヶ月ぐらいは何も手に付かなかった。
静かに時計の針が鳴り響いているだけ。
遠くから聞こえる子どもの声が、むなしく響いていた。
しばらくして、遺品を整理する事になった。
愛那の部屋は、まだシャンプーの匂いがしていた。
それは存在していないものを存在せしめていて、振り向くと愛那が話しかけてくるような気がした。
俺は、また身体が震えて、頭もおかしくなりそうだった。
部屋を整理していると、俺は愛那の机の中から遺書を見つけた。
遺書にはこう書いてあった。
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、ごめんなさい。
学校に行く勇気がなくなっちゃった。
色々な人からのいじめに負けてしまった。
私がいなくても泣かないで下さい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」
その遺書の最後の文字は、かすれ、そして、濡れて乾いた跡が残っていた・・・。
お前は、泣きながらこんな文章を書いたというのか・・・?
それに、何で・・・、何で・・・、お前が謝るんだよ・・・。
お前は何も悪くないのに・・・。
遺書のかすれた文字のあと、何かを消した後があった。
これは、人の名前?
いじめた奴の名前だと分かった。
愛那は名前を書いたが、それを消していたのだ。
俺はすぐに両親に話した。
ここから、俺と両親との戦いが始まる。