愛しの妹よ
永原と妹の愛那との思い出。
久々に愛那の顔を見た永原は、彼女との思い出を振り返る。
そして、忘れたい記憶も思い出も・・・。
愛那は、俺に懐いている可愛い妹だった。
いつも唐突に俺に部屋に入ってきては、一方的に話してくる。
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「お兄ちゃん、また勉強しているの?」
「ああ、そうだよ。何か用なのか?」
「お母さんに教えてもらってクッキー作ったの。食べてっ!」
「うん?何だよ。しょうがないな。紅茶も入れてきたのか・・・。」
「そうよっ!ねぇねぇ、今日学校でね・・・。」
「ああ、また、ねぇねぇが始まった・・・。」
「う~ん、もう、聞いてよっ、お兄ちゃんっ!」
「分かった、分かった。」
「愛那のねぇねぇ攻撃から逃れるすべは無いのよっ!」
愛那の言う、ねぇねぇ攻撃は、隣に住んでいた舞ちゃんから受け継がれたと言っていた。
俺はこの攻撃に対抗するすべを持っていないのかもしれない。
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「ねぇねぇ、お兄ちゃん。明日暇?」
「予習が終われば、暇だよ。」
「勉強熱心だなぁ。感心感心。」
「何だよ、偉そうに。」
「お洋服を買いに行きたいの。連れてってっ!」
「どっちが連れて行くんだよ・・・。まあ、良いか。昼過ぎからだからな。」
「うんっ!お兄ちゃんが、私の服を選ぶのよっ!」
「はぁ?何でだよ・・・。自分で選べって。」
「いやっ!ちゃんと選んでねっ!」
「もう、面倒くさいなぁ。」
「愛那は面倒くさい女なのですっ!」
「おいおい、彼氏が出来ても同じ事言うなよ?」
「愛那は彼氏を作らないから大丈夫ですっ!」
「そんなわけないだろ・・・。」
「お兄ちゃんが、彼氏なのです。」
「バ、バカ・・・、何を言って・・・。お、おい、くっつくなって・・・。」
結局、愛那が服を選ぶ、俺がそれを、うん、と言えば買う。
そんな買い物だった。
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「ねぇねぇ、お兄ちゃんは何で部活入らないの?」
「部活動なんてやっていられるかよ。俺はやりたいことがあるんだって。」
「へえ~、どんなことなの?」
「俺は世の中のためになる発明をするんだよ。そのために科学を勉強しなくちゃならないの。」
「科学かぁ、かっこいいっ!さすがお兄ちゃんっ!科学者だね。そうだ、私をサポートするっ!」
「サポートって、よくそんな言葉知ってるな・・・。」
「そうよ。だって、もうすぐ中学生だもんっ!え~っと、そうだ。科学者の助手ってやつね。」
「助手か。そりゃ、頼もしい。」
「そうでしょっ!だから、またクッキーとお茶を作ってくるねっ!」
「ああ、ありがとよ。」
「あっ!お兄ちゃん、今笑ったでしょっ!?」
「そんなこと無いって。」
「また、笑ったっ!も~っ!信じていないなっ!」
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「ねぇねぇ、お兄ちゃん。見てみてっ!」
「あぁ、中学校の制服か。」
「えぇ~、それだけ?」
「ううん?」
「それだけ~っ?」
「う、うん・・・。か、可愛いよ、似合ってるって・・・。」
「もう、目をそらしているぅ~。」
「う、うん・・・。これから成長するから、大きめの制服なんだな。」
「そうよ~。これから愛那は綺麗な女の子になるのですっ!」
「あはは。」
「何が、あははよ~。でも、お兄ちゃんと同じ中学校に入れて良かったぁ!」
「頑張って勉強していたもんな。」
「そうだよ~。愛那は偉いのだ~。」
「偉い、偉い。」
「えへへ。学校行くの、楽しみだなぁ!」
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そんな愛那だったが、中学に入ると徐々に元気がなくなっていった・・・。
「お、おい、愛那?」
「・・・。」
「お、おい?」
「・・・あ、お兄ちゃん・・・。」
ある日、声をかけてみたが、周りの声が聞こえていないようだった。
「何か元気ないな・・・。どうしたんだ?中学で何かあったのか?」
「な、何も無いよ・・・。何も・・・。だ、大丈夫・・・。何も問題無しっ!」
俺は気丈に振る舞っているのに気づいたのだが、何が起こっているのか分かってやれなかった。
この時、気づいていれば・・・。