良子の場合
両親の自己のせいで生まれることが出来なくなってしまった、りょう。
彼女が考えてた苦肉の策とは・・・。
私は生まれてくる予定だったけど、お母様が事故に遭われたため、生まれることが出来なくなってしまった・・・。
生まれる前の赤ん坊になる時の全てを忘れてしまう直前だったから、何とか記憶を止めておくことが出来たのは不幸中の幸い。
もし、あそこで生まれていたら、幼い姿のままで彷徨ってしまうところだったのかも。
そう・・・、生まれる直前で亡くなってしまう赤ん坊が、賽の河原で彷徨ってしまうように・・・。
お母様はあれ以来、子どもを作るのを怖がってしまっていて、生まれる可能性がなくなってしまったみたい・・・。
他の人を伝って、生まれることが出来ないか考えてみたけど、自分は知り合いが少なすぎてそれも無理・・・。
「縁が無いと、お願いも出来ない・・・、にゃ。シクシク・・・。」
だから、私は池上様のおそばに霊体のままでいることにした。
これじゃあ、とりついているみたいだけで、いけないことかしら・・・。
それに、少しわがまま・・・?
で、でも、私は池上様をお手伝いするのっ!
お手伝いといっても、う~んって、おそばで助けになるような思いを念じるだけ。
たまに池上様が、ひらめいたようなときは、大成功っ!
そんな小さなお手伝い。
今世の池上様は何てかわいそうな人生なのかしら・・・。
私は、おそばでソワソワしてばかり・・・、慰めてあげることも出来ない、にゃ・・・。
だけど、大学の研究室に入ると、お友達もたくさん出来て少し元気が出たみたいっ!
私も、とても嬉しかったっ!
でもでも、やっぱり直接お目にかかりたい・・・。
私に気づいて欲しい・・・。
私を見て欲しい・・・。
お、お手に触れたい・・・。
(カァ~~~。)
何て事を考えているのかしら・・・。
でもでも・・・。
そんな、はしたないことを考えていたら、研究室の戸越助教授という人が色々な人達を"産んでいる"事に気づいた。
死んでしまった人達が肉体を持って生まれている。
もしかしたら、私も・・・生まれることが出来るかも?
これもわがままかしら・・・。
でも、お目にかかることが出来るなら・・・。
でもでも・・・。
そうよ、何も出来なかった前世を反省して、少しだけ勇気を出すのよ、にゃっ!
私は頑張って、戸越助教授にお願いに上がるっ!
う~ん、だけど、だけど、やっぱり怖い・・・、にゃ・・・。
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私がヘッドギアで実験している際、何故か思考に語りかけてくるような事があった。
こんな事は初めてだ。
こういうのをテレパシーとでも言うのだろうか。
その人はこういった。
<お願いがございます・・・。>
私は目をつぶってこのメッセージを無視するようにしていた。
<お願いがございます・・・。私を産んで下さいませ・・・。>
「産む?イマージュとして?・・・何を言っているんだ?」
<私はりょうと申します。お願いでございます。私を産んで下さいませ・・・。>
「あ、あり得ない・・・。誰なんだ・・・。」
<私はりょう・・・。お願いでございます・・・。>
「・・・ああ、もうっ!分かったよっ!」
あまりにもこんな事が続くので、たまらなくなって、了解してしまった。
私は適当に手前にあった本を媒体とした。
いつものように光に包まれて女性が生まれる。
腰まであるような、とても髪の長い女性だ。
私は、その綺麗な黒髪にじっと見入ってしまった。
そしてとても綺麗な白い肌。
「あ、ああ、しまった・・・。」
思わず、じっと見つめてしまった・・・。
「あ、ありがとうございましたっ!戸越様。ありがとうございました。ううう・・・。」
「き、君も泣いているのかい?もう、どの子も泣いて生まれる・・・。赤ん坊と同じなのかなあ・・・。ブツブツ・・・。」
「嬉しいです。私は今世、とても生まれたかったのですが、それもかなわず・・・。」
「う、うん?はぁ、今世?生まれたかった?みんな分からないこと言うなぁ。それより、ふ、服を・・・。」
「(カァ~~~。)わ、私としたら、ははは、はしたない・・・。」
私は女性の服をイメージした。
これぐらいの服はイメージできるようになっていた。
紺色のフレアスカートに、白のシャツ、こんなもので良いだろう。
少しネットで画像検索をして覚えておいたのだ。
我ながら自信作。
し、しかし、下着は未だ作れない・・・。
「み、み、み、短すぎます・・・、にゃ。」
「えっ?えっ?(にゃ?)」
「あ、あの、その、ス、スカート?でしたっけ?こ、これは・・・。」
「ええ・・・。これじゃ駄目かい・・・?」
「こんなに足を出すなんて・・・、は、恥ずかしい・・・。」
「えぇ、これぐらいの長さは普通だと思っていたよ・・・。若い男の子は、短いスカートの方が好きだよ?」
「え、え、えっ?そ、そ、そうなんですかっ!!(い、池上様も、もしかしたら?!)」
とても綺麗な足をしているんだが、何で駄目なんだ・・・。
分からない・・・。
「き、君の名前は良子で良いんだね?」
「あ、は、はい。(りょうって言っていたんだけど・・・。)」
「何故、そんなに生まれたかったんだい?」
「ええ、とてもお目にかかりたくて・・・、その・・・。」
「誰に?」
「そ、その・・・、えっと・・・。恥ずかしくて・・・。」
まさか、この僕か?!
僕は今モテ期ってやつなんだ、きっとそうに違いないっ!
しずく(シャーレ)は、もちろんだが、ユウもあんなに貢献してくれているし。
「いや、私は彼女もいるしだね・・・。」
「はい?」
「えっ?」
「いえ、そのどういう意味でしょう・・・。」
「あ、いや、その・・・。何て言うか・・・。だから、誰に会いたいのか・・・、その・・・。」
「け、研究室にいらっしゃる、い、池上様・・・です、にゃ。」
「い、池上君?何で彼を知っているんだい?」
くっ・・・。
「ぜ、前世でその・・・。お世話になりまして・・・。」
「は?前世?」
「えっ、いえ、気になさらないでくださいませ・・・。」
は、恥ずかしい・・・。
池上君か・・・、何で彼を知っているんだろう・・・。
「まあ、良いか。でも、会いたいと言われてもなぁ。どう紹介するかなぁ・・・。難しいなぁ・・・。」
「あ、あのすぐではなくて良いので・・・。」
「うん、まあ、分かったよ。私のいとこの友達とか何とかってことにするかなぁ。」
「はっ、はいっ!!ううう・・・。」
「はぁ・・・、また、泣いてしまったよ・・・。ブツブツ・・・。」
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私は生まれることの出来た喜びと池上様にお目にかかれる喜びで満ちあふれていた。
だから頑張って、他のイマージュ先輩達と仲良くしたり、家事をお手伝いすることにしたわ。
「りょうさんが来てくれてから、お料理や洗濯にお掃除ととても助かるわ。他の子達は何も出来ないんだもの・・・。」
「私もユウ姉様のお手伝いが出来て嬉しいです。」
「(うっとり。)そ、そう?良い子ねぇ。」
とっきょさんは最初苦手だった。
「とっきょ先輩、またお掃除していないと、ユウ姉様に怒られてしまいますよ・・・。」
「う、うるさいなぁ・・・。後でやるよぅ・・・。もう、お母さんみたいっ!やだやだやだ~っ!」
「す、すいません・・・。出しゃばってしまって・・・。」
少しがさつなところがあるみたいで、結局私が掃除してしまうの。
でも、お掃除は好きだから、あまり苦に思わなかったわ。
そして、年齢?も近いから、だんだんとお友達みたいになっていったの。
お買い物は、ユウ姉様のご指示で、二人で行くことが多かったわ。
だから、自然とお話しすることが多くなったの。
しばらく、一緒に買い物していたけど、近くのスーパーまで、5Kmぐらいあって、徒歩でも1時間以上・・・。
往復で2時間は骨の折れる道のり・・・。
とっきょさんは、時計の針で飛ぶことも出来るけど、他人に見つかるから駄目だって、戸越先生にきつく言われていた。
私はお空飛べないし・・・。
二人でうんざりしていた時、突然、とっきょさんが、戸越先生に直訴したの、す、すごいっ!
「戸越先生っ!」
「うん?なんだい、とっきょ?」
「自転車を買ってくださいっ!に~だ~いっ!二台っ!」
「自転車だって?必要なの?」
「先生はお車であっという間だけど、私たちは歩いてお買い物に行ってるのぉっ!往復で二時間もかかるのぉ~~!」
「えっ?ああ、そうだったのか・・・。それはすまなかった。よし、自転車を作ってみようっ!」
「おうっ!良いぞぉ~。」
こんな時の、とっきょさんは、とても勇ましいっ!
とても頼りになる先輩っ!
「あ、ありがとうございました。とっきょ先輩。」
「やだやだやだっ、だって、私も疲れちゃうもんっ!」
「で、でも、私はこういったことを言いにくくて・・・。」
「気にするでないぞ。というか、とっきょでいいよぉ。同じぐらいの歳だもんね、たぶん。」
「そ、そうですね。と、と、とっきょさん・・・。」
「いひひ~、良いねぇ、良いぞぉ~。"さん"も、そのうち無くして良いからね~。」
「は、はい。いえ、うんっ!」
「私は、りょうちゃんって呼ぶね。」
「う、うんっ!」
しかし、戸越先生の作った自転車は酷いものだった。
「えぇ~~、これぇ~~?」
「えっ?こ、これじゃ駄目かい?」
「これ子ども向けじゃ~~んっ!補助輪付いているぞ・・・。」
「そ、そうだよな・・・。よ、よし、次だ。」
「ま、またぁ~・・・。戸越くん、これは、ロードバイクってやつでは・・・。」
「えっ?これも駄目?(戸越くんって・・・。)」
「イメージが下手くそだぞぉ、まったくぅ。」
「う~ん、駄目だ・・・。もう買ってきて良いよ・・・。」
「やったぁ~~!明日買いに行こうっ、りょうちゃんっ!」
「はいっ!楽しみですっ!」
こうして、普通のママチャリってのを買って意気揚々とペンションに帰った。
「うっひゃ~~、楽ちんだぁ~~っ!」
「楽ちんですねっ!」
「あはははっ!」
「うふふふっ!」
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ある日、いつものスーパーで買い物をした帰り、ちょっとサボって(!)二人でお茶を楽しんでいた時。
「そうだ、私の本当の名前、蓮沼 時子って言うんだよ。」
「えっ?そうなんですか?」
「うん、先生は名前を勘違いしているし、死んだときのこと話しても信じてくれないし、もういいやって。」
「それじゃ、時子さんですね。」
「う~ん、でも、とっきょで良いよ。可愛いし、気に入っているのだ。」
「そうですね、可愛いお名前ですっ!」
「うんっ!りょうちゃんは?」
「私の本名は、菅原 りょう と言います。でも、前世で本名で呼ばれることも無かったから・・・。
本名を名乗ったのは、数百年ぶりかもです・・・。」
「ふ~ん、じゃあ、何て呼ばれていたの?」
「式部大輔の姫君」
「ぷっ!お姫様!?ぷぷぷっ、あははっ!ケラケラケラッ!」
「ひ、姫と言っても、お城などのお姫様ではなくて・・・、そ、そんなに笑わないでくださいっ!」
「だってぇ~っ!ケラケラケラッ!」
「お父様からは、りょうって呼ばれていましたからっ!」
「わ、分かったってぇ~、怒らないでよぉ~~。ぷぷっ。」
「もうっ!」
そんな会話を楽しんでいた。
「えっ?池上さんって人に会いたいから生まれたの?」
「はい、そうですよ。前世で病気を治していただきました。」
「ふ~ん、すごいなあ。ず~っと、思っているんだねぇ~。」
「うん、そうなんです。とても優しい人なんですっ!」
「はぁ~、恋する乙女は可愛いのだなぁ~。」
「とっきょさんだっていずれはっ!」
「とっきょには、未だよく分からないぜぇ~。」
「ふふふ・・・。あっ、池上様は駄目ですからねっ!」
「う~ん、それはどうかなぁ~!」
「だ、駄目ですっ!」
「あはははっ!」
「うふふふっ!」
性格は全く違うけど、話しやすいし、とても楽しい。
お友達が出来てとても嬉しかった。
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だけど、しばらくすると、色々な事件が起こって、私たちは池上様と敵対することになってしまう・・・。
とっきょさんや、ユウ姉様、シャーレさんや、やまいちゃんまで、消えてしまった事は、とてもショックだった。
「少し君にも手伝ってもらうよ・・・。」
「は、はい・・・。」
戸越先生からのお願いで、池上様に会って、戦って欲しいという・・・。
「た、戦うのですか・・・?」
戸越先生は、私が戦えるような人間ではないとお分かりになっているから、池上様を調べるのを手伝うというのが、目的だった。
池上様を調べるために、イマージュの力を使って欲しいということ・・・。
そんなの、いや・・・、池上様と戦うなんて・・・。
私は、池上様と戦わなければならなくなったということや、
家族のようになったみんなを失った悲しみや、お友達を失った悲しみで複雑な心境になっていた。
「わ、私はどうしたら良いの・・・、シクシク・・・。」
どうして良いか分からない苦しみ、悲しみで、部屋で泣いていることしか出来ない・・・。
「やっと生まれることが出来たのに・・・。やっとお友達も出来たのに・・・、
いつの間にか、私・・・、独りぼっち・・・。さみしいよ、とっきょさん、とっきょさん・・・。」
「な~~にぃ~~~?」
「!」
「何だよぅ~っ、泣き虫の姫君ぃ~っ!私を呼んだでしょっ!」
「えっ?!えっ?!と、とっきょさんっ!?」
「おうっ!」
「おうって、とっきょさん、消えてしまったって・・・。」
「そうだよぉ~~。そうなんだよぉ~~、でも、ほら、元気でしょっ?」
紛れもないとっきょさん、だけど、半透明で後ろが見えている。
それに、時計の針も、時計のベルも無くなっている・・・。
「げ、元気?うん、でも良かった・・・、ううう・・・。」
「うむ、うむ。でも、泣くでないぞぉ~。とっきょは無事、成仏しただけなのだっ!」
「じょ、成仏ですか?!」
「そうなのだぁっ!りょうちゃんの憧れの先輩である、池上さんに成仏させてもらったのだよっ!」
「憧れの先輩ではありませんが・・・、その・・・、池上様に助けてもらったということですか?」
「そうそうっ!いやぁ、かっこ良いねぇ、池上さんは。はぁ、恋してしまったかもっ!」
「だ、駄目ですよっ!じゃ、なくてっ!良かったっ!!!」
「うんっ!私だけじゃ無くて他のみんなも同じだから、心配しないでっ!」
「そ、そうでしたかっ!よ、良かった・・・、ううう・・・。」
「ほらほら、もう、すぐ泣いちゃうんだからぁっ!やだやだやだ~~~っ、私もちょっと泣いちゃうじゃないかぁ・・・、グスッ・・・。」
「うふふふ・・・。」
「あははは・・・。」
「りょうちゃん、だから、憧れの先輩に会うのを君も楽しみで行くがよいぞっ!」
「う、うんっ!先輩じゃないけど・・・。」
「うんじゃぁ、またねっ!そして、後で会うかも?っと、意味深なことを言うとっきょであったぁっ!」
「はいっ!とっきょちゃん、またっ!」
「おっ、とっきょ"ちゃん"だってっ!」
「えっ?嬉しくて、ついっ!」
「あはははっ!」
「うふふふっ!」
とっきょちゃんは、いつもの笑顔で手を振りながら消えていってしまった。
とても安心した私は、明日、やっとお目にかかれる池上様のことでいっぱいになって、お布団の中にくるまっていた。
「や、やったぁっ!でも、ドキドキ・・・、にゃ・・・。ZZZ・・・。」