やまいの場合
不良少女やまいちゃんが、手に負えない、若き物理学者。
計算づくしの彼の生活に、計算できない何かが生まれる・・・。
この研究室は、戸越のペンションからは離れている。
俺は一人が好きなのか、戸越に別室を用意させたのだ。
研究のためならということで、快く用意してくれた。
やつは、本当に金持ちだ。
だた、この研究室は、乾燥しているためか、俺はひどく咳き込んでしまった。
その時、幼い頃に身体が弱くて死んでしまった友達の女の子を思い出してしまった。
あまりにも小さい頃のことで病弱だった子、そんなことしか覚えていなかったのだが・・・。
そして、ヘッドギアを付けている最中だったのがまずかった。
つまり、勝手にイマージュが生まれてしまったのだ。
しまったと思った瞬間に、光が輝いて小さな女の子が生まれてしまった。
「ふにゃぁ・・・。ゴホッゴホッ・・・。」
お、俺は、一体何を媒体したんだ?
こいつ、いきなり咳き込んでいるが、病気なのか?
それにしても、この子・・・、小学校の低学年ぐらいなんだろうか。
幼い顔つきに髪は肩より下まで伸びている。
生まれてくるイマージュ達は、年格好もバラバラだ。
性別も女性ばかりだが、これは俺達が女性を前提にイメージしているからだろう。
こいつは、媒体物が何なのか分からないからか、どんな合成状態なのか分からない。
「お、おい・・・。大丈夫か?名前は?」
「やまいは・・・、やまいは・・・。」
「お前・・・。やまいっていう名前なのか?変な名前だな・・・。」
「きからって・・・、だいじょうぶだよっ。ゴホッ。」
「木から?何が木なんだ?木が欲しいのか?外にたくさんあるぞ・・・。」
「えっ!ほんとう!?行きたいっ!」
「ああ、分かった。分かった。」
何か会話が成立していないような気もするが・・・。
それにしても、こんなに簡単に生命体が生まれてしまうとは。
光速思考中は、気をつけないといけない。
「あれ、でも変だな。わたしびょーいんでねていたんだけどなぁ・・・。」
「病院で寝ていた?」
「寝ていて、そしてそして、お父さんとかお母さんが泣いていて。
何で泣いているのって聞いたのに答えてくれなかった。
そしてそして、いつの間にかお父さんも、お母さんも来なくなって、私一人だけになったの。」
「何を言ってるのかさっぱり分からん・・・。」
「ふにゃ・・・。一人になったの・・・。さみしかったの・・・。」
「分かった、分かった。だが今はここに俺がいるだろう?」
「うんっ!」
俺は何で慰めている・・・?
「それに、お前は俺が光速思考で産んだんだぜ?」
「私を産んだ?お母さん?」
「はっ?!な、何言ってるんだ・・・。」
「お母さんなのに女じゃ無いよ・・・?」
俺は頭を抱えてしまった。
「ああ、もう。手に負えん・・・。戸越に早く預けたい・・・。」
「そうかっ!お父さんだっ!」
「お、お父さん・・・?!ああ、もう、兄貴で良いよ。兄貴で・・・。」
「アニキ?お兄ちゃんかっ!お兄ちゃんっ!!」
そう言うと、こいつは俺に抱きついてきた。
や、やめてくれ・・・。
「ああ、もう。分かった、分かった・・・。」
しかし、何だこの安心感は・・・。
面倒くさいと思いつつ、どこか安心感が生まれている・・・。
さっぱり分からない。
しかし、この子、どこかで会ったことがあるような・・・。
いや、そんなはずは無い。
イマージュとはいえ、どこにでもいるような子じゃないか。
「さ、寒いよぅ・・・。くしゅんっ、くしゅんっ。」
ああ、クシャミまでして・・・。
!?
お、おいおい・・・。
クシャミから異常に巨大な細胞物が生まれて俺の目の前でぐちゃぐちゃとうごめいている・・・。
「な、何だこれはっ!」
「クシャミから生まれたクシャミ君だっ!」
「はっ?得意げに指を指しているが、これが何だか分かっているのか?」
「ううん。わかんない。」
「はぁ?もう、こいつをどうにかしないと・・・。」
「うん、戻っておいで、クシャミ君。」
そういうと、こいつはクシャミ君?を大きな深呼吸をするようとともに一口で食べてしまった・・・。
「お、おい、そんなもん食うなっ!」
「うん?お友達だから大丈夫。」
「お、お友達を食うなって言っているんだっ!」
俺は何を言っている・・・。
「ふにゃ・・・。怒られたぁ・・・。」
それより、早く服を着させないと・・・。
また変な生物を生み出されても困る。
だが、そう言ったって、俺は小さな女の子の服なんて分からない。
「と、戸越・・・。早く帰ってきてくれよ・・・。」
「くしゅんっ、くしゅん。ゴホッ、ゴホッ・・・。」
「ま、待て待てっ!」
またへんてこ生物が生まれてしまう・・・。
「あぁ、もう・・・。」
仕方ないから、俺は雪ヶ谷が見せてくれたコスプレの写真の服を思い出して、服を作り出した。
「ま、まぶしい・・・。」
「わぁ~~、すごいっ!可愛いっ!ゴホッ・・・。」
「は、早く着ろって・・・。」
何の服か分からないが、何て言うか、魔法少女ってやつなのか。
フリル付きのミニスカートと長めの靴下、絶対領域って雪ヶ谷が話していたな。
何の領域なんだがさっぱり分からなかったが、これなら寒くないだろう。
手袋も二の腕の途中までの長めになっている。
上着はコーヒーショップの店員のようなものになっていた。
我ながらとっさに考えたのが、これとは・・・。
「・・・しかし、ぶっかぶかだな。」
だが、少し大きいどころか、そのほとんどが身体に合っていない・・・。
雪ヶ谷の大きさでイメージしたから仕方ないのだが。
「ぶっかぶか~~っ!でも、暖かいよぉ~。」
「まあ、良いか。しばらくしたら戸越ってやつに服を買ってきてもらう。それまでは我慢してくれ。」
「うんっ、分かったぁ!お兄ちゃんっ!」
「お兄ちゃんね・・・。はぁ~・・・。やまい、もう変な友達を産むんじゃないぜ。」
「うんっ、分かったぁ!」
「あ、あと、友達は食べるなよ・・・。」
俺は何を言っている・・・、また頭を抱えてしまった。
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戸越に服を買わせて、やっとまともな服装になったと思ったが、こいつは俺に懐いて困っていた。
やまいは、こっちの研究室まで遊びに来て、勝手に入ってくる。
鍵をかけていようがお構いなし。
例の生物を扉の隙間から入り込ませて、鍵を開けてしまうのだ。
そして、決まり切ったように、毎回、俺の膝に座る。
「お、おい・・・。戸越のところに行けって・・・。」
「え~~っ、やだよぉ~~。遊んでよぉ~~。」
「まったく・・・。」
目障りと思いつつ、可愛いとも思ってしまう・・・。
俺はどうしてしまったんだ?
「ねぇ、ねぇ、これなあに?」
「うん、これはヘッドギアっていってだな・・・。」
「ねぇ、ねぇ、このネズミさんは?」
「これは、携帯電話とネズミの合体したやつで・・・。」
「ねぇ、ねぇ、携帯電話でお写真撮ってっ!」
「ああ、うん、分かった、分かった・・・。」
「ねぇ、ねぇ、お外につれてってっ!」
「ううん?いや、勉強しているんだって。・・・ああ、はいはい。分かったって、30分だけだぞ・・・。」
「ねぇ、ねぇ・・・。」
こんな事が数日続いた。
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「お、おいっ!戸越、やまいが倒れたって?」
「うん、そうみたいなんだ。今ユウ達が面倒を見ているよ。」
「そ、そうか・・・。」
「君も行ってみたらどうだい?」
「い、いや、俺は良いんだ・・・。」
俺は相変わらず、面倒に巻き込まれたくなかったから、イマージュ達に会わないようにしていた。
あいつらは俺がいることすら気づかなかったかもしれない。
「ちょっと、見てきてくれよ。」
「自分で行けば良いじゃないか・・・。ブツブツ・・・。」
自分のこのイライラする気持ちが整理できずにいた。
やまいは、いつも咳か、クシャミをしていた。
常に病気を持っているようで、治る気配が全くない。
熱もたまに出るようで、この時もそうだった。
戸越が言うように、俺が咳き込んだ際に生まれたイマージュだから、病原菌を媒体にしたのかもしれない。
だったら、あの苦しさは消えないのかもしれない・・・。
お、俺は・・・、かわいそうなことをしたのだろうか・・・。
バカなっ!
くだらない生命体に感情を込めるなんて・・・。
しかし、この不安感、イライラ・・・、何なんだ一体っ!
いっそう、消してしまえば良いっ!
・・・。
・・・。
・・・あぁ、くそっ!!!
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「おに~ちゃんっ!」
「ふん、また来たのか。」
やまいの熱は下がったようで、また、俺の膝の上に戻った。
「うんっ!ゴホッ。」
「ほら、咳き込んで・・・大丈夫か。」
「大丈夫だよっ!やまいは元気ですっ!ゴホッ、ゴホッ。元気だから、あんまり心配しないでっ!」
「お、俺は心配なんて・・・。」
「でも、戸越のお兄ちゃんが心配していたって。」
「あいつっ!」
「それより、お兄ちゃん、ねぇ、ねぇ、これ教えてっ!」
俺はこの「ねぇ、ねぇ攻撃」を素直に受け入れ始めていた・・・。
まあ、面倒だがしばらくは付き合ってやるか。