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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第8重力子 フッカツゲキ
43/105

シャーレの場合

過去世で戸越の前世に殺されてしまったパン。

恨みを重ねて数百年、ついに戸越となったフローラを見つける・・・。

しずく・・・。

しずく・・・。

私は何て事をしてしまったのだ・・・。

錯乱の果てに一番大事な女性を失ってしまった・・・。

どれほど後悔しても取り返しがつかない。


時間・・・。

時間を戻せないか?

光速思考が出来るぐらいなら、思考だけを過去に移動できないか?

どうすれば時間が戻せるというのだ・・・。

・・・バカな・・・。

何という虚無感、無駄な思考をぐるぐる回して、時間の無駄でしかない・・・。


・・・何をしていても面白くない・・・。

・・・君とじゃなければ・・・。


「先生?パソコンで何していらっしゃるのですか?」

「さすがですっ!」

「いいえ。お話を聞いているととても楽しくてっ!」

「?!せ、先生・・・?!ダメですっ!そんな計画っ!!」

「そんな怖い先生・・・嫌い・・・。悪魔みたい・・・。いや・・・。」


ああ、ああ・・・。

しずくの声が頭の中を回る・・・。

しずく・・・、しずく・・・。

私はのたうちまわるように、暴れて机の上の実験器具などをぶちまけてしまった。


「あっ!」


その時、しずくと撮った写真が机の上から見つかった。

イマージュ達には見せられないから、本の間に挟んでいたのだ。

私はうつろな目でそれをじっと見つめると、自然と涙が流れてきた。


こんな風にもう一度・・・、もう一度・・・、一緒に・・・、ううう・・・。


「そして、これが次の魔法さ。」

「ま、魔法?」


魔法?

魔法・・・、そうかっ!

私は魔法使いどころか、創造主じゃないかっ!

しずくを生み出せば良いじゃないかっ!


バカな妄想だなんて、この時は考えもしなかった。

でも、そんな妄想にすら僕はすがっていた・・・。


-----


フローラ、あなたへの恨み忘れたわけじゃないわ・・・。

今世は男性に生まれたって私には分かる。

あの燃やされた日から何百年経っても、この恨みは消えたりしないわ。

私は、あなたが生まれるのをどれぐらい待っていたと思っているの!


シェルも性別を変えて生まれたみたいね・・・。

でも、そんなことどうでも良いっ!

あなたみたいな弱い子は、不幸になれば良いのよっ!!!


そして、私は戸越という名前の男性を観察することにした。

この人は昔から弱くて、弱くて、見ているとイライラする。

自分のことしか考えていない、つまらない女、いえ、今は男ね。


ある日、すごい発見をしたと息巻いていた。

だけど、何てことはない、他人が見つけた内容をさも自分が見つけたかのような錯覚をしているだけ。

バカな子・・・。


シェルは雪ヶ谷しずくという名前の女性で生まれていた。

性別を変えて生まれるなんて。


そして、今世も二人は付き合い始める。

私は、それを冷たい目で見ていた。

どうしてかしら、シェルを見るのも懐かしいはずなのに・・・。

少しぐらい嫉妬しても良いはず、恨みの感情もあるはず、だけど、何故か冷たい目で見るだけだった・・・。


ある日、フローラ(戸越)はシェル(雪ヶ谷)を殺してしまった。

そう、自慢の科学ってやつで・・・。


ふふっ・・・。

今世も結局、シェルを殺してしまうなんてね。

あなたはそういう怨嗟の鎖で幸せにはなれないような人間なのよっ!!

ざ、ざまあみろっ!

ふふっ、あはははははっ!

あははは・・・。

あは・・・は・・・は・・・、何てむなしいのかしら・・・。

どうして、あれだけ恨んでいたのに、どうしたのかしら私・・・。

私は恨み疲れてしまったのかしら・・・。


何百年も待って、燃えさかる熱さの中で、どうやって恨み殺すか考えて、そして会ってみたら、これ?

何だったのかしら、私の思いは・・・。


・・・もう、いいかな・・・。


ん?

なにっ?

あぁ、身体が引っ張られる・・・。

何?これっ!

あぁ~~・・・。


-----


「はっ!?」

「し、しずくかい?」

「うん、何っ?」


こ、これは・・・。

今まで見ていたフローラの科学ってやつ・・・?

何人か、人間になるのを見ていたけど、まさか私が・・・。


「か、身体・・・。」


私は、この重い肉体を感じていた。

変な感覚・・・。

思い切り分厚い肉を羽織ったかのような感じだった。


「そ、そうだよ。しずくっ!身体だよっ!?生き返ったんだよっ!!!」

「さ、寒い・・・。」


その厚い肉は私が感じたくなくても、"寒さ"を伝えてきた・・・。

熱き煉獄のうちに死んだ私が、寒さを感じるなんて・・・。


「寒い?そうだね。服を着なければっ!」

「まぶしい・・・。」


輝いた光の中から、女性の服が現れた。

これは・・・、しずくって女が来ていた服に似ている・・・。


「さ、さあ、これを着て・・・。」

「まったく、シャレにもならない・・・。」

「しゃ、シャレ?小さな声で良く聞こえないな・・・。君はシャーレって言うんだね?」

「シャーレ?まあ、良いわ・・・。名前なんて。私はシャーレでも、雪ヶ谷しずくって女でも、どっちでも良いわ。」

「(ビクッ!)わ、分かったよ・・・。し、しずくって、よ、呼ぶよ・・・?」

「・・・。」


私は生き返ってしまった・・・。

数百年待って、生まれ変わったフローラの成長を見続けて、

こいつが不幸になるのを見られてたら、それで良かっただけなのに・・・。


「はぁ~・・・。何だかね・・・。どんな悪戯なんだろうか・・・。」

「ほ、ほら、えっと・・・。ご、ご飯・・・。しょ、食事を食べようっ!ねっ?

さっき、ユウが食事を置いてくれたから、そ、それを・・・。」

「・・・分かったわ。」


ん?

この匂い・・・?

な、何ておいしそうな匂いがするの?


「(ぐぅ~~~。)お腹がなった・・・。生き返った証拠ね・・・。笑えるわ・・・。」

「や、やっぱり、お腹が空いて・・・。あっ、失礼だったかな・・・。で、でも、ほ、ほら、食べてくれ・・・。」


フローラのへつらう姿を見てるだけで、何百年も恨んでたことがさらにアホらしくなってきた・・・。

まあ、良いか。

うまそうだし、これ。


「ん?!お、おいしいっ!!こ、これは、何ていうの?」

「それは、カレーライスだよっ!ユウの作るカレーライスはすごくおいしいんだっ!」

「おいしい、おいしいっ!かれーらいす?あなたが食べているのを見たことあったけど、こんなにおいしいのっ?!」

「な、何だって?僕が食べているところを見たことがあるって?」

「まあ、それは忘れて・・・。ムシャムシャ・・・。」


私は一心不乱にかれーらいすを食べた。


「あ~っ、おいしかったっ!」

「そ、そうか。良かったよ、しずく。」

「くんくん・・・?んっ?」

「お、おいおい・・・。」


私はフローラから、漂ってくる身体の匂いが気になった・・・。


「戸越、あなたも良い匂いがするのね・・・。」

「な、なんだって?匂い?そ、そうかい?ぼ、僕を、た、食べたりしないよね・・・?」

「ぷっ、食べるわけないじゃない・・・、う~ん、不思議ね・・・。」

「そ、そうだよね・・・。(イマージュは人間を食べたりするのかと思った・・・。)」


そして、忘れかけていたような熱い思いが沸き上がるような気がした。


「い、いや、あり得ないんだけど・・・。で、でも・・・。くんくん・・・。」


-----


「し、しかし、君は誰なんだい・・・。ブツブツ・・・。」


顔つき、体つき、声まで雪ヶ谷しずくに似ているが性格が全く違う。

私は、殺してしまったしずくを作り出すことに精を出した。

そして生み出されたこの子・・・。

しかし、この子は、一体誰なんだ・・・。


「私は"雪ヶ谷しずく"でしょ。先生が名前を付けてくれたんじゃない。」

「そ、そうだ・・・。そうだ・・・。ブツブツ・・・。」

「ふふふ、変な先生。」


僕はこの時の彼女が冷たい笑みを浮かべていることに気づかなかった。


「さぁ、来て。」


"しずく"を思い出し抱きしめてみるが、なぜか虚しい・・・。


「ふふ、命をくれてありがとう。まったく、何だったのかしら、この数百年は・・・。」

「あ、ああ・・・。えっ?数百年?」


この子も不思議なことを言う。


「どうでも良いじゃない・・・。そう。良いのよ・・・、良いの・・・、全て良いのよ・・・。」

「ああ、そうだね。良いんだ・・・。」


違う・・・。

何か違う・・・。


「誰なんだ、君は・・・。」


もう一度、問うてしまう。


「雪ヶ谷しずくよっ!」


私はその迫るような声にびくっとしてしまった。


「そ、そうだな。しずく・・・、しずく・・・だ・・・。」

「ふふっ。このまま抱いて。弱い子・・・。フローラ・・・。」

「ふろーら?」

「何でも無いわ・・・。」


私はしずくへの気持ちを誤魔化している。


「私、生きてるわ、生きてるわ・・・すてき、すてき、すてき。

もうどうでも良いの・・・。

全て忘れましょう・・・。

可愛い子・・・。」


私は、自分を許せないでいる・・・。

そして、その気持ちから逃げている・・・。

一時的な感情で、本当の気持ちを誤魔化している・・・。


本物では無いしずくの声が響く・・・。


「全て忘れましょう・・・。フローラ・・・。」


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