ユウの場合
私の住んでいる家に勝手に住んできた子・・・。
幸せそうなこの子が憎かったのかもしれない・・・。
いえ、私は同じような"仲間"が欲しかっただけかもしれない・・・。
「きゃ~~~っ!誰かお風呂に入っている!!!あわあわわわ・・・・。」
私がお風呂に入っている時だった。
勝手にお風呂に入ってきた居候が、驚いて外に出て行ってしまった。
お風呂に入っている・・・、違うわ・・・。
お湯は沸かないもの・・・。
電気も付けられないもの・・・。
彼女にはどう見えたのかしら、失礼だわ。
私がお化けになったみたいじゃない・・・。
お化け?
何故彼女は私が見えないのかしら。
何故私の家に勝手に住むのかしら。
私ってもしかして・・・。
でも、そんなことどうでも良いの。
勝手に住む子が悪いの。
ふざけないでよっ!
あなたなんて、嫌いっ、嫌いっ、嫌いっ!
大っ嫌いっ!
あなたなんて・・・、いえ・・・、私なんて・・・、私は・・・私のことが・・・嫌い・・・。
私は・・・。
私は・・・。
ううう・・・。
いつも私泣いているのね・・・。
私は・・・。
私は・・・。
駄目な子・・・。
いつも受け身で・・・。
いつも一人ぼっち・・・。
ううう・・・。
「ね、ねぇ・・・。お、お願い・・・。見てきてよ・・・。お、お風呂に女性が、いたのよ・・・。」
「んなことあるかよっ!」
「ほ、ほ、ほ・・・、ほんとなのよ・・・。」
ああ、居候は彼氏を連れてきたのね。
震えてる・・・。
怖いのね・・・。
ごめんなさい・・・。
でも、勝手に住むのは駄目よ。
「ほら、誰もいないじゃないか。」
「えっ・・・。で、でも・・・。うう、こ、こ、怖い・・・、この部屋・・・。」
「だ、大丈夫だって。」
「う、うん・・・。」
あら、抱き合っちゃって、お熱いこと・・・。
ん?
な、何っ?
ひ、引っ張られてる?
あぁ、あぁ・・・、と、飛んでいる・・・?
天井にぶつかるっ!
・・・あれっ?
天井を抜けちゃった・・・。
他の人の部屋も抜けて行って・・・マンションを超えて・・・空高く・・・。
ど、どこに飛んでいくの・・・?
ま、まぶしい・・・。
そ、草原・・・。
綺麗な草原ね・・・。
誰かいるわ・・・。
お、おじいちゃん?
死んだおじいちゃんがいる・・・。
な、なぜ・・・。
優しかったおじいちゃん・・・。
「祐子・・・。元気を出すのだ・・・。まだ生きなければならぬ・・・。」
まだ生きるって?
私はここに生きているわ・・・。
いえ、分かっている・・・私はすでに死んでいる・・・。
で、でも、生きなければならないって・・・?
「頑張るんだよ・・・。」
笑顔で手を振るおじいちゃんが小さくなり、大きな川を渡り、私はトンネルの中に入っていった。
こ、このトンネルは・・・。
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「戸越、取りあえず二人目も出来たぜ。」
「おぉっ!すごいじゃないかっ!永原君っ!何を媒体にしたんだい?(呼び捨てでタメ語か・・・。)」
「この天気図だよ。」
「天気図か、こんなものでも媒体になるんだね。」
何を話しているのかしら・・・。
「感動したよ。しかし、また裸だ・・・。しかも大人の女性・・・。」
「ああ、そうだな・・・。よしっ!これも任せたっ!」
「お、おいっ!また、どこに行くんだよっ!あぁ・・・もう・・・。ブツブツ・・・。」
見慣れない小さな部屋・・・。
「き、君?起きたみたいだね。」
「えっ?あ、あなたは誰ですか?」
「わ、私は、太田大学で助教授をしている戸越という者なのだが・・・。」
「えっ?隣町の太田大学?」
「と、隣町だって??」
「そ、その助教授が何の用なんですか?」
「いや、それは・・・その・・・。君を生み出したというか・・・。」
「生み出した?私を産んだ?何を言ってるんですか?」
「いや、その・・・。まずは・・・、ちょっと、ふ、服を・・・着て・・・。」
「はっ?服?ふ・・・。キャ~~~~ッ!!!何をするんですかっ!」
その時、私の周りに紙切れの結びつけられた鎖が、大事なところを隠してくれた。
「はっ?はいっ?な、何ですか、この鎖は・・・?」
この赤い鎖と青い鎖、そして、結びつけられている紙切れ、本当に紙切れなのかしら・・・、半円と三角・・・。
そして、丸に「高」と「低」・・・。
「ちょっと、これって、まさか、寒冷前線と、温暖前線・・・?」
小学校の頃、ラジオを聞きながら天気図を作ったのを思い出した・・・。
「そう、そうなんだ。天気図を媒体にして、君を産んだんだ。」
「産んだ、産んだって、私はあなたの子どもですかっ!!もう、訳が分かりませんっ!早く、何か着るものを下さいっ!」
「ああ、そ、そうだ。そ、そうだ。ス、スーツが、い、いいだろう・・・。」
「ま、まぶしい・・・。」
輝いた中から、スーツが生まれた・・・。
「ええっ!?服が、いきなり出来た・・・?」
「そ、そうだよ・・・。こ、これを・・・着たまえ・・・。」
「何ですか、このスーツ・・・。図書館の受付の女性みたいな地味なスーツ・・・。」
「えっ・・・。スーツって、こういうもんじゃ・・・。」
「もうどうでも良いですっ!後ろを向いて下さいっ!」
「ああ、ああ・・・。す、すまん・・・。」
私は着替えると、この怯えている訳の分からない男性をにらんでいた。
「いや、その・・・。お、怒らないでくれ・・・。(何で怒られているんだ?)き、君の名前は・・・?」
「名前ですかっ?!ユ、ユウですっ!」
私は本名を名乗らなかった。
「ユ、ユウさんか・・・。こ、こんにちは・・・。」
「何がこんにちは、ですかっ!もうっ!」
「えっ・・、ああ・・・。」
「しかし、ここは・・・。私は一体・・・。確か手首を切って・・・、マンションにいて・・・。」
「て、手首を切った?」
だけど、この感覚・・・。
服は着たけど、さ、寒い・・・、寒いって・・・、こんな感触だったのね・・・。
「わ、私・・・、私、い、生きてるの・・・?生き返ったの?」
生を実感した私は勝手に涙が流れていた。
その涙が頬を伝う感触にさえ、感動していた。
「生きている・・・、私・・・、生きている・・・。生きているって、こういうことなのね・・・。」
「そりゃ、もちろんさ。えっ?泣いているのかい・・・?ま、またか・・・。ブツブツ・・・。」
私は感極まって頭を上げられない・・・。
「また、再度チャンスを・・・。今度は頑張ります・・・。神様・・・。ありがとうございました・・・。ううう・・・。」
私は死んでいた・・・。
今それが初めて実感出来た・・・。
私は、与えられた命を粗末にしてしまった。
命は誰のものなのかしら・・・。
ただ、私は、それを勝手に捨ててしまった。
私はその酷い罪悪感だけで存在していた。
どこの誰とも分からない神様に私は自然に感謝の言葉を告いでいた。
「う、産んで頂きありがとうございましたっ!!神様・・・、戸越様っ!!!」
「神さま?!戸越さま?!はぁ~~、もう、疲れる・・・。永原君・・・、ずるいぞ・・・。」
あれ?
この人、よく見るとかっこいいかも・・・。
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しかし、このユウという女性は、とてもしっかりとしている。
まるで過去、ビジネスでもしていたかのようだった。
彼女は私の秘書として、十二分の作業をしてくれた。
朝起きれば、私のスケジュールを教えてくれる。
スマホにスケジュールは、当然のように登録してくれる。
荒く書いたホワイトボードのメモも翌日にはしっかりと電子ファイルになっている。
仕事について困ったことがあると、まず最初に彼女に相談することも多くなった。
何というか、とても積極的なのだ。
私の秘書だけではなく、他のイマージュ達の面倒も見てくれた。
他のイマージュ達からすれば、母親のような人物だっただろう。
少し口うるさいみたいだが・・・。
我々の朝昼晩の食事から、部屋の掃除。
彼女が"来て"から部屋が見違えるように綺麗になった。
まったく、とても頭が下がる。
一度、彼女に質問してみた。
「何でそんなに積極的に働いてくれるんだい?」
「あら、ご迷惑ですか?」
「いや、とても助かっている。だけど、何でかなと思ってね。」
「自分が出来ることを探して、積極的に働くこと。
それがとても大きな喜びにつながると分かったのです。
だから産んで頂いて、とても感謝しているのですよ。」
「うん、なるほど。こちらこそ、感謝しているよ。」
「そんな、照れてしまいます。戸越様・・・。」
「その・・・、様っていうのは、どうも・・・。」
「いえいえ、もう、感謝感激なんですから、様を付けても良いのですっ!」
「ええ、そ、そうかい・・・。あはは・・・。」
ただ、少し頑固なところもあるかなぁ・・・。