絶望の未来
戸越を追い詰めた池上であったが、最後は戸越が自らの命を落とす形で終わってしまう。
取り残された池上の前に現れた者とは・・・。
戸越が消え去った後は、ペンションが丸ごと消えてしまった。
僕はぽっかり空いた空洞に座っている状態になった。
僕は身体を起こそうと立ち上がろうとした。
「い、痛い・・・。」
水の銃で撃たれたところが痛む・・・。
<大丈夫ですが、池上君。>
<大丈夫?>
<痛そうだよ。お兄ちゃん・・・。>
<にゃ~~!!私が不甲斐ないばかりに、ごめんなさい、にゃ・・・。>
「う、うん。大丈夫、みんな・・・ありがとう。でも、歩けないかも・・・。」
見ているしか出来なかった彼女たちは、もどかしくて仕方が無かったのだろう。
<お空を飛んで帰るしかないよね・・・。>
「そうだね、とっきょ・・・。」
力を使って動こうとしたとき、懐かしく、だけど、別人のような、黒く染まった声が聞こえた・・・。
「あ~、戸越は死んだか・・・。」
「お、おまえは永原・・・!?」
紛れもなかった・・・。
その姿、一緒に研究し、一緒に遊び、一緒に飲みもした、あの永原・・・。
<ちょ、ちょ、えっ?彼は生きていたの・・・?>
<誰この人?研究室にいた人?>
「久しぶりだな。」
「お前、生きてたのか・・・?だ、だけど・・・。」
永原が生きていた。
すらっとした姿は、永原らしい白いシャツ、パンツも綺麗だ。
だけど、彼の方から見える光、いや、ブラックライトのようなものは・・・?
そうか・・・、これがオーラというものか。
黒いオーラ、それが示す意味は、異常、残虐、悪・・・。
そう直感してしまった・・・。
「喜んでくれるのはいいけど・・・困るんだよね。邪魔ばかりしてはさ。」
「・・・邪魔?」
ああ・・・。
「そうそう。ま、計画は一人でも出来るけどさ。仲間ってもんがいないとな。せっかく創ったのにさ。」
「・・・。」
やっぱり・・・。
「それにしてもおまえの重力子を操る能力には驚いたぜ。一般的にはエスパーって呼ぶんだろうな。」
「・・・。」
信じたくは無かった・・・。
信じ合える仲間だった・・・。
やっとそんな人達に出会えたのに・・・。
「お前のエスパー能力は研究させてもらったぜ。」
「僕を研究・・・?」
「そうさ、このヘッドギアなしで重力子を使えるんだからな。
どこからその能力が出てるか調べさせてもらったぜ。
額とか胸とかさ、いわゆるチャクラが出るところと同じなんだよね、驚きだぜ。
所謂、エスパーってやつか。
オカルトでもあるまいし、そんな能力があるなんてな。」
「お前・・・。」
ひさびさに会えたというのに・・・。
何て冷たい会話なんだよ・・・。
「ま、それはいいとしてさ、この重力子の発見をどう思う?」
「・・・。」
お前も重力子を発見して、人間が変わってしまったのか・・・。
「すごい発見だろ?創造するだけで何でも作れるんだぜ。我ながらすごいと思うぜ。」
何だろうこのもどかしさ・・・。
不安、悲しみ、苦しみ・・・。
「お前も戸越の仲間なのか・・・。」
「仲間というか、やつの知識を使おうとしてな。しょうがないから、仲間にしてやったんだ。」
「戸越を仲間に・・・?で、では・・・お前が計画したっていうのか・・・。」
「そうそう。そうだよ。しかし、戸越はいきなりみんなを殺しちゃうから困った奴だったぜ、あれには参った。」
「だ、だが、お前・・・。」
何を言っている・・・。
止めてくれ・・・。
「まあ、それでしょうがないからさ。」
「しょうがない・・・?!」
オウム返ししか出来ない・・・。
「計画変更になってしまったよ。だから、秘密裏に進めるために俺と戸越は死んだことにしたんだ。」
「・・・。」
「だけど、お前、死体を見つけるのが早すぎだよ。
それと、重力子を操ることができるってのは、計算外ってところだったぜ。」
「僕はたまたまノートを忘れたのを取りに行っただけだ・・・。」
「う~ん、そうだったのか。ノートには気づかなかったな。僕のミスか。」
「それで・・・、見つけるのが早かった・・・。」
「そうさ、死体を見つけてしまって、ついでにあのアホな時計女も見つかってしまったからな。
なかなか計画道理には行かないもんだな。」
<ア、アホな時計女ですとっ!私のことかぁ~~っ!ムカ~~ッ!>
とっきょが涙目で怒っている。
「・・・。」
「月曜日に俺らの死体を見つけてくれれば、俺と戸越は死んだってことになって万々歳なんだったのにさ。
子どもにあんな重要なこと任せるから駄目なんだ。戸越は使えないやつだ。」
「・・・。」
「しばらくお前を消すことに時間を取られてしまった。
しかも全部失敗で、その挙げ句、お前にここを嗅ぎつけられてしまった。
戸越はつくづく使えない奴だった。」
「僕を消す・・・だと・・・。」
止めろよ・・・。
そんなこと・・・。
信じたくない・・・。
「まあ、それもいいや。ここまで来られちゃ隠しようもないしな。」
「永原・・・、僕を殺すつもりだったって言うのかよ・・・。」
「そうだよ。お前はいい奴だったが、邪魔しすぎだぜ。」
「何でだよ・・・永原、そんなこと言うなよ・・・。」
「何・・・?」
「お前はいつもいい奴で、僕の初めての友達だったのに・・・。」
「初めて?そうだったのか、さみしいやつだな。」
「そんなことで、壊れちまうのかよ・・・僕らの関係は・・・。」
「関係?たかだか数ヶ月の付き合いだろ?この偉大な発見に比べたら些細なことだ。」
「確かにその発見は偉大だ・・・。だが、だが、なぜ友達まで殺す必要があったんだよっ!」
「だから、奴らを殺したのは戸越なんだって。」
「町は・・・、町はなぜ破壊したんだっ!多くの人間が死んでしまったんだぞっ!」
「まあ、証拠隠滅だな。僕らの発見が見つかると面倒なことになるからね。
大きな計画からみたら小さな犠牲なんだよ。」
「ふざけるなよ!何が大きな計画だよ!!」
もはや僕の知っている永原では無かった・・・。
「池上。こんな魔法みたいな力をさ、人類が知ったらどうなると思う?」
「みんな幸福になる。何でも生み出せるならすごいじゃないか。」
僕は力を使って何とか立ち上がった。
「それはいい面だけだな。俺はさ、第三次世界大戦が起こるじゃないかと思うぜ。
いや、もっとひどい戦争が起こる・・・。」
「・・・。」
確かにそうかもしれない・・・。
何でも生み出せる。
それは武器も生み出せると言うこと・・・。
紛争地域にこの技術が渡ったらどうなるだろう・・・。
「それに人類はかなり堕落するぜ。仕事も勉強もしなくても生活できるからな。もう欲望のまんまだぜ。」
「・・・。」
「そんな自分勝手な人類が増えたら、最低最悪な世界になっちまう。そう思うだろ?
今現在も、欲望のままに戦争をしているのが人類だぜ?」
だけど・・・。
「そんなことはないっ!」
「俺には分かる。
堕落した人間たちが思いつきのまま殺し合う世界、法律なんて何の役にも立たない世界が広がるぜ。」
「愛し合う人たちや、信じあえる人たちだっているはずだっ!
お前らが僕にそうしてくれたじゃないか!!」
「あんなお遊びをありがたがってくれるとは・・・。純粋だよ、お前は。」
「永原・・・、何をしようとしているんだ・・・。」
「お前は逃げろ。これから来る未来には、お前みたいな純粋なやつが必要だ。」
「逃げろ?」
「これから隕石を落とす。世界人口を一割ぐらいにするんだ。」
「隕石を・・・落とす?人類を・・・一割・・・?」
「そんなところだ。」
「ふ、ふざけるなっ!」
全てが・・・、全てが永原の計画だった・・・。
僕は絶望感にうちひしがれていた・・・。
<池上君・・・、し、知らなかったの・・・。わ、私は・・・、私は彼に作られたのね・・・。
彼に最後に操作されてあんな酷いことを・・・。>
ユウ姉さん・・・。
<私のもう一人のお兄ちゃん・・・。今日は何か怖いよ・・・。>
やまいちゃんは知っていたみたいだ。
<・・・いけ・・・がみ・・・くん、ご・・・めんな・・・さい。お話し・・・でき・・・なくて・・・。>
まだノイズ混じりの雪ヶ谷だった。