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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第6重力子 ショウジョタチノイノリ -エセ創造主-
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かなしみの創造主

ペンションから自分の身体に精神を移した戸越。

彼を説得しようとする池上であった・・・。

「池上君、早く答えたまえ。」

「と、戸越、早く自分の罪を認めて、自首するんだっ!」

「罪?わ、私が悪いことをしたと言うのかい?」

「当たり前だ、何人も殺しておいて何を言っているんだっ!」

「彼らには申し訳なかったが、人類の未来を考えると、大したことではないんだよ。そ、そう小さな事だ・・・。ブツブツ・・・。」

「何が人類の未来だっ!重力子の発見と発明のために死んだだけじゃないかっ!!!みんな・・・、みんなだって未来があったんだっ!!それなのに・・・。」

「か、彼らの死は尊い・・・よ・・・。だが、き、君に何が分かるというのだ・・・。」

「そんなの分かるはずがない・・・。みんなも、お前を尊敬していたというのに・・・。だから、一緒に飲み会だってした・・・じゃないか・・・。」


研究室のメンバーの顔が浮かんでくる。

永原、大崎、荏原、雪ヶ谷・・・。


「みんな仲良くて・・・。大事にしたかったのに・・・。」

「分かっていない・・・。分かっていない・・・。分かっていないんだよっ!!!この発明を見た前っ!」


<<まずは、炎だっ!>>


火炎放射器のような炎がこちらに飛んでくる。

僕はとっさに避けたが、壁にぶつかり倒れてしまった。


「な、何をするんだっ!」

「どうだ?何でも作れるだろう?

このヘッドギアを付ければ、考えるだけで"もの"が作れる。

すごいだろう?、すごいって言えよっ!!!

それに、君は私を殺人者というが、生命を生み出したりもしたじゃないかっ!

見ただろう、君もあの生命体を、笑いも泣きも怒りもする、生きた人間なんだよっ!すごいだろっ!」


戸越はすごい形相で怒り狂っている・・・。

また別人のようだ・・・。


「どうして、どうして、みんなの声が聞こえないんだ・・・。

とっきょや、ユウ姉さん達の声は、どうして聞こえていないんだっ!」

「声?何を言っているんだ?

彼女たちは、君が・・・、そうだ、そうだ、そうだっ!

君だって、殺人を犯したじゃないかっ!

殺人者が何を言いに来たんだよっ!!!」

「違うっ!彼女たちは天国に帰れず彷徨っているところを、そのヘッドギアで仮の肉体に宿らされていただけだっ!」

「はぁ、また分からないことを言うんだな・・・。

彷徨っていた?どこを?ああ、聞くのもバカらしい・・。

仮にその彷徨っていた人が肉体に宿って、それで君はそれを消し去った。

それを殺人と呼ばなくて何だというのだよっ!」

「僕は彼女たちをあるべき場所に導いただけだ。天国に帰ってもらったんだっ!」

「そんな・・・、そんな言い訳があるかっ!そうそう、みんなを私も導いただけだよ。クククッ・・・。」

「くっ・・・。どうして・・・、どうして雪ヶ谷の声が聞こえないんだ・・・。」

「し、しずく・・・?ど、どうして彼女の名前が出てくる・・・。ブツブツ・・・。」


雪ヶ谷の話をすると、戸越は少しひるんだ。


「雪ヶ谷がもう止めろって言ってるんだ。先生はこんな人じゃないって。とても優しい人なんだってっ!!」

「や、止めたまえ・・・、し、しずくは・・・、しずくは、し、死んだんだ・・・。わ、私を、あ、悪魔と、い、言ってな、ブツブツ・・・。」

「もう止めろってっ!雪ヶ谷は、あんたを許してるんだっ!!」

「ゆっ、許して・・・いる?そ、そんなこと・・・。ブツブツ・・・。」

「そうだ!」

「・・・く、くだらないっ!!は、話は終わりだ!!そ、創造主である、わ、わ、私に、か、勝てるのかね。ブツブツ・・・。」

「何が創造主だっ!」

「す、少しは創造主の言うことを聞きたまえっ!」


<<今度は、水の銃だ!>>


大きな水たまりが戸越の前に生み出されると戸越は指を僕に向ける。

すると、それがレーザーのようになり、数発、高速で飛んでくる。


「ははっ!高速の水なら鉄の板でも切れるんだよっ!

ちょっとした拳銃じゃないかな。

クククッ・・・。」


僕は転んでいるため、動けなかった。

水の銃弾は左腕、右肩、右足を打ち抜いた・・・。

別の一発は僕の頭の横を通り過ぎ、壁に穴を開けていた。

もう少しずれていたら、死んでいた・・・。


しかし貫かれた手足が痛みを伴う・・・。


「ぐがっ・・・。」

「ああ、頭は外れてしまった。練習しなければぁ、なぁ・・・。クククッ・・・。」


だんだん、戸越が凶器の殺人者のようになってきている・・・。

だ、誰なんだ・・・こいつは・・・。


「炎に水・・・。」

「!」


僕を貫いた銃弾が壁にぶつかり、そのまま滴っている・・・。

僕は水たまりの上にいた・・・。


戸越は、にやけた顔で指を鳴らす・・・。


<<それに電気だっ!>>


「ぐあぁっ!」


電気が僕の体を流れ、倒れ込んでしまった・・・。


「どうだい、すごいだろう?文明は全て変わる。世界は大きく変わるっ!魔法だよ。これはっ!クククッ・・・。」

「う、うう・・・。」

「火に水、電気ですら生み出せる・・・。エネルギー問題だって解決出来るんだ・・・。分かるだろう?すごいだろっ!!!」


僕は何とか膝を立てた。


「そんな魔法・・・無くたって、みんな生きていけるっ!」

「人類は・・、人類は、色々と行き詰まっているじゃないか。

戦争は無くならない、人口は増加し続けていて、食糧不足になっている。

水だって足りない。一体どうするんだい?人類はっ!!」

「そ、そんなの、協力して知恵を出し合えば・・・。」

「どんな知恵だというのだ?知恵で何が解決するんだ?」

「こ・・・この世界は、じ・・・人類が、知恵を・・・出し合って・・・文明を作って・・・い、生きて・・・来たんだ・・・。」


い、意識が朦朧としてきた。


「それは認めよう。だが、これからの未来はどうなるというのだ。21世紀はどうするって言うんだい?

私はね、この魔法、いや、この発明は、次の文明を作るための革命だと思うのだよっ!」

「革命・・・。」

「そうだっ!革命だっ!!この革命を生み出した私は神なんだよっ!創造主なんだよっ!」

「そ、そんなのエセ創造主だ・・・。」

「まあ、君に話しても理解出来なそうだな。

no dealというやつだっ!!!

あぁ、この力を使うのが楽しい・・・。

クククッ・・・。」

「や、やられる・・・。ご、ごめん、みんな、せ、説得できなかった・・・。ち、力も出せない・・・。」


かすかにみんなの声が聞こえた・・・。


<池上さん・・・。>

<お兄ちゃん・・・。>


(・・・・・。)


「えっ?」


確かに声が聞こえた・・・。


「せ、先生・・・。」

「し、しずく・・・?まさか・・・。そんな・・・。」


ゆ、雪ヶ谷が目の前に立っている・・・。

戸越にも見えているようだった。


「ゆ、雪ヶ谷・・・。」


戸越は、彼女を見ると、あの親しみのあるいつもの戸越に戻った。


<先生・・・。止めて下さい・・・。>


「な、なぜ、き、君が、こ、ここに・・・。」


<止めて下さい。私は・・・、怒っていませんから・・・。>


「何を・・・お、怒っていない・・・?。だが、しずく・・・。も、もう遅いんだ・・・全て・・・。」


<遅くなんてありませんっ!人間は自分の罪を見つめてこそ変わっていけるのです・・・。>


「つ、罪?あぁ、私は何を・・・。また何をしようとしているのだ・・・。」


笑顔の雪ヶ谷・・・。

とても優しい目をしている。


<先生・・・。もう止めましょう・・・。>


「あぁ、あぁ、し、しずく・・・会いたかった・・・。会いたかった・・・。」


戸越は力を無くして、立ち尽くし、それを雪ヶ谷が抱きしめている。

互いに涙を流しながら、何かに祈っているようにも見えた。


<先生、大好き・・・。>


「うん・・・。ありがとう・・・。私が悪かったんだ・・・。私が・・・。」


<これから罪を償いましょう・・・。私はずっとそばにいます。>


「しずく・・・。だけど、もう・・・。私は許されない・・・。だから・・・。」


<<β崩壊・・・>>


「と、戸越っ!」


<だ、駄目っ!!!せ、先生っ!!い、生きて、生きて償ってくださいっ!!!>


「しばらくは暗闇の世界で罪を償うよ。愛して・・・いる・・・。しず・・・く・・・。」


<い、いやっ!!!せ、先生・・・!!!うぅぅ・・・。>


戸越を抱きしめていた雪ヶ谷は、その腕から消えた戸越をまだ抱きしめているように腕を交差している。

そして肩が震えているのが分かった。


僕は何も言えなかった。

だけど、戸越から受けた傷が、雪ヶ谷の気持ちと重なり、僕の心にも痛みを与えていた・・・。


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