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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第6重力子 ショウジョタチノイノリ -エセ創造主-
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若き日の想い出

戸越は、高校生だった頃、全国で1位になるような優秀な生徒だったが、自分が何をしたいのか、未だ分からないでいた。

そんな時、進路指導の先生から進められた大学とは・・・。



「おい、戸越っ!すごいじゃないかっ!校内一位どころか、全国一位だぞっ!」

「はい、先生。ありがとうございます。」


職員室に呼ばれたから何の話かと思ったが、全国規模の模試で一位になったという話だった。

自分の点数は、自己採点していたから何となく分かっていたが全国で一位とは思わなかった。

これはこれで嬉しいもんだ。


教室でも知れ渡っていたので、色々と質問されることが多くなった。

男子からだけというのが悲しい・・・。

こんなもんかな。


これといった趣味も無いから、勉強をしていただけだ。

運動だけは駄目で運動音痴もいいところ、。

こればっかりは、どうにも努力する気がしない。


家に帰って、予習と復習をしているだけ。

無駄な時間が嫌いだったから、通勤電車でも勉強をした。

電車で立ちながら辞書を開いて調べていたときは、老人が席を譲ってくれたこともあった。

さすがにそれは断ったけど・・・。


進路を決める紙に何も書かなかったので、進路指導室に呼ばれてしまった。


「お前はどこに進みたいんだ?お前ならどこへでも行けるぞ。」

「特にありません・・・。」


進路指導の先生に言われたが、これといったやりたいことも無い・・・。


「う~ん、何か好きな事とか、勉強したいこととか無いのか?」

「世の中は何で出来ているでしょうか・・・。」

「はっ?」

「頭で考えてみてもよく分かりません。物質って何なのでしょうか?原子は分子とは何なのでしょうか?重力が空間を曲げるとはどういうことなのでしょうか?」


私は何て答えて良いのか分からず、普段から不思議に思っていることを聞いてしまった。


「お前、素粒子物理学に興味があるのか?」

「素粒子物理学?」

「原子は素粒子から出来ている。それを勉強する学問だよ。」

「は、はい。」

「重力は、4つの力の内の一つだな。これも素粒子物理学で勉強できるだろう。」

「!!!」


私は目が覚めるような気がした。

進路指導の先生が、物理の先生でもあることが幸いしたのだった。

そうか、普段不思議に思っていたことを勉強している大学を目指せば良かったのだった。


「素粒子物理学を教えている大学は、こことここか・・・、ああ、私の通っていた大学でも良いかな。少し偏差値が低いが・・・。」

「あ、ありがとうございます。」


もはや、先生の話はどうでも良くなっていて、後は自分で調べるだけだと思っていた。

生きる目標を見つけたような気がした、久々にわくわくしていた。


高校で習う物理学は実に面白くない。

単なる方程式を教えているだけの話。

4つの物理法則、弱い力、強い力、電磁力、重力なんて話は一切出てこない。

初歩的な運動力学でしか無いことが大学で分かった。

どおりで簡単な訳だ。


大学では素粒子に関する勉強を貪るように勉強した。

素粒子の基礎は講義で教えてもらっていたが、覚えるだけの勉強にたりず、自分で調べることが多かった。

大学の図書館とは何て素晴らしい場所か。

広大無辺な知識の海があって、自分の知識の浅さを知った。


サークル活動などには興味が無く、図書館通いが日課になった。


「ああ、また君か。今度は、相対性理論か。ニュートンは卒業かね?」


他人との付き合いを避けていた自分は、貸出受付の男性ぐらいしか顔なじみになる人がいない。

彼は、本を借り続けている自分に興味を持ってくれたようだった。


「えっ、あっ、は、はい・・・。」


彼に初めて声をかけられたのだが、声がとっさに出なかった。

というか、人と会話するが何ヶ月ぶりなんだろうか・・・。


「熱心に本を読んでいるのをよく見ているよ。感心、感心。」

「そ、そうですか・・・。」


褒められてしまい、照れてしまった。


「君、御岳教授に紹介してあげようか?君を見ていたら応援したくなってきたよ。」


御岳教授、この大学の教授の一人だ。

素粒子物理学の権威。

確か、御岳教授の本は、何冊かすでに呼んでいたな。


「は、はい。」

「お、そうか。それなら、明日の金曜日にでも紹介しよう。この時間で良いかな?」


正直、あんまり興味は無かったのだが、会ってみることにした。


当日、図書館に行き、受付の男性に声をかける。


「あ、あの・・・。」

「おっ!来たか。じゃあ、行くか。」


研究室棟の4階にある教授専用の部屋に着いた。


「先生っ!」


彼が扉を開けると中に入り、声をかけた。


「ああ、大崎君。今日は本を頼んでいないよ。どうしたんだい?」


大崎、そうか。

私は、この男性の名前を知らなかった・・・。


「先生、やだなぁ。この前話したじゃないですか。連れてきましたよ。彼を。」

「ああ、すまん。今日だったか。」

「ほらっ、戸越君、こっちに。」

「は、はい。」


大崎さんは自分の名前を知っていた。

図書カードを作ったからか・・・。

ちょっと申し訳ない気持ちになった。


「あ、あの・・・、戸越と申します。」

「あははっ・・・。そんなにかしこまらず、こっちに座りなさい。」

「は、はい。」

「それじゃあ、私は帰ります。戸越君、頑張ってな。」

「大崎さん、明日来て下さい。また頼みたい本があるので。」

「はい、分かりました。」


大崎さんは、部屋を出て行った。

本といえば、この部屋の異常な本の多さには驚いてしまった。

元々は、リビングルームぐらいの大きさはあったのだろうが、本棚で一人部屋ぐらいになっている。

御岳教授はその奥のオフィス机にちょこんと座っている。

そのオフィス机の前にある椅子に座った。


「本だらけの部屋ですまないね。」


私がじろじろ部屋を見ていたので気遣ったのだろう。


「い、いえ・・・。」


御岳教授は、教授という割には凜々しい顔立ちをしている。

年は50ぐらいだろうが、身体はがっちりとしているのが服の上から分かる。

ひげは生えていないが、白髪が似合い、何故かかっこいいと思った。


「大崎君が紹介したいというから、どんな子かと思ったが、君は入学試験でトップだった戸越君だね。」

「えっ・・・。」


自己採点で点数は分かっていたが、トップだったとは・・・知らなかった・・・。


「なかなかあの点は取れないよ。」

「・・・。」

「図書館で熱心に本を読んだり、借りたりしているそうだね。」

「はい。熱心というか・・・。」

「ん?」

「熱心というか、色々と知りたくて。」

「ほう、何をだい?」

「この世の中がどうやって出来ているのか知りたいのです。」

「あははっ、どうやって出来ているかか、あははっ!すりゃ、すごいつ!」


何を笑っているのかさっぱり分からなかった。

馬鹿にしているのか?


「世の中はどうやって出来ているんだい?」


それを知りたいんだけどなぁ・・・。


「分子、原子、素粒子、宇宙を司る4つの力、数式、演算式、色々勉強しましたが、、何故かピンと来ないというか・・・。実感がわかないのです。」

「実感か、そうだね。目に見えないからね。」

「目に見えない・・・。」

「私たちは、数学を利用して、この世の現象を計算しているだけだからかもなぁ。だけど、それ以前に大事なことがあるんだよ。」

「大事なこと?」

「それは探究心さ。」

「探究心?」

「先に君が話していた、色々と知りたい、ということ。これが科学者には一番大事なことさ。」

「科学者・・・。」


そうか、自分は科学者なのか。

科学者なのか!

科学者!

科学者!


私は高校時代から、いや、子どもの頃から、もやもやしていたものが消え去った気がした。


「先生っ!」

「おお、何だい?」

「僕はなりたいものが見つかりました。」

「うん!」

「科学者ですっ!」

「うん、うん。」


先生が笑顔でこっちを見ている。


「君、明日から、ここに来なさい。」

「えっ?」

「ここにある本を読んでいいよ。」

「!」

「そして科学について語り合おう。」

「はいっ!」

「そうそう、この研究室はね、重力というものを・・・。」


私と御岳教授との出会いは、こんなかたちで始まった。


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