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妄想は光の速さで。  作者: 大嶋コウジ
第6重力子 ショウジョタチノイノリ -エセ創造主-
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研究室が聞いていた色々な声

戸越は重力子の研究を進めていた。

雪ヶ谷しずくはそんな彼をそっと見つめている。

そして、彼女はちょっとした勇気を絞ってみた。


お昼過ぎ、私が研究室でプログラムを組んでいるところを雪ヶ谷君が話しかけてきた。


「先生?パソコンで何していらっしゃるのですか?」

「あっ、雪ヶ谷くんか。新しい理論を研究するためにプログラムを組んでいるところだよ。」


我々の研究室は理論物理学となるが、自分の論理を実証検証するためにパソコンでプログラムを組まなければならないわけだ。


「うわ~、すごいっ!」

「ははっ。」


雪ヶ谷君も授業でプログラムを勉強したと言っていたが、苦手と言っていたのを思い出した。

C言語のポインターのところで混乱するらしい。

確かに、誰でもつまずくところだけど、もう二度とやりたくないということだった。


「あの、コーヒー入れてきたんです・・・。」

「ありがとう。丁度、息抜きがしたかったんだ。」

「ご、ご一緒していいですか・・・?」

「う、うん、もちろん。」


ありがたい申し出だ。

それにしても雪ヶ谷君は普段から良く質問してくる生徒であり勉強熱心だ。

プログラム言語以外は・・・。

失礼かもしれないが、女性で論理物理学部に入るなんて珍しくて、ついてこれるのだろうかと、心配したものだった。


「今度の理論はすごいんだ、重力子を見つけることができそうだ。」

「えっ、重力子ですか?存在するんでしょうか?」

「今は、理論上だけの存在だね。これが見つかればノーベル賞もんだよ。」

「すごいっ!すごいっ!」


それにしても・・・。

この子と話していると安心してくるのは何なのだろう・・・。


「まずはシミュレーションして、どうなるかだなぁ。」

「うん、うん。」

「プログラムは、9割出来たんだ。」

「さすがですっ!」


重力波は観測された。

私は、その応用に手を付けたかったのだ。

宇宙を司る4つの力のうち、最も弱い力。

だけど、宇宙を何者にもぶつからず、無限に飛び続けるこの力をどう応用できるのか。

そんなことを研究していた。

この重力子を自由に使えたら、地球の裏側の人と携帯電話で話が出来るかもしれない。

海底にケーブルを引いたり、衛星を使って各国と繋げる必要なんて無い、ネット社会も生まれ変わるだろう。


そして別の日に、また、雪ヶ谷君がやってきた。


「いつも熱心に聞いてくれてありがとう。」

「いいえ。お話を聞いているととても楽しくてっ!」


そんなことを言ってくれるなんて・・・。

こっちも安心感を与えられ、そして、頑張ろうって気にもさせてくれる。

いつの間にか彼女に会えるのが楽しみになっていた。


「不思議だ。君がいると、とてもがんばれるんだ。」

「・・・うれしいです。」


うつむき加減になる雪ヶ谷君。

とても愛しい。


「コーヒーを飲もうか。」

「はい・・・。」

「・・・。」

「・・・。」


「あっ、せ、先生・・・?」


私は、自分でも信じられないが、自然と彼女の手を握っていた。

温かい手と滑るような素肌が私に何かを与えてくれた。


「君の手はとても温かい・・・。君の心みたいだ。こっちにおいで・・・。」

「・・・先生・・・。」


外は夕日が差していたが、研究室の窓はブラインドでその光を閉ざしている。

生徒達は未だ残っている者もいるはずだが、不思議と研究室は静かであった。

そして、静寂と彼女の体温は私の心を溶かしていくようだった。


数ヶ月も経つと、彼女との仲はますます深くなっていた。

私には恋愛なんて遠い世界の話と思っていたのに、だから、今のこの生活は、少し戸惑いもあった。

何もかもが楽しく、嬉しく、これが幸せというものだと言うことを、私に強く知らしめていた。


「ほら、プログラムいじると楽しいだろ。」


何て事の無い物理演算のシミュレーション。

CGの玉が弾むだけ。

それに何かをぶつけて弾けさせる。

これを二人で見て楽しむだけ、それだけなのにとても楽しい。


「え~。じゃ、こっちのを右に動かしてみてください。」

「ん、じゃ、ちょっと待っててくれ。」


彼女は私の横に椅子を持ってきて座り、頭を僕の肩にもたれかけている。


「えへへ。」


彼女は、唐突に、だけど、意味も無く微笑んだ。


「なんだい?」

「いえ、何でもありませ~ん。」

「何だよ。しずく。」

「えへへへ。」

「ははは。」


たわいの無い会話。

でも、しずくと一緒にすると、時間が経つのを忘れてしまう。

気がつくと数時間経っているなんて事はざらだった。


重力子の応用について研究が進んだある日、生徒達との飲み会の席で、彼女に重要な話があるからと、研究室に呼んだ。


「どうしたんですか、先生?急に呼び出したりして。」

「しずくに見せたいものがあってね。」


私はヘッドギアを付けた。


「以前重力子の話をしたけど、ついに発見することが出来たんだ。」

「えっ!すごいっ!!!」

「重力子を発見しただけじゃなくて、それを応用させて、ものを動かすことが出来るようになったんだよ。」

「まっ、まさかっ!」

「ほら、見てごらん。」


私は、目の前にある本を中に浮かせて見せた。


「す、すごいですっ!何でこんな事が・・・。」


当たり前だが、彼女は非常に驚いていた。

私が、ちょっとしたエスパーになってしまったからだ。


「そして、これが次の魔法さ。」

「ま、魔法?」


私は机の上に出した携帯電話に集中すると、高校時代のネズミの解剖を思い出す。

すると、携帯電話がゆがんだ後、ネズミと携帯電話の融合体のような生命体が生まれた。

ネズミは数字キーを背中に埋め込んだ形になっている。

そのネズミはどこにも行かず、取りあえずその場所に動かずにいたが、明らかに「生きて」いる。


「・・・そ、そんな・・・こんな事・・・。」


生命体を生み出すのを見せた時、彼女は驚いているというより、恐れているような表情を見せた。

そして、全身が小刻みに震えているのが分かった。


「し、しずく?怖いのかい?」

「えっ?え、えぇ・・・。いえ、そんなことは・・・。」


震えた身体をそっと抱きしめていた。


「大丈夫、怖くないよ・・・?」

「な、何故でしょうか・・・、私は、何故怖いのでしょうか・・・。分かりません・・・。」


少し震えが収まった後、私は「あの計画」を雪ヶ谷しずくに話した。


「?!せ、先生・・・?!ダメですっ!そんな計画っ!!」


しずくは、再び震えていた・・・。

顔を下に向け、交差させた腕は、自分の両肩を掴んでいる。

目を少し大きくして何かを考えているようだった。


「そんなひどいこと・・・。だめ・・・、だめ・・・、だめだめ・・・。」

「し、しずく・・・。」


この研究は、自分でも想定できなかった方向に進んでいた。

計画は確かにひどいかもしれない、だが・・、だからこそ、彼女の同意が欲しかったのだ。


「君がいたからここまでこれたんだ・・・。」

「で、でもダメ・・・。そんなことしたら多くの人が死んでしまう・・・。」

「この発見で世界は変わる。付いて来られないんだ、多くの人間は・・・。」

「・・・だからって・・・だめよ・・・先生・・・、そんなこと・・・。」


しずくが離れていく・・・。

しずく・・・。

行かないでくれ・・・。


「ど、どこにも、行かないでくれ・・・。しずく・・・。」


行かないでくれ・・・。


「そんな怖い先生・・・嫌い・・・。悪魔みたい・・・。いや・・・。」


行かないでくれ・・・。


「しずく・・・、待ってくれ、しずくっ!!!」


行かないでくれ・・・。


行・か・な・い・で・く・れ・・・。


「えっ?!えっ!?せ、せん・・・せ・・・い・・・。ぐぶっ・・・。」


一瞬全てが凍ったのが分かった。

時間?

世界?

この研究室?

僕は何をしたんだ?

何を・・・?


「・・・悪いんだ。きみが悪い。私の言うことを聞かないから・・・。そうだ、悪いんだ。悪い子なんだ。私が、あ、ああ、悪魔?酷すぎるんだよ。ひと、人を悪魔呼ばわり、す、するなんて・・・。」


ただし、私は、この時の記憶がない・・・。

我に返ったのは、彼女を呼んでから1時間ぐらい経った後だった・・・。


そう・・・。

私は・・・、私は・・・、物質化した複数の太い針で彼女を串刺しにしていた・・・。

この時はこんな冷静に客観視できるような状態では無かった。

ヘッドギアを付けていたため、彼女への悲しみ、怒り、もどかしさが、混乱を生み出し、針として物質化してしまったのだ。


そして研究室の扉が開いて、誰かが入って来た・・・。


「戸越先生、しずくは来てる?今日さ、飲み会なんだけど・・・、あっ!!あ、あわ・・・、わあぁぁ・・・。」

「な、なにどうした??荏原?」

「ゆ、ゆゆ、雪ヶ谷がっ!!!なんでこんなっ!」

「し、死んでる・・・。」

「ま、まさか、せ、先生が・・・と、とと、戸越先生?!」


私は焦りったりすると昔からとんでもないことをすることがあった。

受験勉強をしている時に、自分の勉強がほとんど進まないため参考書をいつの間にか破り散らかしていたこともある・・・。


「な、なんだ。君達も、わ、悪い子かあ。そうかあ。悪い子たち、かあ、、しかたない。このヘッドギアを、た、試してみよう。そうだ、実験なんだ。これは。小さなじ、じけん、実験なんだ。ブツブツ・・・。」

「ぎゃあぁぁぁ。」

「せっ、せん、先生、やめろって!どうかしちゃったんじゃないか・・・ぎゃあぁぁぁ・・・。」


この時の「焦り」は、ヘッドギアを付けていることで取り返しがつかない状態になってしまった。

針による串刺し、人の大きさのようなナタにより切り刻んだりして、誰のとも分からない返り血でねっとりと自分が濡れているいるのだけが分かった。


放心状態の中、取り返しがつかない事への後悔という思考がグルグル回っていた。


何をした?

何をした?

さ、殺人をしてしまった・・・。

だ、大事な人を・・・。

し、しずく・・・。

ぼ、僕は何をしたんだい・・・?

目に見える恐ろしい光景を否定しても、消えるわけでは無い。

どこかに逃げてしまおう・・・。

そうだ、逃げてしまえば良いんだ・・・。

に、逃げて・・・。


膝をついてうなだれて私は頭を抱えていた。


「しずく、しずく・・・。僕は、何を・・・。」


だが、ぐちゃぐちゃになった目の前のしずくは何も答えない・・・。


「あぁ、あぁ、うわぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!!!!!」


研究室は僕の叫び声が響いていた・・・。


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