束の間の休息にて
救助活動に明け暮れる池上だが、波多野の気遣いで休みをもらう。
池上は、もう一度大学に向かう。
朝になって目が覚めたが、今日の救助活動は、午前中お休みということになっていた。
波多野さんが、休ませてくれたのだ。
僕は休まなくても大丈夫ですと、言ったんだけど・・・。
避難所の生活も慣れてきて、お互いに顔見知りとなり、あいさつをするようになってきている。
そして、それぞれの生活域にはダンボールの壁が出来上がっている。
僕は、お隣さんとの親しみと段ボールの壁との矛盾にちょっと苦しんだりした。
僕は、自分の「段ボール部屋」で天井を見上げてまた寝転んでしまった。
研究室の准教授、戸越が犯人だ・・・。
しかし、今どこにいる?
何とか手がかりを得なければ・・・。
「さあ、頑張らないとっ!」
「池上くんは元気だな。」
お隣で顔見知りになったおじさんが話しかけてきた。
「えっ、そうですか?おじさんも元気そうじゃないですか。」
「そうかね・・・。ありがとう。でも家も妻もなくしてしまって、どうしたらいいのか・・・。」
「元気出してくださいっ!命があるじゃないですかっ!!」
そうだ。
生きているじゃないか。
可能性はいくらだってある。
励ますつもりが自分への励ましにもなっていた。
「そうだな。ありがとう。頑張ってみるよ。」
「僕は大学に行ってきます。」
「うん、いってらっしゃい。」
通学みたいだ・・・。
もう何もないのに、これから授業にでも行くみたいに・・・。
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研究室の跡地に向かう途中には図書館があった。
と言ったって、こっちも跡地だ・・・。
ここで色々調べ物をしたっけ・・・。
しらばく歩き回ってみるが、瓦礫しかない・・・。
「ま、また女の子がいたりしないよな・・・。」
「池上君っ!」
びっくりした。
一緒に救助活動をした波多野さんが現れた。
いつ見ても頼れるお兄さんみたいな人だけど、急に声をかけてくるなんてらしくないなぁ。
「こ、こんにちは。」
「こんにちは。何をしているんだい?」
「思い出の場所なので・・・来てみただけです。何か残っていないかと思って・・・。だけど・・・」
「うん、そうだね。酷い状態だね・・・。」
「波多野さんは何をしに?」
「避難所に君に会いに行ったら、学校に行くって聞いてね。追いかけてきたんだよ。」
「えっ、あっ、そうですか。」
ま、まさか、また僕を倒しに来たやつらの仲間じゃないだろうな・・・。
いやしかし今までは女性だけだったし・・・。
は、波多野さんが?!
いや、何が起こるか分からない・・・。
「ど、どんなご用ですか?」
「君と・・・やろうかな、とね。」
「や、やる?!な、何をですか?!やっぱり仲間ですかっ??」
「仲間?仲間とは何だい?君とはもちろん仲間だよ、あはははっ。」
「えっ?いや・・・。」
「はは、一杯やろうというのは冗談だよ。聞きたいことがあってね。」
「一杯・・・?はは・・・。」
一杯やろうって言ったのか・・・。
「聞きたいことというのは何ですか?」
「なぜ君の研究室が狙われたか、ということなんだ。」
「研究室が狙われた?」
「そう。僕の推察したところ、今回の殺人事件は何者かが研究室を狙った犯行に思えてね。」
「・・・そうですか。」
確かに客観的にはそう見えるかもしれない。
研究室のメンバーは僕以外が死亡で壊滅状態。
何か特殊な研究をしていて、それが邪魔な組織が所属しているメンバーを証拠もろともすべて殺してしまった、と。
いや、すべてではない。
僕が生き残ってしまった。
「波多野さんも僕をその犯行グループだと疑っているんですか?」
「いやあ、それはないと思うよ。私見だけどね。」
「で、では・・・何です?」
「だから、何で研究室が狙われたか、ということなんだ。思い当たることはないかね?」
「思い当たることですか・・・。」
正直に答えようとは思うが、何も分からないじゃないか。
・重力子
・不思議な女の子たち
・死んだはずの戸越先生が生きていた
・そして僕の力も?
肝心なことが全く分からない。
ただ分かっているのは、戸越達は、秘密を知ってしまった僕の命を狙っているということ。
「な、何も分からないです・・・。」
「う~ん。何か特別な研究をしていたということはないかね?もしくは特別な発見をしたとか?」
「特別な発見をすると、殺されてしまうのですか?」
「いやぁ、その発見が誰かの利益を阻害するもので、邪魔だと判断されたのなら・・・もしかして・・・とね。」
「・・・。」
「または、その発見を盗むために誰かが潜入して、見つかってしまったから、研究室の人達を殺してしまったとかね・・・。」
特別な発見・・・。
そうか・・・、重力子!
それを戸越は見つけたんだ・・・。
いや、まさか、それが本当ならノーベル賞ものだ。
なぜ殺人を犯す必要が・・・?
みんなが秘密を知ってしまったと言っていた・・・。
それで殺したというのか?!
「うん、いやしかし・・・。」
「しかし?」
「君のことも心配なんだよ。。」
「僕が心配?」
「そうだ、もしかしたら、犯人たちは次に君を狙っているのではないか・・・。ということなんだ。」
「・・・は、はい。」
「犯人は、君が何か秘密を知っているのではないかと考えているだろう。」
「・・・。」
「そして、全員殺したかったのにも関わらず、たまたま君は休みでいなかった・・・。」
「・・・。」
「でも、不思議じゃ無いか。」
「・・・何がですか?」
「何故、君以外は、土曜日に研究室にいたんだい?」
「分かりません。何も聞いていませんでした。」
何度も尋問されたことだ・・・。
確かに不思議だった。
集まるなら、僕にも声をかけてくれるはず。
そんな冷たい奴らじゃない。
「研究をするために土曜日に来る人もいますが、僕以外が全員いたというのは未だに理解できないです。」
「う~ん、そうか・・・。」
金曜日の夜は、永原の家で飲み会をした。
警察からしたら、その日に僕が殺したのかもしれない。
だが、僕は翌日、朝から大家さんの部屋を片付ける手伝いがあったから、早めに帰ってしまった。
そして、自分の部屋に戻る時、大家さんと顔を合わせている。
翌日は、予定通り大家さんの手伝いをする。
アリバイが成立していたのだ。
波多野さんは僕が話した内容は全て知っているはず・・・。
なのに何を聞こうというのか・・・。
「君は、何かを知って・・・。」
波多野さんは、言葉を止めた。
「いや、そうだな。誰かにつけられているとか、不審者に出会ったとか、そういったことはないかね?」
「いえ、今のところは・・・。」
「そうか、それはよかった。だが、これからは十分自分の身に気を付けるんだ。何かあれば私を頼ってくれ。」
「・・・はい。ありがとうございます。」
波多野さんの優しさに少し胸が熱くなる・・・。
「すまなかったね。変なことを聞いてしまって、じゃあ私は署に戻るとしよう。」
「はい。」
「それじゃ、また。」
「では、また午後から手伝ってくれると嬉しいな。」
「はいっ!もちろんですっ!」
だけど、何でドキドキしてしまうのだ。
何もやましいことはやっていないのに・・・。
僕は、あの人なら信頼できるのではないかと思い始めていた。
いや、すでに一緒に救済活動をする中で信頼できると分かっている。
だが、実際に狙われている事実をどうやって説明すればいいんだ?
・時子
・ユウ
・シャーレ
・やまい
彼女たちと力を使って戦い、存在を消してきたと・・・?
・・・無理だ。
残念だけど、理解など得られない・・・。