警察署日誌04
大田大学五反田研究室殺人事件
大田警察署 波多野
しかしながら、被災地での一生懸命救助活動をしている池上君を見ていると容疑者と思えなくなってしまった。
こんなに優しい少年が殺人など犯すのだろうか。
しかし、発見者は彼しかいない。
何かを知っていないのだろうか。
ひとまず、これまでの経緯をまとめてみる。
7月14日
大田大学五反田研究室で准教授、生徒4人が死亡。
研究室所属の生徒は5人いるが一人が生き残る。
これが池上君だ。
同日
全員の死体を解剖して死因を調査。
7月20日
死因は不明。心筋梗塞ということになった。
7月22日
池上君を事情聴取のため任意出頭してもらう。
彼が犯人であることを前提にした事情聴取。
一方的すぎるが、何も分からない状態だから仕方ないのかもしれない。
事情聴取に当たっていた担当官は、その道の「プロ」だ。
ひどい問責だったろう。
同日
結局、池上君にはアリバイがあり、押送できなかった。
当日の午前中、彼は、アパートで大家の手伝いをしていたのだ。
その大家からも事情聴取したので、「白」となった。
それでも、担当官は納得していなかった。
何らかのトリックを使ったに違いないと疑っていた。
だが、我々は、これで完全に詰まってしまった。
9月10日
大田町を震源地とした地震発生
事件現場である大学は全壊。
警察署全員で救助活動に関わらざるを得なくなり、殺人事件どころではなくなってしまう。
池上君の素性は調べている。
小学校に上がるまでは両親と住んでいたが、突然、両親の行方が分からなくなってしまう。
身寄りがいなくなってしまった少年は東京の施設に預けられた。
小学校から高校生までの期間だった。
お金もない身のため進学するため猛勉強をしたらしい。
中学で優秀な成績を収め推薦枠で高校まで上がり、そのまま大学へ推薦入学までしている。
苦学生の上に、あの救助活動。
非の打ち所がない好青年だ。
殺人を犯したところで彼のメリットは何もない。
では、一体誰がこの事件で得をするのか?
同じ大学の別の研究室?
大学自体がこの研究室を疎んじて・・・?
いや、あり得ない。
大学へのマイナスイメージが大きすぎる。
自分たちにとっても不利益だろう。
この研究室の研究を邪魔しようとするどこかの組織?
これでは広がりすぎて手のつけようがない。
研究室の研究内容が分かれば何か分かるかもしれない。
避難所に彼はまだいるだろうか?
明日向かって聞き込むことにしよう。
それにしても彼の両親はまだ見つかっていない。
この点は、本件とは関係ないが何故か気にかかる。