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前編

 子犬の視点で話を進めています。

 ボクが生まれたのは、キクとコスモスのニオイがしているとき。

 風は熱くて、空気も熱くて、ママがボクらのために地面を掘って、ひんやりした穴に置いてくれた。地面が温まると、また別の所を掘って、ボクらを咥えて運んでくれる。

 ママが咥えてくれるのが嬉しくて、ボクは手足をバタバタさせた。すると、ママはボクを落っことして、「危ないでしょ!」と、めちゃくちゃ怒られた。だから、次からはバタバタするのを一生懸命ガマンしたんだ。キューキュー言っちゃうのは、ガマンできなかったけれど。

 兄弟は、ボクを入れて5。男のコは、ボクを入れて3で、女のコは2。ボクは4番目に生まれたから、ママからは「シロー」って呼ばれてる。

 上から、「イチロー」、「ジロー」、「ミミ」、ボク、「イツミ」。

 生まれて、ママがボクが入っていた袋を破ってくれると、世界のいろんなニオイがボクの鼻いっぱいに入ってきた。袋から出て、体中をママにぺろぺろなめてもらって、すぐにボクはママのおっぱいに向かって行った。甘くて優しい香りに向かって。

 よろよろ歩くと、温かい何かを踏んづけた。

「痛いな!」

 だけど、ボクはかまわずにママのおっぱいへ。

「ここはオレの場所だ。あっちいけよ!」

 ママのおっぱいには別のコ(ジロー)が吸い付いていた。仕方ないから別のおっぱいへ。

「じゃま!」

 次のおっぱいは、また別のコ(ミミ)が。ボクは隣のおっぱいへ向かう。そこはまだだれも使っていないおっぱいだった。ボクは初めてのママのおっぱいに吸い付いた。

 一生懸命吸い付いた。でも、なかなか出ない。

「ん~~!!」

 もう一回がんばって吸い付いた。ちょっと出てきた。初めての甘いママのミルク。初めての味。がんばって吸うけれど、あんまり出てこない。必死で吸う。隣のコ(ミミ)は美味しそうに飲んでいる。ボクも一生懸命飲む。

 他の兄弟たちが飲み終わっても、ボクは飲み続けていた。そんなとき、ボクの足を踏むコがいた。最後に生まれた「イツミ」だ。イツミはキュウキュウ鳴きながら、ボクの隣のママのおっぱいに吸い付いた。

 ママはボクたちが生まれてから、ボクたちを舐めるか、ボクたちを咥えるか、おっぱいを飲ませてくれるか忙しそうだ。ボクたちはママの取り合いをして、いつもママに怒られた。

「兄弟仲良くしなさい。頼れるのは、兄弟だけなのよ。」

って。ママの言う意味はよく分からなかったけれど。

 ボクたちが生まれてしばらく経った頃、二つの聞きなれない音と、ママとは違うニオイが二つ近づいた。

 一つは少し高い声で、もう一つはちょっと低い声。

 その二つの声が近づくと、ママは小さく鳴いた。

『☆◇△♪』

 高い声の方が、ママとボクたちをなでた。ママはしっぽを振って、「大好き。」って言った。だから、敵ではない。ボクたちもよちよち近寄ると、代わる代わるなでてくれた。その手は温かくて、ボクたちはも大好きになった。

『■▲◆!』

 もう一つの声が何か言った。そして、ママをなでた。でも、ママは「そんな・・・・・・。」と言って、悲しそうに鳴いた。なんでママが悲しそうなのか分からなくて、ボクたちはママにすりすり近寄った。

 ニオイが近づいて、ボクたちはなでてもらおうとよちよち近づいたけれど、なぜだか、どんなに近寄ってもなでてもらえなかった。

 ミミやジローがキュウキュウ鳴いたけれど、なでてもらえなかった。代わりに、高い声が近寄ってきた。でも、それもなでてくれなかった。

 ママは寂しそうに鳴いていた。その理由は、あとで分かったけれど、その時のボクたちはただただなでて欲しくて、ニオイを追いかけていた。


 ママのミルクは甘くて、毎日一生懸命飲んだ。でも、ボクは4番目だから、おっぱいはちょこっとしか出なくて、イチローやジローより体が小さくて、歩くのも走るのもかみ合いじゃれ合いもいつも負けていた。

「シローはシローだから。体が小さくても勝てる技を見つけなさい。」

ってママは言うけれど、まだ勝てない。

 だって、まだまだボクたちの世界はまっくらで、ニオイを嗅ぎ分け覚えるのも勉強。兄弟とじゃれ合うのも勉強なんだ。

 一番小さい末っ子のイツミは一番負けん気が強くて、一番大きいイチローが一番のんびり屋さん。ジローは口も手も悪いから、今のところ、ケンカはボクは負けっぱなし。ミミはちょっとツンツンしているけれど、誰よりも兄弟を気にかけてくれている。

 ボクたちもだんだん個性が出てきた。行動範囲もだんだん広がって、うろちょろするボクたちをママがあわてて探して、咥えて、ボクたちを集める。でも、しばらくすると、まただれかがうろちょろして、ママが探して、の繰り返し。時々、ママから離れたところで寝ちゃって、寝たままママが咥えて運んでくれることも。

 ボクはママが運んでくれるのが嬉しくて、寝たふりするんだ。でも、ついつい嬉しくてキューキュー鳴いちゃって、ママにうそ寝が分かっちゃうんだけど。

「シローは甘えんぼだね。」

 そう言って、ママは笑ってボクをペロペロ舐めてくれる。くすぐったくて、嬉しくて、キューキュー鳴き声が止められない。すると、

「あ、ずるい!」

「ぼくもぼくも!」

と、兄弟が近寄って来て、あっという間にママを独り占めの時間は終わってしまった。

 兄弟に負けないように、兄弟を押しのけ、ママ争奪戦。しばらくはママは笑っていたけれど、

「こら!いいかげんにしなさい!」

 ママの雷が落ちた。でも、そんなことにひるむようなボクたちではないのだ。


 毎日のように、高い声のニンゲンはやってきた。

 ママは「かなちゃん」と呼んでいた。

 かなちゃんは、ママをなで、ボクたちをなでたり抱きしめたりする。ちょっとだけミルクのニオイがするかなちゃんは、ボクたちにとってはちょっとだけ怖かった。なぜなら、足だけで持ち上げたり、軽く叩かれているような なで方だったりして、ちょっと乱暴なんだ。でも、声が優しいから、ボクたちはかなちゃんが来ると嬉しくなって、ついつい近寄って行っちゃうんだ。

 もう一人のニンゲンは、「おかあさん」ってママは呼んでいた。お母さんが来るとママは尻尾をいっぱい振って喜んでいる。お母さんはママをなでているけれど、絶対にボクたちには触れようとはしない。いいニオイをさせて近寄って、ママをなでる。ママは喜んでいるけれど、ボクたちがどんなに近寄っても、このニンゲンは絶対になでてくれない。

 ミミやイチローは

「いいニオイをさせているニンゲンだもの。きっといいニンゲンだよ。」

っていうけれど、ボクはそう思えなくて。ミミやイチローはすり寄っていくけれど、ボクやイツミは近寄らなかった。


 ある日、イチローは

「外の世界は明るいよ。」

と言った。イチローはようやく目が開いたらしい。明るいって何だろう。まだ目が開かないボクたちも、昼と夜の違いは分かる。でも、いいな、イチロー。ボクも早く外の世界を見てみたいよ。

 イチローの次にはミミが。

 ミミの次にジローが。

 だけど、ボクとイツミの目はまだまだ。

 イチローとイツミは体の大きさが倍ほども違って、イツミもボクも一生懸命ママのおっぱいを吸っているのに、ボクとイツミのところのおっぱいはちょびっとしか出ないから、いっぱいは飲めない。イチローと体の大きさが違うのは仕方ない。でも、ジローがボクのことを「ちびすけ」って呼ぶのは許せない。

「ちびすけはまだ目が開かないんだ。ちびすけだから、仕方ないよな。」

ってばかにするから、最近はいつもジローとケンカになってしまって。

「ジローもシローもやめなさいよ!」

ってお姉さん風吹かせるミミにもいらだって、ミミも巻き込んでケンカして。

「もう!やめなさい!」

と、ママの雷でケンカが終わる。

 最近はずっとそうだった。

 なかなか外の世界が見られなくて、ボクがイライラしていたんだよな。

 ジローがイジワルなのも悪いんだけど。


 そんなある日、目の辺りがなんだかかゆくて、カシカシかいていた時、遠くからお母さんの足音が聞こえてきた。

 おかしいな。ママのごはんなら、いいニオイがするはずなのに、今日はお母さんのニオイだけ。

 ミミとイチローは、嬉しくて、クンクン鼻を鳴らしながら近づいて行った。ボクはママのそばから離れず、目の辺りをカシカシかいていた。

 ミミとイチローが近寄っても、お母さんは足を止めなかった。そのまま、ママのところにやって来た。

『ごめんね、ルル。』

 お母さんはママの前にしゃがんで、ママの頭をなでながら何度も言った。

 ママは悲しそうな鳴き声を一つ上げて、座り込んだ。

 ボクはママのおっぱいを飲もうとして、ママのお腹にもぐりこもうとした。その時、急につかまれて、何か初めての場所に入れられた。

 そこは、ママのニオイもなく、かさかさしたところだった。

「きゃ!」

 ボクの次にイツミが小さい叫び声をあげて入ってきた。その次にジローが。

「なんだ!なんだ!」

 ジローが珍しくあわてていた。カシカシと爪で削ろうとする音が響いた。イツミもボクも一緒になってカシカシと爪で削ろうとする。そこへミミとイチローも入ってきた。

「いたい!いたい!」

 ミミが足を踏まれて、キャンキャン叫んだ。

 がたんと大きく揺れたあと、今度は小さくゆらゆらと揺れて動いた。じっと立っていられなくて、あっちへこっちへと、だれかとぶつかっていた。

「イチロー!ジロー!ミミ!シロー!イツミ!」

 ママが遠吠えをした。ママの声が少しづつ遠くなっていく

「ママー!」

「ママー!ママー!」

 口々に叫ぶ。ボクもママを呼んだ。だけど、ママの遠吠えはどんどん遠くなり、ボクたちがいる場所がカタンという音をたてて揺れなくなって、その後にバタンという大きな音がしたら、ママの遠吠えはすごく小さくなった。

 キュルキュルと、いつもは遠くで聞こえる音が、今は間近で聞こえ、ブルンと何かがうなり声を上げた。そのあと、カタンと揺れた。うなり声の向こうで、ママの声がかすかに聞こえた。

 それが、ママとの別れだった。


 うなり声がしばらくした後、突然止まった。そのあと、バタンという音が二度して、またボクたちがいる場所が揺れた。

「何か、変なニオイがする。」

 ミミがクンクン鼻を鳴らしていう。ミミの言葉に、兄弟みんな鼻をクンクン鳴らした。確かに変なニオイがする。

 ジローが足元をカシカシ削っていると、冷たくて硬い物がボクたちのいる場所に置かれた。イツミがクンクンニオイをかぐ。

「ちょっとだけ、甘くていいニオイがする。」

 うっとりした声でイツミが言うと、イツミはそれをかじった。

「硬くてかめない!」

 イツミは怒った声で、それを爪でひっかいた。イツミの爪が当たると、それはカンカン聞いたことのない音がした。

 甘いニオイと聞いて、イチローもイツミと一緒に爪でひっかいた。でも、それは破れることなく、カンカン音がするだけだった。

 ボクたちのいる場所は狭くて、だれかが動けば、だれかの足を踏んでしまって、ケンカになっていた。日差しはさえぎられていたけれど、暑いところで、そのうちみんなは冷たくて硬いものに触れるように、そして体のどこかを兄弟にくっつけて、眠った。

「・・・・・・ママ・・・。」

 だれかが寝言でママを呼んだ。すると、ボクもみんなも寂しくなって、寝ぼけながら、ママを探した。ボクたちがいる狭い世界では、ママのニオイのするものは何もなかった。

「ママ・・・・・・。ママ・・・・・・。」

 いつもはお姉さんぶっているミミが、半べそになっていた。

「ママ・・・。」

 いつもいばっていたジローも、小さくつぶやいた。

 ボクはさみしくて、ママに会いたくて、お腹がすいて、キュウキュウ鳴いた。つられてイチローもキュウキュウ鳴いた。みんな、ママに会いたくて鳴いた。鳴いたらママが迎えに来てくれるんじゃないかと思った。・・・・・・でも、どんなに鳴いても、ママは来てくれなかった。


 日が傾き始めて、ボクたちのいるところに日が入って暑くなった。でも逃げ場はなくて、少しでも影になるところに移動する。だんだんみんな、口数が減ってきた。お腹もかなりすいて、一番小さいイツミは元気がなくなった。

 相変わらずボクの目の辺りはかゆくて、後ろ足でかく。と、必ず誰かにぶつかって怒られた。でも、ケンカする元気もなくて、すぐみんな黙っていった。

 ふいに、遠くから色んな音がした。色んな足音と、たくさんの声。カタカタという音。

「かなちゃん?」

 イチローがキューキュー鳴いた。かなちゃんはボクたちが鳴くと、ちょっとだけ乱暴に、でも優しく抱きしめて、撫でてくれる。

「かなちゃんなの?」

 ミミもキューキュー鳴いた。かなちゃんなら、ママのところへ連れて行ってくれる。みんな一生懸命キューキュー鳴いた。

「かなちゃーん。」

 ジローも鳴いた。

『何か、音がしない?』

『うん。聞こえる。』

 かなちゃんとは違う声がいくつか聞こえ、足音が少しづつ大きくなってきた。

 ボクたちはかなちゃんに、ママに会いたくて、キューキュー鳴き続けた。

『どこから聞こえる?』

『えー。どこだろう。』

 音は大きくなっているけれど、ボクたちの近くには来ない。

『なになに?どうしたの?』

『何か音ってか、鳴き声みたいなのが聞こえるんだけど、どこか分かんないんだよ。』

『鳴き声?』

『そう。』

『聞こえる?』

『聞こえるけど、どこかな。』

『そこの川、とか?』

 カタカタという音と足音が増えて、大きくなった。でも、また少し小さくなった。

『川にはいないみたい。』

『うーん。どこから聞こえるんだろう?』

 ボクたちは一生懸命鳴き続けているけれど、なかなか見つけてもらえない。

 だんだん疲れてきた。イツミはだんだん声が小さくなって、鳴くのをやめた。ボクもお腹がすいて、鳴くのをやめた。

「かなちゃーん、かなちゃーん。」

 イチローが一生懸命に鳴く。ジローも負けじと鳴く。ミミは疲れたみたいで、鳴くのをやめた。

『どこ?』

『まさか、ここ?』

 キィっと全身の毛がぞわっと逆立つような音がして、足音が近づいた。

『いた!ここだ。』

『うそ!ゴミ捨て場に!?』

 大きな声が響き、ボクたちのいる場所が揺れた。

『何でこんなところに?』

『誰かが捨てて行ったんだ。かわいそう。』

『ゴミ捨て場って、子犬は生ゴミじゃないのに。』

 ボクたちの周りで大きな声がいくつも聞こえた。でも、その中には知っている声はひとつもなかった。

 急にボクは持ち上げられた。びっくりして怖くて、ボクはキューキュー鳴いた。

『この子、まだ目が開いてないよ。』

『ホントだ。』

『まだお母さん犬のミルクしか飲めないときに、クッキー缶入れたって、この子たち、食べられないのに。』

『捨てていった人、ひどいよな。』

『うん。』

 ボクは足をバタバタさせていたら、その子に優しく抱きしめられた。かなちゃんとは違うニオイがした。

『どうする?』

『どうする、って言ったって。うちは飼えないよ。』

『私も。お母さんが犬嫌いだしなー。連れて帰れないよ。』

『五匹全部ってのは無理だけど、一匹なら飼えるかも。』

『うちはもう犬がいるしなー。もう一匹は無理かも。』

『どうしようか。』

『でも、このままここには置いておけないよね。』

『うん。かわいそうだよ、ゴミ捨て場に置いとくなんて。』

『そうだよね。』

『こんなにかわいいのに。』

『でも、連れて帰れないよ。』

『・・・・・・どうしよう。』

 かなちゃんよりは低い声が全部で五つ。そのうちの一つは、ボクを優しく撫でながら言っていた。

『おーい、どうしたんだ?』

『ここにね、子犬が捨てられていたんだけど、飼えない?』

『子犬?』

『どれどれ?』

 お母さんより低い声が三つ、近寄ってきた。

『おー、かわいいじゃんか。』

 その声の一つがイチローを持ち上げた。イチローはキューキュー鳴いた。

『こいつが一番大きいな。』

『こっちのが一番元気みたいだぜ。』

 ジローはしっぽを目いっぱい振っていた。しっぽを振る音がブンブンしていた。

『俺んちなら、こいつ飼えるかも。オスだし。』

『一番大きいやつ、俺、持って帰ってみる。もしかしたら飼えるかも知れないし。』

 低い声の二つはイチローとジローを連れて行ってしまった。

「イチロー!ジロー!」

 ミミが呼んだ。

「ミミ!シロー!イツミ!」

「ジロー!」

 イチローとジローの声はどんどん小さくなっていった。それと一緒に、足音が三つ、少しづつ小さくなっていった。

『あと三匹か。』

『どうしよっか。』

 五つの声が急に聞こえなくなった。でも、その間もボクをなでる手は気持ちよくて、ボクはつい、ウトウトしかけていた。

『・・・・・・私、こっそり持って帰ってみる。』

 ボクをなでている子が小さく言った。

『大丈夫なの?ゆきちゃん。』

『・・・・・・大丈夫じゃないけど、でも、ほっとけないし。』

『そりゃ、そうだけど。』

『強硬手段ってやつ?連れて帰ったら、返してきなさいとは言わないでしょ。』

『でも、もし言われたら?』

『その時は・・・・・・どうしよう・・・・・・。』

 うーんとうなって、その子はボクをなでるのを止めた。

『ゆきちゃんとこのお母さん、怖いの?』

『うん。怒ると怖い。』

『それじゃあ、置いてく?』

 そう言われて、その「ゆきちゃん」はもう一度うーんとうなった。そして、半分寝ていたボクを持ち上げて、

『・・・・・・お母さんを説得する。だって、かわいそうだもん。』

と言って、ボクをぎゅっと抱きしめた。びっくりして苦しくて、ボクはジタバタ暴れたけれど。

『じゃあ、あと二匹か。』

 ボクたちがいたところには、ミミとイツミが残っていた。

『このこたち、どうする?』

『どうするって言われても、私たちは無理だし・・・・・・。』

『そうだよな~。』

 五つの声がほぼ同時にうーんとうなった。

 ゆきちゃんはボクをなでながら、『どうしようか・・・・・・。』と小さくつぶやいた。

 ミミとイツミが不安そうにキューと鳴いた。

『・・・・・・小学校に連れて行ってみようか。』

 一つの声がそう言うと、

『それがいいかも!』

『うん。大丈夫だったら、学校で飼えるし。』

『じゃあ、今から連れて行ってみる。』

 ミミとイツミがいる場所がカタンと音を立てた。と同時に、ミミとイツミが小さく叫んだ。

「シロー!」

 ミミがさみしそうに鳴いた。

「イツミ!ミミ!」

 ボクも鳴いた。

 イツミたちがいる場所の中で「クッキーの缶」がカタカタ音をたてて、足音と一緒に小さくなっていった。

『さて、一緒に帰ろっか。』

 ゆきちゃんはボクをなで、だっこしてゆっくり歩いた。ゆきちゃんのトクントクンという音が次第に大きくなっていった。



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