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汗を垂らしながら2人が私達のいる高台のようなところまで上がってくる。
小日向先生は機械をいじり終わると2人に取り出したタオルを渡した。
「二人共お疲れ様。春日井さんも、1番疲れたんじゃないかしら」
同じサポーターとしての立場で話してくれているのか、同じ経験があったみたいなノリで小日向先生は笑った。
「あ、私のサポート……まだ全然出来てなくて、迷惑かけてすみませんでした……」
伊坂先輩の最後の的。柊先輩のスタートのタイミング。
まだまだ上げたい点はたくさんあるけど、まずこの二つがミスとしては目立った。
私でも自覚しているのだから、普段はちゃんとしたサポーターについてもらっている2人なら私の失敗なんていくらでも挙げられるだろう。
「こちらこそ、いきなり頼んで緊張したよね、ごめんごめん。でも、むちゃぶりだったにも関わらずこの結果なら凄いと思うよ」
「そーそー。俺もやっぱ射撃まだまだ未完成だし、もっと練習しないとだな」
二人して慰めてくれて、つい恥ずかしくなってしまった。
後ろからゆづや圭ちゃんも歩いてきて、ゆづが早速くいついた。
「2人の走りと射撃凄かったっす!やっぱり早くオレも走りたいです!」
苦笑する私の横に圭ちゃんが立って、耳打ちするようにこそこそと話しかけてくる。
「悠月も、ちゃんと伊織のこと褒めてたからな。今はただ二人の走りに釘付けになってるだけでさ」
「あはは……。ありがとう、慰めてくれて」
そういうわけじゃない、と小さく圭ちゃんの声が聞こえるが、その声はゆづの興奮した声にほぼかき消されてしまった。
本当にはしゃぐと一気に幼く感じる。
「じゃあ、次はランナー2人の身体能力検査するからね」
柊先輩のその言葉にゆづはまた大きく反応し、圭ちゃんはぴくりと眉を動かした。
「まずは射撃能力を調べるよ。シューターとしての腕も大切だからね」
「なんていったって、点数が高い方が勝ちなんだからな」
ここは射撃特訓部屋。
普通に思い浮かべるような壁の向こうに的があるような物じゃなくて、この部屋は360度的が張り付いている。
大きさも様々で、見方によっては目のようで気持ち悪い部分もあった。
入るとすぐにまたドアがあって、その向こうに射撃室がある。
今いるのは的を定めるために機械をいじる部屋だ。
大きなガラスの向こうにその部屋があって、ゆづはその窓に張り付いていた。
「普段こんなところで練習してるんすね……!」
「早く撃ちたいと顔に書いてあるぞ」
圭ちゃんの的確なツッコミにもゆづはえへへと照れ笑いを浮かべるだけで今は向こうの部屋に意識が向いているようだった。
「その部屋に入ってしまえばもうこっちの声は機械からしか聞こえなくなる。じゃあ最初はどっちからやる?」
「俺、やっていいですか!?」
この場にいる誰もがそう言うと思っていた。
もちろん手を挙げたのはゆづで、圭ちゃんも元から譲るつもりだったようだ。
「じゃあ橘君、頑張ってね」
スタガンを手渡して、柊先輩はにこりと笑った。