染まる
「そこの僕、どうしたの」
茶色に統一したスーツに身を包み、洒落たハットに軽く手を添えて腰を落とす初老の紳士。目線の先にいるのは、しゃがみこんで水草の生い茂る水溜をじっと見つめる、みすぼらしい格好の小さな少年。ところどころケガをしていて痛々しいが、当人は平気そうにして真面目に水面に視線をそそぐ。
「ここのアメンボさんは、赤くないんだなあって」
おかしいね、と首をかしげる少年に、少し知識のある紳士は首をかしげる。このあたりのアメンボは黒いものだ、赤褐色のものは生息地が異なる。
この子は一体どこで見かけたのか、どこから来たのか。紳士が口を開きかけたと同時に少年は立ち上がる。その時、彼の思考のすべてが止まった。
ビシャッ、と水がはね、ドプンと何かが沈む音。次第に漂う金属臭。あたりに響きわたる数々の悲鳴をものともせず、少年は再びしゃがみ、水溜をただ眺める。やがて平静を取り戻した水面に広がる赤色の中に小さな波紋を見つけ、返り血をあびた頬をゆっくりと持ち上げにやりと笑う。
「ほら、やっぱりアメンボさんは赤いんだよ」
Fin.
どうしてこうなった、と頭を抱えております。